エルフ、斧を手に入れる

 とにかく、水は手に入れた。それもかなり良い水質の水だった。


「というかコレ、とんでもねえ水質ですな……」

「うむ。水の魔力を感じる……たぶんだが、この湖……乾くことはないな……」

「ええ……それってとんでもねえんじゃねえですかい?」

「いや、エルフの井戸は大抵そうだが」

「初耳ですぜ?」


 一端問題を後回しにすると、ハナコは残る問題について考える。


「あー、水問題は解決しやした。食料は魚を獲るとして、後は家ですな」

「うむ、早速木を育てようか。何本要る?」

「その前に斧ですな。さしあたっては石斧でしょうが……」


 遠くに見える山まで行かないと、良質な石は手に入らないだろう。

 とはいえ、この場をあまり空けてもおきたくない。

 さて、どうしたものか。悩むハナコの肩を、レイシェントが指で突く。


「なあ、ハナコ」

「なんですかい、旦那」

「斧なら私が作れると思うが」

「旦那がぁ?」

「なんだね、その信用できないって目は」

「いやあ、だって……旦那、そんなもん作ったことないでしょう」


 ハナコが「何言ってんだコイツ」と言いたげな目で見ると、レイシェントはいつになく自信たっぷりに指を揺らす。


「ああ、確かに私は経験がない……しかしね、頼むことは出来るんだ」

「あっしにですかい?」

「私への信用が無さすぎじゃないかい?」


 ちょっと傷ついた様子のレイシェントは「土の精霊さ」と言い放つ。


「土の精霊……」

「そうさ。石の斧くらいなら、土の精霊に頼めばどうとでもなる……頑張れば金属の斧だっていけるだろうさ」

「ほうほう。それなら是非金属斧を頼みてえですが」


 今後の事を考えても、武器になるものがオール1つではかなり心もとない。

 金属斧が手に入るなら、ハナコとしては是非手に入れておきたいところだった。


「そうかそうか。では見るがいい。なあに心配は要らん! 此処の精霊となら、きっと凄いのが出来るぞ!」

「えっ。ちょ、凄いのはいらな」

「ハント平原のレイシェントが土の精霊に願う! この手に断てぬもの無き斧を与えたまえ!」

「ちょい! 待……!」


 魔力の輝きが土に吸い込まれ……やがて大地を割るようにして斧の柄らしきものが生えてくる。

 同時にレイシェントもヘロヘロと倒れてしまい、ハナコは慌ててレイシェントを抱きとめる。


「あー、もう! 何してんですか旦那ァ!」

「ふ、ふふ。どうだね、なんか凄そうなのが生えてきたぞ?」

「ドワーフでもねえのに、どうやって武器作ってんだろうって不思議でしたけど! ああもう、断てぬもの無き斧ってなんですか! 馬鹿なんですか!」

「そうは言うがなあ。なんかちょっと良いとこ見せたいしなあ」

「これだから旦那は……はー……」


 レイシェントを出来るだけ丁寧に寝かせると、ハナコは地面から生えている斧の柄に手をかける。

 しかし、どうにもこれは……魔法の武器の気配がする。

 というか、制作過程から見てもそうとしか思えないのだが。


「ぬ、よっ、ほ……ぬうううう!」


 しかし、斧は全く抜けはしない。一体何故なのか?

 中で引っかかっているのかとハナコは地面を掘ろうとして。


「……うっそだろ。土を掘れねえ……」


 まるでそこだけ硬化しているかのように指が通らない。

 一体なんだというのか?

 考えて……ハナコは噂話を思い出す。


「聖剣イクスキャリバー……え、マジ?」


 聖剣イクスキャリバー。もう遥か昔から存在し、引き抜ける者こそ選ばれし者だとか、そういう与太話のある剣の話を聞いたことがある。

 アレも周囲を掘り返すような裏技を許さないという話だったが……。


「ちょっと旦那ァ……こんなとこで伝説の斧作られても、どうしろっていうんですか」


 案外イクスキャリバーもエルフが勢いで作って放置していったんじゃないか。

 そんな気付きたくもない歴史の真実に気付きかけたハナコだったが「いやいや、まさか」と首を横に振る。


「こいつぁ、旦那が木ィ切る為に作った、ちょっと製作過程に目を背けたくなる普通の斧…だああああああっ」


 必死に引っ張って、引っ張って。


「ええい、抜けろおおおおおお!」


 その気合が通じたのか、見事に斧は地面からするりと抜けてハナコの手に納まる。

 そう、それは見事な斧だった。

 全長はおよそ1メートル程。見事な黄金の輝きを放つ両刃が備えられた斧は、シンプルでありながら秘めた破壊力を感じさせる造りであった。

 というか、ハナコはその黄金の輝きに見覚えがあった。


「……まさかとは思いますがコレ、オリハルコンじゃねえでしょうな?」


 オリハルコン。神々の金属とも呼ばれる超希少価値の金属であり、僅かな欠片を奪い合い戦争になったという曰く付きの代物でもある。

 しかし、まさか……まさか、だ。

 こんなノリでこの世に出てきて良い類のものでは、絶対にない。


「ハハハ、それこそまさかだ。こいつはただの金の斧。そうに違いねえや」


 言いながらもハナコは先程から奇妙な力の充実を感じている。

 まるで自分自身が一回り以上強くなったような……。

 いや、気のせいだ。そうに違いない。


「絶対オリハルコンだコレ。旦那ァ……早くもあっしの許容量超えてますぜ」


 スヤスヤとイイ顔で寝ているレイシェントの顔をビンタしたいとハナコが思ったのも、無理はないだろう。

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