第20話 襲撃者たち

 ラキたちに声をかけてから拾ってきたデザートが入っている木の実——長いからデザートの実と呼ぼう——が入った袋を二階の台所に持っていく。


 スキルでデザートの実の中身を確認。仕分けをしてから冷やしたい物は冷蔵庫に入れて、そうじゃない物は常温で保存する。


 冷蔵庫から夕食用の照り焼きを出して、皿に盛り付けをした。おかわり用に残った照り焼きを大体半分にする。サラダも冷蔵庫から出しておく。


 電子レンジで照り焼きを適度に温め直す。俺用のご飯を茶碗に盛り付けて、電子レンジで温めた。


 一階と二階を行き来しながら照り焼きとサラダを持っていき適当に並べた。持っていっている途中で、ユイがヨルに食べようとするのを止められていた。ユイは相変わらずだな。


 よし、これで準備終了。みんなでいただきますと言ってから、食べ始める。一口食べてみる。美味しい。


 でも、一階で食べる時は小さい机かなんかがほしいな。床に置いているから高さがなくて割と食べにくい。あとでそれっぽい物があるか探してみよう。


 早い者勝ち組のおかわりを済ませて、俺は食事を終わらせる。自分の食器を片付けるついでに分けっこ組のおかわりを持ってこよう。


 食器を洗い、ふきんで拭きとって食器棚にしまった。ただ、食べ終わるのを待つのは暇なので、風呂を洗って入ろうかな。


 一階に行ってラキたちに声をかけてから風呂に向かう。


 シャワーで流しながら、スポンジで浴槽をこすっていく。適当なところで洗うのを止めて栓を閉める。スイッチを押してお湯が溜まっていくのを確認した。


 お湯がある程度溜まるまで待っている間に、一旦風呂場から離れて着替えを取りに寝室に行く。タンスの中から着替えを出して脱衣室に置いた。


 まだお湯が溜まりきっていないから、どうしようかな。顎に手を当てて考える。


 ……そうだ! 絵でも描こう。人に見せられるほど上手くないけど、暇つぶしには丁度いいかな。この前鉛筆と紙を見つけたんだよね。題材はラキにしよう。


 寝室に戻り鉛筆と紙を持って椅子に座る。記憶を頼りに描いてみたけど、何かが違うんだよな。だけど、もうそろそろお湯が溜まる頃だから描くのを止めて風呂に入ろう。






 風呂に入って髪の毛も乾かした。よし、こんなもんかな。流石に分けっこ組も食べ終わったはず。食器を片付けに行こう。


 一階に着くと何やらラキたちが真剣な表情で話し合っている。何かあったのかな? このまま盗み聞きするのはどうかと思うから、気付かなかった振りをして声をかける。



「もう食べ終わった頃かなって思ったけど、食器片付けていい?」

『ええ。皆食べ終わったから、片付けて平気よ。私も手伝うわ』

「えっいいの?」

『勿論よ。いつもの礼だから気にしないで』

「じゃあお願いしようかな。俺はこっちを持っていくからラキはそっちの方持ってきて」

『わかったわ』



ラキが人型なると、皿を次々と重ねて持ち上げる。そのまま二階に行った。あれっ? 俺が持っていく皿がない。全部持っていかれたようだ。まあラキが頑張ってくれているみたいだし、楽させてもらおう。


