第3話 デート?
初めて【交換】スキルを使用した僕は家に戻ってきた。
妹のミリアが出迎えてくれる。
我が家は4人家族だ。
父は郊外に先祖代々の農地をもつ中地主で、母は薬屋の店員である。
妹は僕の3つ下で、いわゆる家事手伝いだ。
僕は冒険者で身を立てていくつもりだから、妹にはいずれ婿を取ってもらって農地を受け継いでもらわないといけない。
妹は農業に抵抗がないようなのでそれでも構わないと言ってくれるが、父は僕が家業を継ぐことをまだ諦めていない。
今日は4人揃って夕食だ。
母が僕に聞いてくる。
「クラウス、今日ギルドに行ってきたんでしょ。どうだったの?」
「うん、午前中に川の清掃の依頼を受けて、午後はヒール草の採取に行ってきたよ」
「ヒール草の採取だったらクラウスなら簡単でしょう?」
「そりゃあね。でも報酬をもらってギルドを出た後にスリにあってさ。財布ごと盗られちゃった」
「まあ、衛兵は何をやっているのかしら。とっとと捕まえてくれればいいのに!」
スリのことを聞いた母は少々おかんむりのようだ。
「お兄ちゃん、残念だったね」
妹が慰めてくれるが正直得たもののほうが大きいので、あまり気にしていない。
まだ実家の世話になっているが、早く冒険者稼業で稼げるようになって独り立ちしたいところだ。
◇◇◇
初めて自分の固有スキルを試してみた日から二週間が経った。
そうそう都合よくまたスリにあうわけもなく、通常の依頼を少しずつこなしてきた。
ある程度の数をこなしたので、そろそろ魔物の討伐数を稼がないとランクが上がらない。
本当はもう少しマイナススキルをなんとかしてからと思っていたが、これ以上先延ばしもしたくない。
というわけで今日は街の北西にある初心者用ダンジョンにきている。
通称ゴブリン洞窟だ。
全3階層で一番奥にいるボスのゴブリンウォーリアを倒して魔石を持ち帰れば討伐実績として加算される。
ランクアップのためには、何回かボスを倒して魔石を持ち帰らないといけない。
ボスを安定して倒せるようになったら、晴れてF級卒業というわけだ。
ゴブリン洞窟と言われているが、ゴブリンが多いというだけで他にもスライムやホーンラビット、ビッグホッパーが出てくる。
1階層だけで様子を見てみよう。
MP管理、というほどのものでもないけど、とりあえずヒール一回分のMPを残して初級剣術の『ニ連斬』を使えるだけ使って、あとは通常攻撃だけで倒していこう。
ここのゴブリンは素手なので、剣で攻撃して離れるヒットアンドアウェイを繰り返せばこちらがダメージを負うことはそうない。
ただ、僕の腕力が低いせいか『二連斬』を2回当てないと倒せなかった。
ホーンラビットは1メートルの長い角が脅威だが、角の向いた方向に真っ直ぐ突進してくるだけなので対処は簡単だ。
ビッグホッパーも体当たりするしか攻撃方法がないが、素早さが高いうえあちこち跳ね回るので捉えにくい。
何回か『二連斬』を空振りしてしまって以降は、通常攻撃のみ使うことにした。
時間はかかるが仕方ない。
今日は朝から夕方まで魔物を倒し続けて、全部で15体ほど倒した。
魔石は15個回収したがドロップはホーンラビットの角2個だけだった。
ギルドに持ち込んで魔石とドロップ品を買い取ってもらおう。
確かここのダンジョンの魔石とドロップ品は一律銅貨2枚だったな。
◇◇◇
ゴブリン洞窟で魔物狩りを繰り返すこと4日。
レベルが1上がった。
【取得経験値半減】がなければもっと早くレベルが上がるのに。
ひたすら魔物狩りに勤しんでいる間に同じF級の冒険者からパーティを組まないか、とお誘いを何回か受けたが全部断っている。
マイナススキルだらけの僕だと間違いなくパーティの足を引っ張ると思うし、マイナススキルがどうにかなったとしてもそもそも固有スキルを知られたくない。
スキルについてあれこれ詮索するのはマナー違反とされているのであんまり心配しなくてもいいかもしれないけど。
