第二章 お互いの思い違い

第8話 俺に恋は難しい

 華へのディスティニー告白計画が失敗に終わった後日。

 俺は都内から一人暮らしの家へと戻り、専門学校の友人である小嵐来汰こあらしらいたを呼び出し、今は居酒屋で今回の経緯いきさつと結果を事細かに説明していた。

 一通り説明し終えると、向かいの席に座っていた来汰らいたは、幻滅げんめつしたようにため息を吐く。


「なるほどね。それで結局、大翔ひろとはそのはなちゃんに告白することも手を出すことも出来ず、収穫もお土産もなしにトボトボと尻尾巻しっぽまいて帰ってきたわけか」


 呆れた様子で来汰に言われ、俺はビールジョッキをドンっと大きい音を立てて机に置く。


「別にそこまでは言ってねぇだろ! ってか、お土産はさっき渡しただろうが!」


 来汰の隣の椅子には、俺が購入したディスティニーのキャラクターパッケージの描かれた紙袋が置いてある。


「僕が期待してたのは、物的なお土産じゃなくて、大翔の甘ーいお土産話だよ♪」

「っけ……んな上手い話があってたまるか」


 俺は不貞腐ふてくされたように頬杖ほおづえく。


「はぁ……マジでどうすればよかったんだよ……」

「そんなうじうじするくらいなら、ちゃんとはっきり聞けばよかったのに。『俺の事どう思ってるの』って?」

「バーカ。そんなこと簡単に聞けたら、今頃こんなまどろこしいことになってねぇっての」


 そう言って俺は、再びビールジョッキを手に持ち、残っていた中身をグビグビと口のなかへ流し込んでいく。

 空になったジョッキを机に置き、俺はすぐさま店員さんを呼んで追加の生ビールを注文する。


「まーた、そんなに飲んで。今日はつぶれても送ってあげないからね?」

「はぁ……わーってるよ」


 適当に相槌あいづちを打ちながら、俺はつまみの枝豆をポンポンポンと次々口のなかへと放り込んでいく。

 そんな俺の様子を見つつ、来汰は思案したような顔で口を開く。


「まあでも、男女二人で一緒にディスティニーに泊りがけで遊びに行く時点で、向こうにも脈はあったと思うんだけどなぁー」

「俺も最初はそう思ったんだぜ? でもよ、もし好きな男子を目の前にして、気になる男がいるってはっきり言うと思うか?」

「うーん……照れ隠しとか、気づいて欲しいなって意味ではあるんじゃないかな?」

「いーや、華に限ってそれはねぇ。こっちとらずっと中学からアイツの言動を見て来てんだ。そんなまどろこしいことする奴じゃねぇよ」

「そうかな? いくら長い付き合いでも、意外と知らないことって多いと思うけど……」

「いーやっ、ないね!」


 俺は意気揚々と言い切り腕を組む。

 そして、そのまま組んだ腕を机に置き、気持ち前屈みで話を続ける。


「それによ、蛍光けいこうピンクだぞ蛍光ピンク! もしお前の好きな奴が、隣で無防備に寝転がって蛍光ピンクのパンツをさらしてたら、脈ありだなと思って襲う気になるか?」

「いや、僕だったら間違いなく脈なしだと思って、優しくそのまま毛布を掛けてあげるね」

「だろ? なら、華は脈なしってことだ」


 俺は威張るようにして胸を張って腕を組む。

 しかし、來汰はちない様子で首を傾げる。


「でもさほら、向こうだって蛍光ピンクのパンツを穿かなきゃいけない事情みたいなのがあったかもしれないよ?」

「例えば?」

「例えばほら、友達に罰ゲームで穿かされてたとか!」

「そんな罰ゲームあってたまるか! ってか、俺その罰ゲーム知らないんだから、律儀りちぎに穿いてくる必要ないだろ」

「それはそうかもね」


 そう言って、くすくすと可笑しそうに笑う来汰。


「はぁ……マジで華の奴、何が目的だったんだよ……!」


 俺は両肘を机につけ、そのまま頭を抱え込んでしまう。

 こんなに意味不明な華の行動にまどわされるなんて、俺もまだまだ未熟だな。

 自暴自棄になりつつ、ふと来汰が先ほど言っていた通り、俺は華のことをまだ十分に理解していないのかもしれないと思った。

 結局、どっちつかずのまま戻ってきてしまったので、華の真意は分からず、真相はやみの中。

 そして俺自身も、気持ちを打ち明けることが出来なかったので、やきもきする日々をまた悶々もんもんと過ごす羽目になるのだろう。

 俺は改めて実感する。

 やっぱり、俺に恋は難しい。

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