ミハエル・シードルは幸福の運命を描く

大福 黒団子

Opening

プロローグ 死因:通り魔

 貴方は人生の推しに出会った瞬間のことを覚えているだろうか?

 俺は覚えている。はっきりと、しっかりと。俺の言う推しというのは、アプリゲームのキャラクターのことだ。

 流行っているから。なんてありきたりの理由で、ダウンロードしたアプリゲーム。その中でよくある、初回11連ガチャ。その中で必ず排出されるキャラの一人。

 引いた瞬間感じたのはトキメキと、ガキ丸出しの「かっこいい!」という単純な感想。

 担当イラストレーターのことも知らない。声優のことも知らない。なんなら、このアプリゲームのモデルであろうゲームのことも何も知らない俺が、一目見て、声を聴いて「推す」と決めた彼――アベルと出会ったあの瞬間。

 俺の中の乙女回路もとい乙男な性質が見事に開花したのだ。

 

 なんてのはきっと走馬灯だろう。何故なら、俺は今――死にかけている。自転車ごと俺は歩行者通路に倒れ、胸に包丁が突き刺さってしまっているのだ。

 相手の顔は分からない。そもそも、自転車相手に歩行者が真正面から包丁で突き刺して、心臓を狙えたのがおかしい。

 最近の通り魔、どういう神経してんだよ。というか、なんで俺なんだよ……クソッ! 俺はただ、推しのレジンアクセを作るための買出しに行ってただけの、一般男子高校生なのに。

 手芸部の皆や顧問で家庭科のおばちゃん先生と、今年の文化祭は推しアクセ作って展示しよう! とか。いっそ、売ってみてもいいかもね? って話をして……じゃあ、サンプル作ってみようって。

 和気あいあいと、楽しみにしていたのに。ただそれだけだったはずなのに。

 体中が寒い。胸は不思議といたいというより、強い衝動がぶつかってきた感覚しかなかった。けれど、じくじく痛み出す。手が動かない。目も、足も、筋肉が何一つ動かなくなっていく。

 というか、今日のログボを貰い損ねてるのに……あ、そういえば。

 

 あのアプリ、昨日消しちゃってたんだ。

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