蝉の鳴き声

「澪、見ないうちに大きくなったねぇ。」


そうだよ、おばあちゃん。あれからもう何年経ったって思ってるの。そういえば、おばあちゃんこそどこに行ってたのよ。


「そうね、龍神様にお願いごとしに行っていたの。澪が幸せでありますようにって。」


そっか。じゃあ、もう一緒にいてくれるよね。八月に大会があるの。見に来てくれるよね。


 私の問いかけに祖母は悲しそうに首を振った。


「おばあちゃん、もう行かなくてはいけないの。」


祖母はそう言って立ち上がった。祖母の体はあたたかい光に包まれ、紺碧の空に吸い込まれていく。


 私は祖母の死を悟り、必死に叫んだ。


ダメだよ、おばあちゃん。行っちゃダメ。もう帰ってこれないんだもの。



「行っちゃダメ。」


私の声は、虚しく朝の空気に溶けていった。目を覚ますと蝉の声が聞こえた。今年は鳴き始めるのが早いようだ。絶え間なく鳴き続けるその声はどこか私を安心させた。夢だったのか。悲しいようで、嬉しいようなそんな気持ちだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る