第2話



「素直でないなぁ、あのオジサン。それにハスラムの営業用の話し方も、嫌だ!」

 ぶつぶつ言いながらオリビエは、研究原料を並べた棚をいじっていた。

 あの後、盗み出した魔術書を出せと言えば、悪態をつかれた。

「この屋敷のどこかにある、勝手に探せ!」 と。

 最後のあがきだが、こちらはたまらない。

 広範囲だった。私室から研究棟に出来上がった泥人形置き場など。

 オリビエは比較的に安全な場所をあてがわれた。

 性格を熟知しているハスラムの判断で。

 オリビエは好奇心で身体ができているのではという、性格だった。

 魔術に興味はあるが、習う気はない。けれど、魔術は面白いと思っている。

 高度な魔術に関わる資料にそれを具現するための材料が多々ある場所、オリビエにとって、楽園だった。

「けど、優しいよな、オレにはきついのに」

 力づくで在処をはかせても良かったが、これからの魔導協会での牢獄生活は、酷だとハスラムが考慮し、この地味な作業になった。

「あ、この棚って色々な薬草があるんだなぁ」

 並べられている瓶の中身の殆どは茶色くなってる植物。形も原型を留めている物もあれば粉末にされている物もある。

「あっ! これって、スグリだよな」

 次の棚を見れば、並べられている物が変わっていた。

 さっきまでと違って色がある。くすんでいるが。

 その中の一つ、赤黒くなった小さなものが半分ぐらい入っている瓶を取り出した。

 蓋を開けるや大好きな匂いが鼻をくすぐる。

「乾燥させるとこうなるのか、どんな味がするんだろう」

 いつもは木になっているのを直に採るか店で買うかだった。

「大好物なんだな」

 鼻歌まじりで瓶から一つまみ取り出し、口の中に放り込んだ。

「おいし……あ」



「チッ! こっちの部屋にはないなぁ。しかし、悪趣味な部屋だ。泥人形の形を作るのに参考にしていたのか」

 名だたる魔物の標本だらけだった。

 気味が悪い。

 生きて動いてくれている方が危険だがマシだと思う。

 フェリオは、うんざりして出てきた。

「びぇーーーん!」

 廊下に出るや、甲高い子供の泣き声が聞こえる。

「子供がいるのか? ……もしや……」

 今気味の悪い部屋から出てきたことろだ。嫌なことを想像してしまう。

 これから標本にするために飼っている魔物が泣いているのか。

 ここに子供がいるとは聞いていない。

 だが、今も聞こえる泣き声、本当に人間の子供かもしれない。そう、隠し子ということもある。

 いろいろな憶測が頭の中を交差したが、覚悟を決めて泣く声のする部屋の扉を開ければ、ぶかぶかの服に中型の剣を重たそうに抱えて泣きじゃくっている女の子がいた。

「かわいい、じゃあなくって」

 やはり隠し子か? すぐに入ることができず廊下から中を見ていると、ハスラムがやってきた。

「子供の泣き声がするけど」

 どこか慌てた様子があった。

 滅多なことではこんな態度を見せないハスラムだが。

 自分たちにも知らされていない機密事項なのか、あの子は! と構えてしまう。

「そうなんです」

「オーリー!」

 ハスラムはフェリオを押し退け、警戒心のかけらもなく女の子の元へと駆け寄る。

「オリビエだって?」 

 うそ! と叫びたいのを我慢し、凝視する。

 そうだ、この部屋はオリビエが担当していたのだ。



「ライザおばちゃんだ! ここどこなの?」

 ハスラムを見るや女の子は飛びつく。

「お花の香がしない……、お薬みたいな匂いがする、おばちゃん胸が固い! どうしたの?」

 抱き上げられ甘えようとしたが、あまりの違いに驚く。

「かあさんを知っているんだ。やっぱりオーリーだ」

 嬉しそうにほほずりを始める。

 オリビエとハスラムは幼馴染で、二人の母親は親友だった。

 ハスラムの母親譲りの傾国の美女ばりの美貌を知っていた。

「おばちゃん声も変だ!」

 ハスラムの顔を両手で押しながら泣きそうな声できく。

「オレはハスラムだよ」

「……嘘だ! おじちゃんがハシュラムなはずないよ!」

 暴れ出したので下すと逃げ出した。

「おじちゃんはないだろう。オーリーが何が原因か判らないけど、子供になってしまったんだよ」

 襟首をひょいとひっつかみまた抱き上げた。

 誰もが見ほれる微笑み付きで。

「あたしが? そこのお兄ちゃん! 本当にこのおじちゃんがハシュラムなの?」

 唖然とこの様子を見ていたフェリオに泣きながら、助けてとばかりに手を出していた。

「え、そ、そうだよ」

 この展開。

 フェリオはこう答えるのがやっとだった。

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