第4話 窮地からの脱出
目が覚めると、そこは知らない天井だった。
周りを見てみると、木でできた質素な家。
「痛っ!」
体を起こそうとしたが、痛みで起き上がれない。
「お〜、目が覚めたか。」
白髪のおじいさんが隣の部屋から顔を出した。
「ここは…?」
「フォホホ。気がついてよかったわい。
ここは名も無い村の、ワシの家じゃ。
川沿いに倒れてたんで、運んできたんじゃよ。」
おじいさんは優しい笑顔でそう教えてくれた。
「あ、ありがとうございます…。」
「よいよい。丸1日寝込んでたんで心配してたんじゃよ。」
「助かったんだ…。」
「あんなところでなにをしてたんじゃ?
見たところ、裕福そうな家柄のようじゃが?」
ボロボロではあるが、帝国の首都で何不自由ない暮らしをできる家で育ったロックの服装は、一目で高貴な家柄とわかるものだった。
剣技を習っており、剣も持っていたのだが、崖に落とされる前に両親に取り上げられてしまった。
「実は…。」
ロックはおじいさんに事情を説明した。
両親とスキル覚醒のために森に行き、両親の思惑によって崖の下に落ちてしまったこと。
そして、そこでモンスターに遭遇したがなんとか逃げて気を失ったこと。
おじいさんは神妙な顔つきで、話終わるまでじっと聞いていた。
「親が子供を殺そうとするとは…。なんて愚かなんじゃ…。
スキルなんて、本当に大事なものに比べたらどうでもいいものじゃというのに。」
ロックもそう思いたいが、両親にとってはなによりスキルが大事だったのだろう…。
「みなしごの僕を引き取って育ててくれていたのですが、スキルが5つあったからだったのかもしれません…。」
「育ての親じゃったのか…。それにしても、信じられんことをしよる…。」
おじいさんは、会ったばかりのロックの事情を聞いて、本気で怒ってくれているように見える。
「何回もダメだと思いました。助けていただいて、本当にありがとうございます。」
「しかし、そんなことがあったのに、しっかりしとる子じゃの…。
無理はせんでええんじゃよ。」
「両親は僕を大事に育ててはくれましたが、どこか壁のようなものは感じてました。
もしかしたら、それもあって裏切られたという気持ちが思ったより湧いてこないのかもしれません。
とはいえ、まさかこんな…。」
気丈に振る舞っていたロックだが、話しているうちに涙が溢れてきた。
「スキルのことも気になるが、まずはゆっくりお休み。
もう少ししたら回復スキル持ちのカイルが戻ってくる。
そうしたらその傷を診てもらおう。」
「ありがとうございます…。
お言葉に甘えてもう少し休ませていただきます。」
ロックはお礼を言って、再び眠りについた。
おじいさんは静かに隣の部屋に戻っていった。
「それにしても、またこのような子が…。
いったい何をしとるんじゃ…。」
そう、呟きながら…。
・
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「おう!帰ったぞ〜!」
遠くの方から声が聞こえて、ロックは目を覚ました。
「今回も大漁だな!」
「これだけあればしばらくは持つな。」
ガヤガヤと話している声がする。
「カイル、疲れてるとこすまんが、こっちにきてくれ。」
「なんだ、ヨムじいさん。急ぎか?
解体があるんだが。」
「ちと怪我人がおっての。
すまんが先に治療してやってくれ。」
おじいさんが、ごつい男の人を連れてやってきた。
「ぼうず、待たせたの。」
(この人がカイルさん?回復してくれるっていうから、もっと…)
想像よりかなりたくましい人だった。
どちらかというと、攻撃が得意そうな…。
「はじめまして。ロックといいます。
お忙しいところすみません…。」
やりとりがうっすらとだが聞こえていたロックが申し訳なさそうにそう言った。
「ガハハハ!怪我人が細かいこと気にすんな!
ちょっと待っとけよ。」
カイルは豪快に笑ってそう言うと、ロックの体に手をかざした。
「<ミドルヒール>…。」
カイルがそう唱えると、手が淡く光り、体が暖かくなってきた。
それと同時に、痛みが少しずつ治ってきた。
「ふうっ。」
「ありがとうございま…、いっ!」
起き上がってお礼を言おうとしたが、体のあちこちがまだ痛んで起き上がることができなかった。
「おいおい!無理すんな!【ミドルヒール】じゃ骨折までは治せないからな。」
それでも、さっきよりはだいぶ楽になった。
「ありがとうございます。だいぶ痛みがなくなりました。」
「骨折はすぐには治せねえが、治癒を早めることはできる。
安静にしながらなら、2〜3日で治るだろう。
大人しくしとけよ。」
【ミドルヒール】はたしか、中級回復魔法。
★3のスキルだ。
★3のスキルはスキル全体の大体2割くらい。
そのスキル1つだけでも冒険者としても中堅レベルまでいけるくらいに強力だ。
(こんなにいいスキルを持ってるのに、どうしてこんな山奥に…。)
「じゃあ俺は解体に戻るからな!また明日な!」
「すまんな。よろしく頼んだぞ。」
おじいさんはそう言って慌ただしく出ていくカイルを見送った。
「おじいさん、ありがとうございます。」
「お前さん、ロックという名なんじゃな。
さっきは名前を聞くのを忘れとったわい。
わしはヨム。ヨムじいさんと呼んでくれ。」
「わかりました!」
ぐ〜〜〜。
「あ…。」
お腹の音がなってしまったロックは、恥ずかしそうにお腹を押さえた。
「フォホホ。
ちょうどいい時間じゃから、ご飯にするかの。」
「すみません…。」
「いっぱい食べて早く治すんじゃぞ。」
「はい!食事はご自分で作られるんですか?」
「いや、前にお主と同じように助けた子がおっての。
その子が作ってくれておる。」
ギィ。
家の扉が静かに開く音がした。
「ちょうど来たの。ティナー!
坊主の分も頼むぞ〜。」
「…はい。わかりました。」
ギリギリ聞こえる大きさの女の子の声で返事が返ってきた。
「ティナさんという女の子も、倒れてたんですか?」
「倒れてはおらんかったが、狩りの時に岩陰に隠れていたのを保護したのじゃ。
怪我はなかったが、衰弱しておっての。まあ今ではすっかりよくなっておるよ。」
「カイルさんの回復魔法、すごいですもんね。」
中級の回復魔法の使い手がいれば、何かあった時にとても心強いだろう。
「うむ。優秀なスキルで助かっておる。
ただ、ティナもスキルに問題があってのう…。
いや、これは聞かんかったことにしてくれ。
ところで、ロックはどんなスキルなんじゃ?」
スキルのことを思い出すと胸が痛み、話すことが躊躇われたが、ここまで親切にしてもらったヨムじいさんに聞かれたのだから、話すべきだろう。
「僕のスキルは…、」
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