第23話 優しき彼が死んだ日中編


 二匹のトカゲ型ギガントビーストに襲われ絶体絶命の危機の中、突如現れたガイアと名乗る少女。

 見た感じ十六歳くらいの肌の白い腰まで伸びた銀髪に美しい顔立ちの緑色のブレザー姿の少女。

 彼女はガイアークの美少女型AIと名乗ったが、狭間はサッパリ理解不能だった。


 しかし、現実に彼の目の前に小型トラック一台分の真っ白い鉄の拳が地中から出現してトカゲ型を突き飛ばした。


 その拳が恐らく彼女が言うガイアークの一部に違いない。


「さあ、マスター。ガイアークを呼んで下さい」

「ちょっと待てくれよ!今はそれどころじゃないんだ知歌がっ!!」


 訳の分からない少女の指示より、今大事なのは倒木に足を挟まれて動けない知歌の救助だ。

 だから狭間は知歌の元に戻って、倒木を持ちあげようと奮闘した。


「……参ったなや……早く《はえぐ》しないとトカゲが来るっちゅうに……」


 何故か急になまりだすガイアが困惑した表情を浮かべ後頭部を掻いた。


「仕方ない。ほら貸してみ」


 男三人もってしても倒木は持ちあがらない。そこで痺れを切らしたガイアが片手で持ちあげようとした。


「おいっ女の子の力じゃ」


 流石に無理があるし作業の邪魔になるから狭間が言うと、ガイアはジロリと睨んだ。


「ふざけるな《おだつなよ》!こんな木ぐらい……」


 なんとガイアは片手で軽々と倒木を持ちあげた。


「マジかっ!?」

「貴女は一体?」


 華奢な美少女が片手で倒木を持ちあげるから、見ていたケンと貴志が驚愕の声をあげた。


「お前何者だ?」

「フンッ!私の話しを聞いていなかったのかマスター。私はガイアークの美少女型AIガイアだ。だから大木を持ちあげることなど容易い」

「いや、だからってなぁ……」


 これまで現実の厳しさを味わってきた狭間は、漫画から現れた様なガイアの非現実的な存在を受け入れる余裕はなかった。

 ガイアは視線を知歌に移すと表情が曇った。それは、彼女の倒木に挟まれた左足がグヂャグヂャに潰れていたからだ。


「痛いか?」


 ガイアが知歌に聞くと彼女は不安気な表情を浮かべ、首を横に振った。


「不味いな……急激なアドレナリンの分泌のおかげで痛覚が麻痺しているが、後から猛烈な痛みが来るぞ」

「……」


 ガイアの忠告を聞いた知歌は泣きそうになった。


「ガイア《お前》がそんなこと言うから、知歌が不安になったじゃないか?」

「私は本当のことを言ったまでだ狭間マスター

「でもなぁ、それより救急車呼んだ方が……」

「駄目だ!時間がない。この知歌の足は私が治す」


 ガイアはしゃがむと潰れた知歌の左足に手を当てた。


「お前触っちゃ駄目だろ?」

「フンッ治ったぞ」


 足に触れていたのはほんの五秒ほど、ガイアはそう言って立ちあがり腕組みして鼻を鳴らした。


「冗談言うなっえっ!?」


 狭間が知歌の足を見ると元の綺麗な足に戻っていた。


「お前一体なにした?」

「フンッ私の右手に超小型タイムマシンが内臓されていて時を戻す機能を使って、この娘の潰れた足を30分前の状態に戻した」

「……お前何者だ?」

「だから言ったろ、私はガイアークの美少女型AIガイアだ。さぁギガントビーストが目前に迫っているぞ。早く呼び出せ」


 ガイアが言う様にトカゲ型が10メートル先まで迫っていた。


「いや、いきなり呼び出せと言われても困る」


 ロボアニメの第一話の様に、ためらわずに主役ロボに搭乗する主人公とはいかない狭間は、困惑気味に視線をそらした。


「ここにきて拒否とはごしゃくぞマスター!フンッ分かった。初回だけだぞ。私がガイアークを呼んでやる」

「おいっ!?」


 ガイアは狭間の左手首を掴んで引っ張っり出す。

 華奢な少女が青年を軽々引っ張って歩くから、孤児たちは驚いて見ていた。


「お前っそこはっ!」


