幼馴染のもとへ

 霧島の家から十分も走ったところだろうか、普段運動しないもんだから予想より遥かに走れなかった。こんなことなら、毘奈みたいに陸上でもやっていればよかったよ。



 「ハア……ハア……チキショウ!」



 そんな時だった。前方の暗闇がピカピカと光ったと思ったら、ブンブンと煩い三台の原付が現れたんだ。

 またこんな時に迷惑そうな奴らに出くわしたと思ったが、意外にこれが渡りに船であった。先頭の一台に乗っていた金髪の女が、僕に気が付き、原付を停めてヘルメットを取る。



 「あんた、確か姉さんの舎弟だな? どうしたんだ、そんなに息切らして?」



 なんとこの品性の欠片もないような原付に乗っていたのは、いつか校門の前で出くわしたDQN系女子三人組だったのだ。

 もう手段は選んでいられない。僕は今の状況を説明し、指定の場所まで乗っけて行ってくれるようお願いした。



 「町はずれにある廃倉庫って確か……三頭会の溜まり場だぞ!? あんた一人で行くって正気かよ?」

 「お願いします! 絶対に助けなきゃいけない奴がいるんです!」

 「このこと、姉さんは知ってるのか?」

 「いいえ……もうこういうことに、霧島を巻込みたくないんです」



 DQN系女子リーダー格の高水さんは、舌打ちをして髪の毛をクシャクシャと搔きむしると、再度ヘルメットを被って僕に合図した。



 「あんた、馬鹿だね……でも、気に入ったよ、乗んな!」

 「姉さん! マジであいつらのアジト行くんスか!?」

 「やべーッスよ! ボコされるだけじゃ済まねーッス!」

 「姉さんにただで名前借りてんだ、ここで行かなきゃ、女が廃るってもんだよ! 覚悟のある奴だけ付いて来な!」



 僕が高水さんお原付の後ろに跨ると、よもやウィリーでもしそうな勢いで原付は荒れたアスファルトの上を走り出した。

 


 「もっとしっかり私に掴まんな! 振り落とされるよ!」

 「は、はい!」



 最初は遠慮がちだったが、本当に命の危険を感じた為、僕は高水さんの背中にギュッとしがみ付いた。これがまた、意外に柔らかくていい匂いなんだ。

 そうこうしているうちに、後ろから残りの二人も追いかけて来た。流石DQN系だけあって、根性は座ってるんだな。



 「姉さん! うちらをおいて行かないでくれッス!」

 「うちらの覚悟を、摩利香姉さんに見せるときなんスね!」



 夜の帳を疾走する三大の煩い原付バイク、僕はノーヘルで二ケツと思いっきり道交法違反なわけなので、途中からけたたましくサイレンを鳴らすパトカーも追走して来た。



 ――そこの原付! 止まりなさい!!」

 「姉さん、ここはうちらに任せてくれッス!」

 「行って下さい! 姉さん!」



 パトカーの進路を塞ぐように停車する二人の原付バイク、赤い光がピカピカと夜空を照らし、サイレンと警察官の怒号がこだまする。

 夜道を疾走する興奮と、計り知れない恐怖と不安を胸に抱え、僕はその時を待っていた。

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