固有スキル【交換】でいらないものを邪魔者に押し付けて成り上がります!

気まぐれ

地方都市メイベル編

第1話 固有スキルとマイナススキル 

 明日は15歳の誕生日。

 15歳になると誰もが固有スキルを得ることができる。

 同時に冒険者登録も可能になる。


 僕の夢は、冒険者になって前人未踏のS級ダンジョン『永遠の回廊』を踏破し、歴史に名を残すことだ。

 

 翌朝目を覚ますと、頭を軽く小突かれるような衝撃を感じた。

 これはスキルがときの感覚だ。


 汎用スキルの時と感覚は変わらないんだな、と思っていると、さらに衝撃が続いてきた。

 おかしいな、固有スキルは一人一つだけのはずなんだけど……。


 軽い衝撃が続いたあと、少し深呼吸をして心を落ち着かせてみる。

 そしてスキルに意識を向けてみると、その内容を確認してしばし呆然とするのだった。





 しばらくして、部屋から出てこないことを不審がった母親が様子を見に来た。


「クラウス、どうしたの? 今日は朝一番でギルドへ冒険者登録に行くんじゃなかったの?」


「うん、いや、そのつもりなんだけど」


「体調でも悪いの?」


「うん、まあ、そんなところ」


 ……結局、悩んでもしょうがないので、登録がてら冒険者ギルドに相談してみることにした。



 ギルドに着くと、朝の依頼争奪戦がひと段落したあたりで、ロビーにはあまり人がいない。

 相談をするにはちょうどいいか、と思いつつ、受付嬢に声をかけた。


「おはようございます、エリアさん」


「あら、クラウスさん、遅かったですね。あなたのことだからてっきり朝一番で来るかと思っておりましたが」


「いや、いろいろありまして、ちょっと相談したいこともあるんですけど」


「とりあえず先に冒険者登録を済ませてしまいましょう。シビルカードを持ってきていますか?」


 エリアさんに僕のシビルカードを渡す。

 平民用のシビルカードは、このティンジェル王国民であれば生まれた時にもらえる身分証だ。



「クラウスさん、登録が終わりました。シビルカードをお返しします。これで今日から冒険者ですね」


「ありがとうございます。それでちょっと相談したいことなんですが……」


「それなら、別室でお伺いしましょうか。ちょうど冒険者ギルドの説明もまだですし。私に着いてきて下さい」


 エリアさんの後ろ姿は背筋が真っ直ぐ伸びていて綺麗だ。

 肩まである金髪が歩くたびに小刻みに揺れる。

 容姿も端麗で、金髪碧眼。

 冒険者の間ではどこか貴族の御令嬢ではないかと噂されている。


 ちょうど僕がギルドの冒険者養成講座に通い始めたばかりのころから受付嬢としてギルドに勤めていて、冒険者の人気は高い。

 

「エリア君、どこへ行くんだい?」


 別室に向かう途中で、エリアさんが前方から来た短い赤髪の女性から声をかけられる。


「はい、サブマスター。新人冒険者にギルドの説明と、それから少し相談したいことがあるとのことですので別室に行こうかと」


「そうだったのか。私も少し時間があるから、同席してもいいかな?」


 ギルドのサブマスから同席の許可を求められるが、新人冒険者が断れるはずもない。

 それにサブマスも少しキツそうな感じだが背が僕よりも高く引き締まった身体をした美人だ。

 断る理由はない。

 


「よろしくお願いします、サブマスター」



 別室に着いたあと、エリアさんが鍵をかけて、3人で着席する。


「クラウスさんは冒険者養成講座に頻繁にいらしてましたから繰り返しかもしれませんが、説明いたします。冒険者ギルドは、持ち込まれた依頼を冒険者の方に斡旋しております。また、冒険者ランクはF級からS級までありまして、依頼も難易度に応じてランクが付けられています。自分のランクの上下1つまでの依頼を受けることができます」