 ラキに遅れて二階に向かうと、もうすでにラキは猫に戻っていた。人型よりも猫の姿の方が身構えなくていいから、ありがたい。


 ラキが運んでくれた皿を洗って拭いて片付けた。これで今日やることはないかな。あとは寝るだけ。



「俺はもう寝るけど、ラキはどうする?」

『一緒に私も寝るわ』

「じゃあヒンフトたちに挨拶してから寝ようか」

『そうね』



一階に下りてヒンフトたちにおやすみと言ってから、二階に上がり寝室に向かう。


 ベッドに横になってラキにおやすみを言って目を閉じる。だんだん強くなる眠気に意識を手放した。






 うーん? なんだか騒がしいような……。気になって目を開けると、いつも近くにいるラキがいない。どうしたんだろう。


 それよりも気になるのが、ここにいてもわかるぐらいの一階の騒がしさ。何が起こっているんだ? とりあえず、さっさと着替えを終わらせて行こう。


 一階に下りてくると、そこには色んな動物がいた。様々な種類がいるけど、共通しているのがみんな不安そうな表情をしている。


 どういうことなのか、さっぱりわからず困惑していると誰かに声をかけられた。



『エリ、起きたのね!』

「うん。それでこれはどういう状況なの?」

『朝早くから騒がしいと思ったら、人間共が攻めて来たのよ。私たちでこの家に移動させたんだけど』

『大変なことになっているみたい!』『皆怪我をしているようなの!』『大変、大変!』『勝手に薬草使ったけど許して』『エリも治すのを手伝ってほしい』

「わかった。重症な動物から治していくから案内して」

『こっちだよ。ついてきて』



どうやらヨルが案内してくれるみたいだ。他のみんなも治療で忙しいようだから俺も頑張らないと。ただ、平気で治療できるかどうかは俺のグロ耐性次第かな。


 段々と血のにおいが強くなってきた。慣れないにおいに思わず顔をしかめる。どこからかうめき声も聞こえてくる。


 通り過ぎていく動物たちの姿を見た。止血はしてあるけどあまり意味が無いのか血まみれに近い状態。


 これで重症じゃないのか……。これ以上酷い怪我をしているとなると、かなりグロそうだ。覚悟しておかないといけない。冷静に対処しないとね。


 ヨルの歩みが止まった。一段と血のにおいが強い。ここがそうなのか。深呼吸をして落ち着こう。血のにおいが一層強く感じたから深呼吸するのを止めた。



『ここが瀕死か、瀕死に近い重症の動物たちだよ』

「……よし。治すからヨルは他のところの治療に行ってて。ここは俺に任せてほしいな」

『任せたよ』



血のにおいだけじゃない、肉が焼けたようなにおいも混じっていて吐き気がする。他にも骨や内臓が剥き出しになっていて、明らかにおかしな方向に体が曲がっている。


とにかくグロい。だけど躊躇している暇はない。今すぐ治さないと、本当に死んでしまう!


 目を閉じて手を合わせて祈る。願うのはみんなが元に戻って元気になること。



「ここにいるみんなが元気に戻りますように……!」



まぶた越しでもわかるほど強い光が、発生して消えた。


 そっと目を開けるとそこには傷一つない、綺麗な体に戻っていたみんなの姿が。良かった、ちゃんと治ってる。


 安心して気が抜けそうになる。それを手に力を込めて抑える。まだ終わっていない。怪我をしている動物たちがいる。早く治そう。


 さっき通ったところの動物たちを治しながら、部屋を回る。これでここにいる動物たちは治し終わったかな。


 通りかかったミカに外の様子を聞いてみると、首を横に振る。



『まだ、まだ攻撃が終わらないみたいなの。だけど、だけどエリのおかげでここの皆は元気になったわ。ありがとう』

「俺が役に立ったなら良かった。攻撃が終わるまで、どんどん治していくからね!」

『でも、でも動けるようになったら皆は戦闘に戻ることになる。けど、けどそれは仕方のないことだから気にしないで』

「そうだよね。戦力が足りなくなっちゃうと大変だ。でも俺はなるべくみんなを助けるよ」

『そう、そう言ってもらえると嬉しいわ。じゃあ、じゃあ私は皆の誘導しないといけないからまたね』

「わかった。またね」



この様子だと外に行くのは危ないね。ラキぐらいの身体能力があれば違うと思うけど。でも、ラキでも苦戦する人間相手だとしたら、それこそ俺は手も足も出ないな。


 素直に治療に専念しよう。次々と運び込まれる動物たちの治療をしながら、どのくらいの時間が経ったのかよくわからない。


 だけど段々動物たちの怪我の程は軽く、数も少なくなっている。徐々に優勢になったのかな。ラキたちもそこまで忙しくなさそうだ。そのまま終わるといいんだけど。


 五分か十分ほどで外が少しずつ静かになった。戦闘終わったのかな? 気になって外に行きたくなったけど、何か仕掛けられているかもしれないから止めておこう。


 でも窓から見るだけならいいかなって思って、窓越しに外を見る。あちこちの木が倒れたり、折れたりして荒れていた。中には真っ黒になった木や氷漬けになった木もある。


 中々悲惨なことになっているようだ。まあ動物たちの怪我を見たら酷いことになっているのはわかるけど、ここまでなっているとは思わなかった。


 そんなことを考えているとラキに声をかけられる。



『皆エリにお礼が言いたいらしいわ。少しくらい顔を出した方がいいんじゃない?』

「えっそうなの? てっきり同じ人間だから、顔も会わせたくないって言われるとばかり思ったんだけど」

『だから、怪我を治したらすぐに隠れるように移動していたのね。大丈夫よ、あのドラゴン馬鹿じゃないからそのくらい区別できるわ』

「そういうもんなの?」

『そういうものよ。わかったら、さっさと行きなさい』

「はーい、行ってきます」



ラキにそんなことを言われたけど、一応どんなことを言われても大丈夫なように心構えをする。おそるおそる外に行ってみた。



『『『『『ありがとう!』』』』』



「おかげでこの森を守れた!」「貴女の治療で助かったわ!」「君がいなかったら駄目だったよ!」等、一匹一匹に感謝を伝えられる。


 こんなに感謝されるのは初めてで、思わず照れて両手で顔を隠す。


 すると今度はみんなして「可愛い!」って言ってくるので、ラキの後ろにしゃがんで隠れた。ラキは小さい姿だから、ほぼ隠れていないけど。


 そんな俺の様子に、ラキが仕方ないと言わんばかりにため息を吐く。ごめんね、こういうの慣れていないんだと呟く。


 ラキはそっと俺の頭を撫でると、大きくなって抱きしめた。ラキの温もりを感じて力が入っていた体が脱力する。


 こんなに疲れたのは、こっちに来てから初めてだ。疲れを自覚した途端、眠気が一気に来てなんとか起きようとしていたけど、ラキに寝てなさいと言われそのまま寝た。


 気が付くと寝室のベッドに寝ている。みんなはあれから帰ったのかな。


 なんだかんだで考える暇がなかったけど、なんで人間たちが攻撃してきたんだろう。動物たちと争ってまで欲しい物があったのか? それとも何かを探すため? 謎は深まるばかりだ。

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