 どうやら、地面を突き破って出現した鉄の巨大拳のところまで、連れて行きたかったらしい。


「ふう〜今回だけ特別ですよマスター」


 ガイアはため息混じりにそう言うと、右拳を握り瞳を閉じた。

 そしてカッと見開き右拳を突きあげた。


「来いっガイッアアァァック!!」


 まるでスーパーロボットの主人公ばりの熱いガイアの掛け声。


 ゴゴゴゴッ……


 すると地響きがして大地が揺れ、白い鋼鉄の拳の本体が地面を突き破って出現した。


「あれがガイアーク……」


 全長55メートルの巨大ロボの足元で見あげる狭間。しかし彼は首を傾げた。


「ちょっとあの巨大ロボずんぐりしてねぇか?」


 そう、目の前に現れたガイアークのフォルムは、全身真っ白な丸みを帯びた装甲にずんぐりむっくりしたマッシブなメタボ体型。

 おまけにバレーボールみたいな球体頭部ヘッドはお世話にもカッコいいとは言えなかった。


「馬鹿者っ見かけより性能重視にしたからあの様な宇宙デザインになったのだ」

「宇宙デザイン?」

「知りたいかマスター?」

「ああ、知りたい」

「ふむ、良かろう」


 狭間はガイアに聞くと、彼女は得意気に解説し出した。


「ガイアークは銀河連合が百年かけて開発した対ギガントビースト用のスーパーロボットだ。そして私がガイアークの頭脳で、遠い銀河から地球に20年前から送り込まれて来た」

「いや意味分らない……」

「フンッいきなり宇宙レベルの話しを地球人にしても、私は最初から理解されるとは思ってはおらぬ。だがっ貴方は全人類の中、たった一人ガイアークのマスターに選ばれた人なのですよ」


 険しい表情で語っていたガイアの表情が、最後の一言では、穏和な表情になって手を差し伸べた。


「さあっガイアークに乗ってギガントビーストと戦って下さい」

「いやっ無理だって急には……」

「……早く《はえぐ》しないと、ぐたぐたすると早く歳取る《どじょっから》!」

「……なに言ってんだお前?」


 方言混じりのガイアの言葉に、なにを言っているのか分からない狭間だ。

 どうやらガイアはキレると仙台弁方言が口に出てしまう様だ。


「危機が迫っている。私と共にガイアークを操縦してギガントビーストを倒すのだ」

「お、俺じゃないと駄目なのか?」

「あぁ、このガイアークを操縦出来るのは世界で唯一狭間マスターだけだ」

「……俺が選ばれし者……」

「イエス、貴方は全人類の中で無造作に選ばれたマスターなのです」

「ちょっと待って、俺は人類70億人の中からたった一人選ばれたのか?」

「イエス、たった一人選ばれた類稀なる人知を超えた強運は、異能と呼んでもおかしくはないです」

「馬鹿な……」


 大切な全てを失った狭間が、異能と呼ばれる強運の持ち主と褒められても嬉しくなかった。

 試練だか知らないが、こんなロボットに乗るために『俺の姉さんは……』失ったとあればそんな資格は要らないと狭間は思った。


『フンッこの俺が運が良いだと?』狭間は苦笑しながら心に思う。

 俺は最凶運の男じゃなかったのかと、自問自答した。


 ガイアはマスターになるための試練と言っていた。

 そのために全てを失った。だからふざけるなと吐き捨ててやりたかった。


「……」


 しかし、不安気に見あげる知歌と目が合った。


「……一回だけなら良いよ……」


 不本意だが、自分を始末屋から救ってくれた孤児たちを見捨てることは出来ない。

 だからガイアークに乗る決意をした。


「ふっやっとヤル気になったかマスターよ」

「ふんっ知歌たちを救うため、今回だけだぞ……」

「了解したっイエス・マイマスター!」


 ガイアークの手の平に乗ったガイアが笑顔で敬礼した。


「ふっ仕方ねーな」


 そして、テンション高めの彼女に釣られ狭間は笑った。






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