ギルドで魔石とドロップ品を買い取ってもらい、受付でエリアさんにシビルカードの更新をしてもらって返してもらったら、カードの下に手紙が添えてあった。
翌日の昼、少し大きめのレストランの前で待ち合わせしてエリアさんと2人で入る。
手紙の内容は明日エリアさんが休日なので昼食をご一緒にどうですか、というものだった。
エリアさんの私服姿は新鮮だ。
白いスカートがよく似合っている。
受付の制服姿しか見たことないからな。
僕はといえば、出来るだけ清潔さを心がけた服装にしてきたつもりだがエリアさんと釣り合っているだろうか。
レストランで案内されたのは広い個室だった。
「私のわがままにお付き合いいただき、ありがとうございます」
「いえいえ、休みの日なのにお誘いいただきありがとうございます」
エリアさんが事前に頼んでいたようで、レストランお勧めのコースメニューが運ばれてくる。
いや、これいくらするの?
メニュー表がないから全然わかんないんだけど。
それなりに持ってきたと思うけど、お金足りるのかな……
味なんかよく分からないまま、しばらく世間話をしたあとエリアさんが少し真面目な顔になって聞いてくる。
「ランクアップに必要な数の依頼はもう終わっていますよね。最近はダンジョンで魔物の討伐にかかりきりだと思うんですが、ダンジョンの攻略はどうですか。マイナススキルをお持ちとのことだったので少し心配しています」
「1層の2/3あたりまで進んでいます。それ以上はMPが厳しいので、だいたいそこまでの往復でレベルとスキルのアップを狙っているところです」
「あの、不躾な質問だとは思うんですが、おそらくクラウスさんのマイナススキルは一つだけ、というわけではないですよね?」
「う、まあそうですね。いくつかあるような感じです」
やっぱりバレてるな。
白を切るのは無理か。
でもさすがに10個以上あるとは言えない。
冒険者辞めたほうがいいよ、とか言われそうだ。
「以前相談していただいた際に、『自分のステータスやスキルが見える』とおっしゃっていましたが、私のステータスやスキルは見えますか?」
「いえ、見えません。見えるのは自分のものだけです」
そう、見えないから食事に付き合ったのだ。
つまり、エリアさんは僕に悪意を持っていない。
だが、僕の固有スキルについて探りを入れられることにまで付き合うのは嫌だ。
たとえ悪意のない問いだとしても。
なので、これ以上追及されないよう自分のことしかわからないスキルということで押し通すことにした。
が、ちょっと不機嫌が顔に出てしまったようだ。
「そうですか。ごめんなさいね、不愉快な思いをさせてしまったようで。何か手助けになれればと思って聞きすぎてしまったみたいです。お詫びと言っては何ですが、ここの昼食代を私に出させてください」
「いえ、そんな。僕を心配してくれてのことでしたら気にしませんから。せめて折半にしましょう」
「それですと私の気が済みませんので、やはり私が。それに受付嬢の給料って、結構いいんですよ。だから遠慮なさらないでください」
……結局、笑顔に戻ったエリアさんに押し切られて、僕は奢られることとなった。
もしかして最初から奢るつもりだったのだろうか。
そして、僕はレストランの前でエリアさんと別れた。
ただ、僕の見た限りエリアさんがいつ払ったのか全くわからなかった。
ほんとにどこか貴族の令嬢なのだろうか。
レストランの外では、クラウスとエリアを憎々しげに見つめる者がいたのだが、二人ともそれに気づくことはなかった。
◆◆◆◆◆◆
いつもお読みいただきありがとうございます!
異性からいっしょに食事しよう、って言われると気があるって思っちゃうよね。
そして見極めは難しいという。
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