恐怖の大王

Phantom Cat

1

 一九九九年、七の月


 空から恐怖の大王が降ってくるだろう


 アンゴルモワの大王を復活させるために


 その前後の期間、マルスは幸福の名のもとに支配するだろう


(五島 勉「ノストラダムスの大予言」より)


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 ぼくがこの予言詩と出会ったのは、小学三年生の時。その時点で既に一九九九年は二年後だった。ぼくにそれを教えてくれたのが、一番の友だちのツトムだ。彼はとても勉強ができて、大人が読むようなむずかしい本も読むことができる。そして彼はある日、お父さんの部屋の本棚に「ノストラダムスの大予言」という古い本があるのを見つけ、それを読んだ。そして……ものすごいショックを受けたらしい。


「ヒロシ、あと二年で、人類は滅亡するんだってさ……」


 ツトムは真っ青な顔で、ぼくに言った。その時の彼の様子は今でも忘れられない。彼から話を聞いたぼくも、同じようにショックだった。


 大昔、フランスにノストラダムスという大予言者がいて、その予言はものすごい精度で的中しているという。日本に黒船がやってくることや、原爆が落とされることまで予言していたらしい。そのノストラダムスが「一九九九年七月に空から恐怖の大王が降ってくる」などという恐ろしい予言を残している。「ノストラダムスの大予言」の作者によれば、それは人類滅亡を意味している、とのことだった。


 「マルス」というのは火星の名前の由来にもなった、ローマ神話の戦いの神の名前だ。それが「幸福の名のもとに支配」する、ということは……第三次世界大戦を意味するのではないか。


 いやだ。あと二年で死んでしまうなんて、絶対にいやだ。


 クラスの子にも話してみたけど、誰も理解してくれない。そもそもぼくとツトムはクラスの中でも変わり者コンビとして、ちょっと浮いた存在だった。そんなぼくらが何か言ったところで、信じてくれそうな子は一人もいなかった。


 両親や先生にも相談したけど、「ああ、大丈夫だよ。予言は外れることもあるからね」と言って、それ以上は全然相手にしてくれない。そりゃ確かに予言は外れることもあるけど、ノストラダムスの予言はものすごい精度で当たっているんだ。今度の予言だって外れるとは限らないのに、なんで大丈夫なんて言えるんだろう。


 ダメだ。他のみんなは全く頼りにならない。ぼくとツトムで何とかしなければ……


 人類滅亡から助かる方法はないんだろうか。もっとノストラダムスの大予言について調べたい。でもツトムの家にはノストラダムスに関する本はそれ一冊しかなかった。だからぼくとツトムは能都のと町立図書館に行って、ノストラダムスについて調べることにした。


 「ノストラダムスの大予言」はシリーズ化されていて、九巻まで出ていた。その全部を読むことはできなかったが、図書館にある分を読んで、ぼくらは少し安心した。一九九九年の前に「別のもの」が現れれば人類滅亡は免れる。そして、それは「日の国」から登場するらしい……


 「日の国」が日本である可能性は高い。だけど、「別のもの」って、いったい何なんだろう……


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