第11話 【黄金の椋鳥】の連中と再会した


2日目6



しばらく街道を進むと、山賊に間違われて? 男達に襲撃された、あの傾いた馬車があった場所に近付いてきた。

俺は、歩く速度を落としてナナに囁いた。


「さっき、この先で馬車の傍に居た男達から攻撃されたんだ。まだ居るようだったら、大回りして避けて行きたいからさ。ちょっと待っていて」


ナナをその場に残して、俺は慎重にその場所に近付いた。

遠目にそっと観察したけれど、松明等が動く様子は確認出来ない。

馬車を放置したまま、街に向かったのかな?

俺は慎重に馬車に近付いた。


「!」


馬車が傾いていたのは、片側の車輪が完全に破壊されて、外れてしまっていたからであった。

そして馬車の周囲には、全身血まみれの人々が数人倒れていた。

一応、息がある者がいないか確認してみたけれど、全員事切れている。

やはりここでモンスターか山賊かの襲撃にあったようだ。

幸い、周囲に怪しい気配は感じられない。

さっきの男達とすれ違わなかったところを見ると、彼等はダレスの街に歩きで向かったのだろう。

そのうち、彼等の連絡を受けた衛兵達が調べに来るだろうし、今の俺に殊更ことさら何か出来る事は無い。


俺はナナのもとに戻り、彼女を伴ってダレスの街へと急ぐことにした。


さらに歩く事40分、ついに俺達はダレスの街に帰り着いた。

今何時頃だろう?

俺は視界の右下に意識を向けてみた。

しかし……


あれ?

消えている?


【殲滅の力】を使用する直前までは見えていたはずの、日付が変わるまでの時間と、その下に表示されていた謎の数字――001/100――が、ともに見えなくなっていた。

もしかして、【殲滅の力】を使用した事と関係しているのだろうか?

時計代わりで便利だったのにな。

まあ、一日一回【殲滅の力】が~ってポップアップしていたから、明日になればまた表示されるのかもしれない。


俺はとりあえず、今夜の宿を確保するために昨晩も止まった宿屋『無法者の止まり木』に向かう事にした。



宿屋『無法者の止まり木』1階の酒場は、今夜も大勢の冒険者達で賑わっていた。

俺は彼等をかき分けるようにして奥のカウンターへと近付いた。

カウンターの向こうには、昨夜と同様、ゴンザレスが腰かけていた。

彼は近付いてきた俺に気付くと、意外そうな顔になった。


「おう、どうした? 二晩連続か?」


ゴンザレスは、俺がまたもナナの連れ込み先としてこの宿にやって来た、と勘違いしている様子であった。


「実はさ……」


俺は昨日【黄金の椋鳥】から追放されて、ついでに囮にされて殺されかかった事を簡単に説明した。

同時に、ギルドに“仲裁”を依頼中である事も付け足した。

ゴンザレスは、俺の話を聞き終えると、憤慨した雰囲気になった。


「おいおい、それが本当ならとんでもない話だぞ?」


仲間を無理矢理囮にして自分だけ助かるという手法は、冒険者達の間でも不評を買う行為だ。


「本当だからこんな事になっているんだよ。で、もうあいつらのトコパーティーハウスには戻れないからさ。今夜もここに泊ろうかと」

「て事は、当分連泊か?」

「そうしたいんだけど、金が」

「今いくら持っているんだ?」

「今手元にあるのは、3万弱ってとこだ。まあ、クエストこなしてきたから、冒険者ギルドに行ってくれば、ここの宿代分プラスアルファの報酬がもらえる予定だ。あとはあいつら【黄金の椋鳥】から金庫を取り戻せれば、ちょっとは楽になるんだけどな」


