第1話思い出

今年も夏が終わった・・・と呟きながら私は作り終えた作品の蓋をしめる。それと同時にうるさく鳴いていたセミの音も止む。本当に夏を閉じ込めたみたいだ。瓶の中には作りたての海が光り輝いている。記憶が正しければ近くでは七夕祭りが開催されており、そこでは多くの人々が金魚すくいや射的を楽しんでいる。


「はぁ」

もうこんな夏は来ないとかコロナのせいでとか思ったが結局言葉はまとまらず1つのため息となった。


私は、神宮寺 京介は毎年夏の終わりになるとこうして叔父から借りた別荘に入り自分の時間を過ごす。私の作品はボトルシップのようなものだがボトルの中に入っているのは船ではなく砂浜や夏祭りの屋台など、その年の夏に見た景色を思い出として瓶の中にとどめておく。私はボトルの中の景色ということでボトルビューと呼んでいる。

しかし砂浜や夏祭りの屋台と言っても27歳のサラリーマンとはほぼ無関係 彼女は中学2年の時に一緒に祭りにいったのが最後でそれ以来彼女はいない。

猛威を振るう新型コロナウィルスのせいで夏祭りを見ることは出来なかったので今年のボトルビューは中学2年の時の白浜海岸の写真を参考に作ったのだ。



ボトルビューはこれで7つめになる。1つ目は中学2年の夏に学校の宿題の1作品として作ったのだ 。ボトルの中の美しい景色に見入ってしまいそれから気が向いくとここに来て作っている。ここは山の奥で近くにちょこちょこと家はたっているが人はほとんど来ない。来るとしたら虫取りに夢中の少年くらいだろう。とは言っても今のデジタル化した世の中では子供も家にこもってテレビゲーム三昧だ。

作品を作り終えた満足感でいっぱいの私は少しシャワーを浴びようと席を立つ。同時に外では再びセミが鳴き始めた。

終わりがけの夏は新しい足跡を響かせていた。



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