 さらにエリアさんの説明が続く。


「ダンジョンで討伐した魔物の魔石やドロップ品の買取も行なっています。冒険者ランクは、一定数の依頼をこなすことに加え、魔物の討伐実績によりアップします」


 あといくつかの注意点を聞いた後、残りの細かいことは渡された冊子に目を通しておくことにする。

 さて、ここからが僕にとっての本命だ。


「では、相談したいことをお伺いしましょう、クラウスさん」


「ええ、実は固有スキルをもらったら、自分のステータスとかスキルが見えたんですけど……」


「おまえ、自分のステータスが見えるのか⁉︎」


 サブマスが驚いた様子で僕に聞いてくる。


「ステータスやスキルは限られた方法でしか分からない。となれば、かなり貴重なスキルではないか」


「自分のステータスだけしか見れないのであまり貴重とも思えませんが……」


「それでもレアであると思うが。遮ってすまなかった、続けてくれ」


「はい。で、自分のステータスを見たところ、最大MPが50しかなかったんです。普通は100固定のはずなんでおかしいなあ、と思ってスキルを見ていたら、【最大MP半減】てのがありまして。何かそういったスキルについてご存知ないかな、と思ったんです」


「「…………」」


 今度はサブマスもエリアさんも目を丸くして驚いたあと、沈黙していた。

 そもそも相談してよいことだったのだろうか。

 でも他に相談相手が思いつかないしな。

 両親に聞いたってわかんないだろうし。



 気まずい時間が流れる。

 サブマスがようやく口を開いた。


「おそらくそのスキルはマイナススキルだと思われる。呪いスキルとも言われるが。上級ダンジョンの罠に引っかかったり、呪いの武器防具、装飾品を誤って装備したら付与されるやつだな。腕力や体力などのステータスが減少するスキルを聞いたことがある」


「そうなんですか……」


「本当にマイナススキルなら、解決方法がなくはないんだが……」


 サブマスが言い淀む。

 エリアさんの顔を一瞬見たあと、今度はエリアさんが続ける。


「解呪すればマイナススキルは消えると言われています。ただ、解呪には教会本部の持つ『解呪の宝珠』か、神官が有する上級光魔法のスキルが必要で、どちらも教会への寄付が求められるそうです」


「どれくらい寄付すればいいんですか?」


「貴族の邸宅が建つくらいが相場だそうです」


「……新人冒険者には厳しいですね。それは必要なんでしょうか?」


「すみません、実際のところは教会に聞かないとわからないです。クラウスさん、まさか……いや、何でもありません」


 薄々感づかれているみたいだけど、マイナススキルは【最大MP半減】だけではない。

 今朝起きてから連続で得たスキルがマイナススキルなのだから。


 まあ二人に言ったところでどうにもならないし、聞いてこないならこれ以上話す必要もないか。

 

「相談に乗っていただいてありがとうございます。今日のところはもう帰ります」



◇◇◇



 クラウスが去った後のギルド別室。

 エリアとサブマスターのマリーはまだ部屋に残っていた。


「エリアリア様。あの者、マイナススキルがまだいくつかありそうでしたね。マイナススキルがそれだけあるなら、固有スキルも強力かもしれませんね。過去にも強力な固有スキルと同時にマイナススキルを一つか二つ持っていた例があります」


「そうね。私の父上にもあったと聞いているわ。……ただ、クラウスくんについてはちょっとフォローをしてあげたほうがいいかもしれない」


「それはエリアリア様のによるものでしょうか?」


「ええ、スキルもそう言ってるし、個人的にもそうしたほうがいいと思っているわ。マイナススキルをいくつも持っているとしたら固有スキルが強かったとしてもさすがに同情するわ」


「その割にはあまり悲壮な感じはありませんでしたが」


「無闇に聞くわけにはいかなかったけど、自分のステータスが見えるだけの固有スキルというのは考えにくいわね。マイナススキルを克服できるくらい強力な固有スキルなのかもしれない。……マリー、ちょっと彼に興味が湧いてきたわ」



