第八話『アセクシャルとの試練』

「ということで、やっちゃいましょう!」

「どういうことで?」

「前話参照です」

 つまり、[大きなものをお持ちなんですから。手っ取り早く誘惑しちゃってくださいよ。夜○いしかけて、その武器であーこーしてあげれば陥落ですよ]ということで、夜○いしましょう! ってことでしょ。

「わかってますね。では早速…」

「やらないよ?」

「え?」

「やらないよ?」

「なんでですか⁉︎」

 蒼空そらと同棲する日々の中で、わたしには二つ仕事がある。

 一つは蒼桜あおちゃんの言っていた仕事。それは蒼空と暮らすことで女性の体やエッチなことを克服させるというもの。

 蒼空がエッチなことを克服して、アセクシャルじゃなくなったら、付き合える。

 蒼桜ちゃんの中ではそう言うことになってる。でも、アセクシャルのインパクトが強くて忘れてることがある。

 基本的に人は、

 だから二つ目の仕事。

 蒼空に、わたしをもっとたくさん知ってもらって、好きになってもらう。

 それが、アセクシャルで奥手な蒼空を好きになった、わたしの試練だ。

 だからこそ、蒼空に嫌われるようなことはしたくない。夜○いは、一つ目の仕事の条件は満たしているけど、二つ目の仕事の邪魔になる。個人的には二つ目の仕事に重きを置きたいから、度が過ぎたことはやりたくないのだ。

「ふーん、菫さんも菫さんで色々考えてるんですね。わかりました、今日のところは手を引きます」

「言い方! まるでわたしが何も考えてないみたいじゃん!」

 蒼桜ちゃんは冗談です、と可愛げに舌をだすと、荷物をまとめて部屋を出た。一方わたしは見送ろうと彼女の後を追いかけた。

「また来ますね〜」

 と玄関の扉を開いたところで、ようやく天気が雨だと気がついた。

 蒼桜ちゃんは硬直し、ゆっくりと振り向くと恐る恐る言った。

「……あの、大変恐縮なのですが、お泊まりしてもいいですか?」

 頷く他なかった。


 帰ってきた蒼空が蒼桜ちゃんと鉢合わせた時はすごい驚いてたけど、説明したらわかってくれた。

「まぁ、雨すごかったし、家が遠いから帰るのも大変だろうな。で、着替えは?」

「わたしの貸すよ」

「布団は?」

「頑張ればシングルで二人寝れない?」

「まぁ、考えてるならいっか」

「そう! わたしだってちゃんと考えてるの!」

「はぁ…?」

 蒼空は何のことだか、って顔をした。


 何事もなく夜になり、わたしは寝るために自室へ入った。

 蒼桜ちゃんはリビングでテレビを見ていて、蒼空はお風呂に入ってるはずだ。

 もし、ベッドの上に蒼空のパンツがなければ、もっと穏やかな夜を過ごしただろう。

「‥‥………ふむ」

 犯人は、多分わたしじゃない。蒼空への愛が大きすぎで無意識のうちにパンツをパクったなんてことは多分ない。なら犯人はあの子しかいない。とはいえ大事おおごとにはしたくないし、わたしがこっそり戻せばミッションコンプリートだ。

 ところで、どこを持てばいいんだろう…

 悩んだ末に、ゴムの部分をつまむことにした。別に汚いとかそういうこと言いたいんじゃないの。ただ、恥ずかしくて。恥ずかしかっただけなの!

 と心の中で蒼空に弁解して、脱衣所に向かった。


 そーっと脱衣所の扉を開けて、積まれている蒼空のパジャマの下に、そーっと置い…

 ガチャ←お風呂の扉が開く音

 目があった。

 バンッ!!←お風呂の扉が閉まる音

「あの、えっとその、後でゆっくり話そうね。ほら、着替えたらわたしの部屋来て!」

 わたしは逃げ出した。


 さて、蒼空が来るまでもう少し時間がありそうだから、状況の整理をしようと思う。

わたし視点】

 ベッドの上に蒼空のパンツがあったから、脱衣所まで届けに行ったら、ちょうど蒼空がお風呂から上がって、その…見てしまいました。

【蒼空視点】

 お風呂から上がると、わたしが自分のパンツを持って立っていて、自分の裸を見られた。


 もう汚名を注ぐ方法はないんじゃないかと思う。でも、蒼空なら話せばわかってくれるはず。

「菫。言い訳くらいなら聞いてあげるから、話してみ?」

 蒼空は笑って言った。でも、目は笑ってなかった。

 でも、相手は蒼空だから

「なるほど、やりたくてやったわけじゃないんだな」

「うん」

「なら…見た物を忘れるなら許す。それと、元凶を一緒に懲らしめに行こう」

「うん」

 事情を話したら、簡単に許してくれた。でも、アレを忘れるのは無理だと思う。

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