第13話『あまりにもリアルな死体役』

「ねぇ今蒼空そらなんか言った? 言ったでしょ」

「言ってないよ。空耳だって。蒼空だけに」

「凄い。怖い反動であんま面白くないはずなのに面白く感じる」

 悪かったな。面白くなくて。

 まぁここはお化け屋敷だ。入る前とはいえった外見の雰囲気もさることながら、その怖がりようでは空耳の一つや二つ聞こえるだろう。

 まぁ僕としては性的接種の方が怖いがな。グロテスクさならゾンビにも負けず劣らずだ。


※ここから若干ホラーシーンに入ります。苦手な人は次の話へお進みください。


「それでは、部屋にお入りいただけましたら、正面のモニターにこの廃病院の怪談をまとめた映像が流れます。そちらをご覧になってから部屋を出ていただいて、こちらの廃病院の地図を頼りに、一階の出口を目指してください」

「はい」

「は、はいぃ」


『私たち「怪異研究所」の元に、この廃病院を調査してほしいという依頼がきた。どうやら、この病院は怪奇現象が多発しているらしい。私たちは、本日一度目の調査を開始する。現在二階を探索中。一階では目立った現象は起こらなかった』

『ここは…「第二手術室」です。最も現象の目撃証言が多かった場所ですね。開けますよ』

『あ、あぁ』

『中に入るとそこはとても汚かった。手術室というよりは実験室。そこかしこに実験道具が転がっている』

『所長。こんなものが』

『なんだい。これは…うぉっ!』

『所ちょ…!』

 画面を砂嵐が覆ったが、すぐに切り替わる。

『これを見ているみんな。僕は所長の息子だ。父さんはこの病院に調査に行ったっきり帰ってこなかった。後日、警察が父さん達を捜索してこの病院に入った時、今の映像が記録されたビデオカメラが見つかったんだ。どうか頼む。他にも父さん達の手がかりを見つけてほしい。でも、例の「第二手術室」は危険だ。絶対に入らない方がいい。そこ以外の場所で何か見つかったら教えてほしい。頼んだよ』

「いや、帰る。手術室だけじゃなくてどこもかしこも危険だよ!」

「ここまできたらもう引き返せないよ」

「…お、お願いだから一人にしないでね!」

「もちろん」

 映像のせいで涙目な菫に僕は優しく微笑んだ。


1F

「こっちが、出口なんだけど…」

「な、なに? 何か出たの? 死んでも守ってね! お願いっ!!!」

「何も出てないよ。だから目を開けよっか。僕が言いたいのは、天井が落ちて道が塞がってるせいで、ゴールまで行けないってこと」

「それで?」

「すぐ近くと、出口の近くにも階段があるから、二階に行って向こうに降りることになりそう」

「ほら! 分かってたんだから。一階スタートで一階ゴールなんて、簡単すぎると思ってたんだから。絶対手術室通らされるじゃん!!」

「よっ、一級フラグ建築士」

「だ、黙れ〜っ!」

 僕が煽ると菫は背中をポカポカと叩きだした。痛いです、菫さん。


階段 1F-2F

「階段くらい目開けないと危ないよ?」

「背に腹は変えられない。おんぶして」

「おんぶ?」

「うん。お願い。わたしの体触り放題だよ?」

「あいにく、アセクシャルにその手の交渉は通じないよ」

「じゃあ、目開けるよ。何もないね? 何もないんだよね?」

「うん」

 ぱちっ←開かれる瞳。

 ヒラっ←どこからか落ちてきた紙。

 ペタッ←菫の視界を遮った紙。

「ひっ…」←何も言えない菫。

「ん?」←紙を手に取る蒼空。

「えーっと、患者の日記…の一部? 『わたしはもう助からないらしい。院長さんがわたしの病室に来て、「研究に協力すれば、延命の可用性がある」と言った。わたしは賛同した。研究は明日からだそうだ。二階の…』」

「読み上げなくていい! どうせ第二手術室なんでしょ!」

「おっ、正解。なかなかやるね」

「読み上げないでって言ったでしょ!!」

 菫、階段で騒ぐと危ないぞ。


2F

 目の前に扉がある。第二手術室の扉だ。なんとか他のルートも探したが、ここを通らないと、このお化け屋敷を出られない仕様になっているらしい。

「開けるよ」

「やだ」

「出られないよ?」

「それもやだ」

「開けるよ」

「あぁ、もう分かった!」

 ギーと扉は軋みながら開き、先ほどから名前のみの登場だった『第二手術室』の全貌を明らかにする。

「入るよ?」

「走ってすぐ出て!」

「分かったよ」

 僕は目を瞑ったままの彼女の服の裾を摘み、小走りで手術室に入る。が、すぐにその足は止められていまう。

「な、何!?」

 足元に広がる手術跡。

 血、腕、眼球、注射、刃物。

 研究チームの落とし物であろう。

 眼鏡、手帳、ビデオカメラ。

 それらが僕らの行く手を遮っていた。

「は、早く進んでよ!」

 困ったな。この状況をどう説明したら進めないことを理解してくれるだろう。

「早く、お願い早く。息もしたくないの!」

 相当だな。なんとかして他のルートを…

 その時気がついた。手帳だけが拾える。

 他のものは全て、血のように見える接着剤で固定されているが、手帳は血に沈んでいない。つまり、拾える。

 きっと、ここに次に行く場所が書いてあるのだろう。

 謎が解けたことに興奮した僕は、何も考えずに、それを拾い上げようとして…そのために、

 突然僕が手を離したので、驚いた菫が

「いやっ!!」

 と僕の腕に抱きついてきた。

 心頭滅却すれば、胸もまた脂肪。心頭滅却すれば、胸も…

 ブシャッ←鼻血が飛び出す音

「えっ?」←突然の発射音に驚き、目を開く菫

「あっ……」←(鼻)血を出しながら倒れる蒼空

「い、いやーーーーーーーーーっ!!!!!!!!!!」←菫の絶叫

 バタっ←倒れる蒼空

 ドサッ←倒れる菫

「うっ…」←下敷きになる蒼空


 目覚めた場所は、遊園地の医務室だった。時間は、三時間過ぎていた。

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