◇◇◇



 ギルドから家に帰ってきて、クラウスはひと息ついた。


「ギルドに相談してみたけど、まさかマイナススキルの解呪にそんなに金がいるなんて。やっぱり固有スキルでなんとかするしかないか」


 自分のステータスに意識を向けてみる。今のステータスとスキルはこうだ。


LV:10

HP:180/180

MP:50/50

腕力:40(物理攻撃力)

体力:34(物理防御力)

速さ:34(回避率)

器用:35(命中率)

知性:38(魔法攻撃力)

精神:30(魔法防御力)


スキル

【生活魔法】

【初級剣術Ⅰ】

【初級水魔法Ⅰ】

【取得経験値半減】

【最大HP半減】

【最大MP半減】

【腕力半減】

【体力半減】

【速さ半減】

【知性半減】

【精神半減】

【器用半減】

【MP回復力半減】

【消費MP軽減力半減】

【スキル成長速度半減】

【ドロップ率半減】 

【全属性耐性半減】

【状態異常耐性半減】

固有スキル

【交換Ⅰ】



 ……これでもかってくらい半減だらけだ。

 最初の3つのスキルは、15歳になる前から持っていたものだ。


 スキルの後に数字があるものはⅠからⅤまでスキルのレベルが上昇していく。

 スキルが発生する際は、たいていレベルⅠからだが、発生時点でⅡやⅢである場合もある。


 問題なのがずらずら並んでいる半減スキルだ。

 特にMP関連のマイナススキルがなかなかに致命的だ。


 MPは普通なら100固定でレベルが上がっても増えない。

 スキルで修得した技や魔法はMPを消費して使用できるが、上限が固定されているため使いどころが限られてくる。


 たとえば、【初級剣術】の二連斬や【初級水魔法】のヒールなどは、基本の消費MPが10で、昨日までの僕なら10回使えるが今の僕は5回しか使えない。

 しかもこれがずっと続くのだ。


 ステータスもひどいことになっている。

 F級の新人冒険者の平均ステータスが75前後だから僕のステータスはもはや雑魚スライム並みだ。


 で、頼みの綱の固有スキル【交換Ⅰ】の内容だが、自分と相手のを一つ交換できるとある。

 ただし条件がいくつかある。

・相手は自分に悪意を持つ人間に限る。

・一日に一回しか使えない。

・同じ相手には一回しか使えない。

・相手が視界の中にいること。


 また、自分と相手のステータスやスキル等が見える。

 交換先のステータスとか見えないと困るから相手のも見えるんだろう。


 自分のステータスが見えることはスキルの前提条件に過ぎないと思ったから、それだけはギルドで相談した2人に明かしても構わないと考えていた。


 ちなみに、2人のステータスは見えなかったので、僕に悪意を持ってないことが分かる。

 信頼して話せると考えたのもそのためだ。


 さて、どうしようか。

 自分に悪意を持つ人間なんてそうはいないだろう。


 そんな人間が見つかるまで簡単な依頼を受けたり、初級ダンジョンの浅い階層でレベルやスキルのアップを狙うしかないか。


 僕の固有スキルにもレベル表記があるから、使い続ければ使い勝手がよくなるはずだ。


 とりあえず日課の剣の素振りと瞑想を行なっておく。

 MPポーションを使い放題な高位の冒険者でもない限り技や魔法は連発できないから、自分の基礎能力を高める基礎訓練は怠るな、とは冒険者養成講座では口酸っぱく言われていることである。


 冒険者としての活動は明日からにしよう。




◆◆◆◆◆◆


 いつもお読みいただきありがとうございます!


 半減スキルばかり詰め込んでみました。1/5とか1/10も考えたんですが、そうなると日常生活すら怪しくなりそうなので半分です。

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