第4話 あいみての...

 期末が終わって、もうすぐ夏休み...てところで、職員室にお呼び出し。

 まあ、期末の定例イベントなんだけど、さ。




 俺はもともと勉強が好きな方じゃないから、まあ成績はいつも通り。


「どうして君はこう落差が激しいのかねぇ......」


 溜め息混じりに成績評価と俺の顔を交互に見比べているのは、担任の立花。

 担当の教科は物理。まぁまぁ俺の得意科目だ。ちゃんと平均点以上は取ってる。


「理系はほぼ満点近いんだけどなぁ......」


 だって俺、理工学部志望ですもん。就職するにもその方が有利でしょ?


「英語はよし......。現国はまぁなんとかなるが」


 立花#先生__さん__#、モジャモジャの頭を掻きながら、上目遣いで俺をジトーっと睨む。


「この壊滅的な古文と日本史はなんとかならんのか......。毎回追試じゃ、困るだろ」 


「いや、別に......。入試には影響無いですし」


 昔の事なんか知らなくても生活には困らないしね。


「お、ま、えは......日本人だろうが、自分の国の文化くらい身につけんでどうする!?」


 背後からなんか冷気が......。いきなり寒気がしてるんですけど。あれ、立花先生、顔色が悪い.......ですよ?


 そーっと後ろを振り向くと、強面のイケメンが仁王立ち。


「ったくお前は、日本を舐めてんのか!?」


 雷みたいなデカイ声で吠えるの止めて。


「まぁまぁ、平野先生、落ち着いて......」


 そうそう、落ち着いて。平野将先生。先生の日本史愛はわかるけどさ。これからはグローバル、国際化の時代だよ?

昔、ダサい鎧とか着て刃物振り回してた時代のことなんか忘れたいよね?


「本当に日本人にあるまじき生徒ですな」


 おわ、ブリザードがダブルになった。古文の小野崎乱入。俺の背後が局地的氷河期になってます。立花先生、助けて。硬直している場合じゃないでしょ。


「ま、とりあえず、休み明けに追試な。......補習の相談は先生達としてくれ」


 え、ちょっと待って。立花先生逃げるの?

 止める間もなく、そそくさと職員室から出ていく担任。

 

「えっと、その......」


 辺りに目をやっても職員室の中には、小野崎と平野と俺......だけ。

 えっと、この状態は、慣用句で言うところの


「前門の虎、後門の狼ってやつだな」


 て、俺を睨み付けながら、ジリジリ寄ってくる平野先生。近い近い、近すぎますってば。


「#篁__たかむら__#、子孫を甘やかし過ぎではないのか?これで役に立つのか?」


 え?先生、今なんて......?


「そう言うな、将門。これからみっちり仕込む」


 え?あの......将門って?

 また、ふぉんと空間が歪んで、髭面の怖い顔したおっさんが目の前に......。


「あの、先生.......将門って?」


「ワシは#平将門__たいらのまさかど__#じゃ」


 うっそぉーーーーーー!


 なんで#平将門__たいらのまさかど__#さんが?


「お前の『役目』の手伝いに赴任してもらったのじゃ。そのボロクソな日本史の知識では御霊に激怒されて殺される」


 そ、そんなの嫌です~。

 まだ彼女も作ったこと無いのに。


「てことで、みっちり補習してやる。.......家庭教師も付けてやるから、安心しろ」


 小野崎先生、いやご先祖さま、嫌な予感しかしないんですけど......。


「大王さまが、冥府から牛頭と馬頭を派遣してくださるそうだ」


 えーーーーーーっ!!



 そうして、俺の地獄の夏休みは始まったのでした。トホホ......。







ーあひみての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけりー

(藤原 敦忠 百人一首第43番『拾遺和歌集』)


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