第08イヴェ ヨッポー、不運と過失を積み重ねてしまう

 ギリギリの行程になる事が分かりきっていたからこそ、ヨッポーは、不死鳥の意味を持つ、近鉄特急〈ひのとり〉での移動時間を利用して、大阪から京都までの綿密な移動計画を立てていた。

 だが、ヨッポーが、鶴橋から京橋への移動に利用する予定の、肝心の大阪環状線が、人身事故によるトラブルによって、ダイヤが大きく乱れてしまっていたのである。


 ヨッポーの当初の予定では、〈十六時一分〉に近鉄の鶴橋駅に到着し、そこから、JRに乗り換え、〈十六時七分〉にJRの鶴橋駅を出発する、内回りの大阪環状線に乗れば、〈十六時十五分〉に京橋駅に到着でき、そして、十二分もの時間があれば、トイレに立ち寄ったとしても、余裕で問題なく、JRから京阪に乗り換えることができ、〈十六時二十七分〉発の京阪本線の特急に乗れば、約四十五分の移動の後に、〈十七時十二分〉には、京都の〈三条〉駅に到着できるはずであった。

[注:京阪線は、二〇二一年九月二十五日にダイヤ変更がなされている]


 はずだったのだが――

 〈ひのとり〉内の電光掲示板によって、ダイヤの乱れを知ったヨッポーが、小走りでJRの鶴橋駅のホームに到着した時、幸運なことに、五分ほど待っただけで、大阪環状線それ自体の運行は再開された。そのため、ヨッポーは、いったん胸をなで下ろした。

 下ろしたのだが、列車トラブルの結果として、大阪環状線には数分のダイヤの乱れが生じてしまっており、それが、ヨッポーにとっては痛恨の一撃となってしまったのである。


 ヨッポーがJRの京橋駅に到着した時刻は、予定よりも六分遅れの〈十六時二十一分〉のことであった。

 実のところ、JRの京橋駅から京阪の京橋駅への乗り換えは、スムースに移動できれば、五分もかからずに完了する。

 しかしながら、初めての大阪で、しかも、ダイヤの乱れでテンパっていたヨッポーは、京阪の京橋駅の乗り換えのためには、JR京橋駅の北口に向かうべきなのに、なんと、南口に向かってしまったのだ。

 なんとか京阪駅に辿り着いたヨッポーは、関西でもスイカが使えると、近鉄での移動中に知ったので、持ってきていたスイカで、京阪の改札を抜けようとした。

 だが、出発前には、関西ではスイカは使えないと思い込んでいたため、迂闊にも、遠征前に、スイカのチャージをしておかなかったのだ。そのせいで、残高不足で、ヨッポーは、京阪の改札に入ることができなかった。慌てて、券売機でチャージをしようと思ったものの、あいにく誰も並んでいない券売機がなく、順番待ちのために、数十秒をロスするはめになってしまったのだった。


 なんとか、交通系電子マネーのチャージを終えたヨッポーが改札を抜けると、そこには、長い長い、ロングエスカレーターがあって、しかも、京都の〈三条・出町柳〉方面行きのホームは、四階に位置していることが分かった。

 マナー違反とは思いつつも、ヨッポーは、確信犯的に、エスカレーターを歩いて上がろうとしたのだが、なぜか、関東では、歩いて上がる人用に空けられているはずの〈右側〉が空いてはいなかった。

 そう言えば、関東とは違って、関西では、エスカレーターは〈左側〉を空けるとか聞いたことがあるな、そんな事を思い出しながら、ヨッポーは、エスカレーターを急ぎ足で上っていったのだが、三階から四階へのエスカレーターで、右側に立っている関西人に対して、もしかしたら関西以外の人間なのかもしれないが、左側に立っている人が何人もいて、エスカレーターの動線を塞ぐような状態になっていた。

 そのため、一刻も早くホームに上がりたかったヨッポーの歩みは、阻害されてしまったのだった。


 そして――

 エスカレーターから降りた瞬間、列車に駆け向かって行ったヨッポーが、京都方面行きの列車の一番近い車両の出入口に辿り着いた、まさにちょうどその時、ヨッポーの目と鼻の先で、緑と白を基調とした京阪本線の扉は、完全に閉じてしまったのである。

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