「バラバラにされ空き地に遺棄された幼女のアンドロイドですが、「遺体」の……便宜上、「遺体」とします。性的暴行の跡があり、頭部と四肢は力任せに引き千切られたような状態で空き地に散らばっていました。非常に凄惨な状況から、全国的に大きな波紋が広がった訳です。犯人は直ぐに捕まりましたが当然長時間拘束する為の罪名もなく、単なる不法投棄として既に釈放されています」


「では遺体の映像を──」


「ああ、映す必要はない。いくらニセ物でも肉が食べられなくなる」


 村井が映像を出そうとするのを首相の園田が制した。


 凄惨な映像が大きく中央に映し出されるという最悪の事態は鶴の一声で止められたが、却って尾形の脳裏には一週間以上も前に自宅で見てしまった映像が甦り気分が悪くなった。


「波紋と言われてもねえ。犯人ねえ。アンドロイドと直ぐに判明したのだからニュースで取り上げる必要もないし、大袈裟に騒ぎ立てる事も無いだろうに」


 59歳の現首相、園田廉の返答には倦怠感が漂っていた。

 首に加齢を感じさせる皺がくっきりと刻まれ、顎の下のたるんだ皮膚を左手で引っ張りながら釈然としない面持ちで首を傾げた。

 

「人間ならば大変な犯罪だがね。しかし何でそんな事をしたんだ? 」


「言う事を聞かず腹が立ったと。具体的に申し上げますと性的な内容です」


「アンドロイドは基本的に人間には逆らわんだろう。泣いたり怒ったり、人と同じように痛みは訴えるが痛覚がある訳でもなし。痛がる時の表情はリアルだけどね──ある意味生身の人間よりも人間らしいがねえ、普通に会話は成り立つが所詮奴等に感情はない。大昔から、感情を持つアンドロイドが登場するファンタジーは作られてきたが、神でもあるまいし感情や意思を持たせるのは不可能だよ。年は取らない、死ぬ事もないしね。壊れる事はあるけど」


 しかし進化したアンドロイド達は、過去の人間の様々な体験を始めとし、図書館一戸分の書物に匹敵する知識を蓄積したデータを脳の代用としている為、臨機応変な会話が可能なのだ。


「こういう事、前からあっただろう。今回大事になったのは「遺体」の写真や動画が拡散されたからか」


「メンテナンスや修理費をケチっての不法投棄という形では以前からありましたが。リセットしても所有者は簡単に突き止められますから、罰金程度で大した問題にはならず」


 環境大臣の木本が園田に説明する。


「ですが中古で比較的安価に売られている例もあるとか。その場合は身分証の提示は必要ありませんよ。転売を重ねていけば所有者の特定は難しくなります」


 財務大臣の伊沢が口を挟んだ。


「だったらアンドロイドの中古売買は禁止。若しくは身分証の提示なくば購入は不可とすべきだろう」


「個人から個人へ所有者が移る場合は抜けてしまいそうな気もしますが。譲渡という名目で為されてしまったら」


 アンドロイド対策担当に任命された尾形佑馬が意見した。


「ともかく中古販売は完全不可だ。尾形君、言いたい事は分かるよ。法によって完全に取り締まるのは不可能だ。法は制定する事に意味があるんだよ。歯止めにはなるからね。アンドロイド中古販売禁止法(仮)としよう」


「話しは戻りますが、レイプされたのがセクサロイドではなく、普通の家庭用アンドロイドだったのも国民感情に火を点けた要因のようです。勿論、映像は直ぐに削除されてますが」


「レイプという言葉を用いるのはどうだろう?特に子供に対してはイタズラとか、わいせつといって内容をボカすのがお約束だ。どんなに暴行内容が酷かろうとね。まあ、今回はアンドロイドだが──映像が削除されたならば、それ以上の何が出来るかね?犯人は捕まってる訳だし。しかし、流石に幼女型のセクサロイドはマズイだろう」


「それも問題の一つです。勿論幼女のセクサロイドなど一般的に流通はしてませんが、客の好みに応じて多様なカスタマイズが可能です。大量生産のオリジナルでも、好まれる容貌や体型は12、3歳ぐらいの少女を思わせるタイプが人気があるとか」


「アンドロイドの作成に関しての外見上の規定はないですからねえ。そもそも年齢というものがないのですから、未成年との淫行罪にも問えませんし。やれやれ」


 総務大臣の横山が首を降った。


「それにしても12、3歳とは」


 自身にも幼い娘がいる尾形が絶句する。


「児童ポルノは所持閲覧共に重罪だから、その手の連中がアンドロイドで欲望を満たしてるんだろう」


「その手の連中だけとは限りません。和姦など本音の所では面倒で望んでいない男達の支配欲を手軽に満たせるものがセクサロイドですから。それを突き詰めれば12、3歳がやはり……というところでしょう」


 国家公安委員会委員長の猪倉が胡麻を擂るような薄笑いを浮かべる。


「女性がいたら中々言えない事を言うねえ。セクサロイドじゃなくてセクハラになってしまうからな。非公開だから問題ないがね。はっは! 」


 園田は愉快とばかりに身体を揺らして笑った。


 



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る