ゴンザレスは少し考える素振りを見せた後、言葉を返してきた。


「よっしゃ、しょうがねぇから、とりあえず1週間、朝夕食事付きでお前等二人、一泊4,000ゴールドで泊めてやるよ」

「え? いいのか?」

「まあ、お前とは知らない仲でもないしな」


二人で泊って、朝夕食事付きでその値段は、かなりお得だ。

ゴンザレスなりに、俺に気を使ってくれたのだろう。

ここはありがたく、好意に甘えておこう。


「荷ほどきしたら、先にギルドに行ってくるからさ。夕食はその後で宜しく」

「戻ってきたら声掛けな」



冒険者ギルドに到着した時、時刻は午後9時を過ぎていた。

閑散としていた昼間と異なり、この時間帯、クエスト報酬の受け取り等で、大勢の冒険者達がギルドを訪れていた。

4つあるカウンター全部、そんなに長くは無いけれど、冒険者達が列を作って並んでいる。

俺達は、バーバラが座るカウンターの列に並ぼうとして……

後ろから突然、肩を掴まれた。


「おい!」


振り返ると、マルコ、ハンス、ミルカ、ユハナ、つまり【黄金の椋鳥】の連中が並んで立っていた。

マルコが俺の肩に腕を回してきた。


「ちょっとハウスで話そうぜ?」


ハウスとは、【黄金の椋鳥】所有のパーティーハウスの事だろう。

俺はマルコを軽く睨みながら言い返した。


「話すならここで話そうぜ。ギルドには全部説明してあるし」


マルコは周囲に探るような視線を向けながら、俺をそのまま引きって行こうとした。


「いいから来い! お前には確認したい事があるんだ」

「そりゃ奇遇だな。俺もお前には山ほど問いただしたい事がある。ただし、話すのはここで、だ」


このままパーティーハウスに連れて行かれたら、今度こそ何をされるか分かったものじゃない。

俺は足を踏ん張って、この場に踏み止まろうとした。

マルコの腕に力が入り、俺の肩に食い込……あれ?

食い込まない?


見ると、マルコは真っ赤な顔になりながら、俺を引きって行こうともがいている……ように見える。


「……何やってんだ?」


俺はとりあえず聞いてみた。

やつマルコと俺とでは、素のステータスに倍ほど差がある。

つまり、俺がどんだけ踏ん張ったって、こいつがその気になれば、俺を抱え上げて連れ去る位、わけないはずなのだが……?


俺達の様子を見ていたハンスが、俺の胴体に腕を回してきた。


「マルコ、お前ホント、何やってんだ? こんなやつはこうして……うぉっ!?」


狼狽したような声を上げながらも、ハンスは俺の胴体に回した腕に力を込めて、俺を持ち上げようとしている……ように見える。

しかし、回された腕からはまるで力が伝わってこない。

自然、俺は望みもしない野郎二人からの熱烈ハグを受けている格好になってしまった。

ちなみに、ナナは少し離れた場所で、ぼーっと立っている。


「いい加減離せよ!」


俺が腕を振るい、身体をゆすると、なぜかマルコとハンスが盛大に吹っ飛んだ。

周囲の冒険者達の視線が俺達に集まった、


「おい、ありゃ【黄金の椋鳥】じゃねぇか?」

「なんだ? 喧嘩か?」


好奇の視線の中、マルコとハンスが真っ赤な顔で立ち上がった。

ミルカとユハナも目を丸くしている。


「これはどういう事だ?」


マルコが目をぎらつかせながら、俺を睨んできた。


「どういう事? そりゃこっちのセリフだ。いきなりからんできて、お前ら……何がしたいんだ?」


俺を本気で拉致するなら、ちゃんと力を込めないと。

まさか、本当に俺に抱き付きたかっただけ……なわけないよな……

残念ながら、俺にそっちの趣味は無い。


「くそっ! やっぱりお前……俺達のスキルをっ!」


マルコが吐き捨てるように、若干意味不明な言葉を口走った。


スキルを?

何の話だ?

スキル【必貫の剣】なら、俺を追い出した時点で、お前のスキル一覧からは消えているだろうけれど、それは自業自得だ。


「で、どうすんだ? ギルドには“仲裁”、もう頼んであるからな。今ここで話すか、“仲裁”の場で話すか、どっちか決めろ」


俺の言葉を聞いた周りの冒険者達がざわめいた。


「仲裁?」

「【黄金の椋鳥】の連中、何かやったのか?」


マルコはもう一度俺を鬼のような形相で睨みつけてきた後、仲間達に声を掛けた。


「行こう」

「待ってマルコ!」

「ここであいつを……」


今度は仲間同士で何かをめている。

俺は嘆息してから彼等に声を掛けた。


「俺も色々忙しいんでな。“仲裁”、楽しみにしてるぜ」


そしてまだぼーっと突っ立ったままだったナナの手を引き、改めてバーバラが座るカウンターの列に並んだ。

チラッと背後を振り返ると、【黄金の椋鳥】の連中が、冒険者達の奇異の目にさらされながら、扉を開けて外に出て行くのが見えた。


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