第10話:唐人

新名屋は羽柴家の御用商人となりました。俺としては天下人、豊臣秀吉に密接な繋がりを得るができた。後で知ったがどうやら田中与四郎も羽柴家の御用商人になったようだ。田中与四郎が俺の下を訪ね、共に御用商人として頑張りましょうと激励をいただいた。それはさておき、俺の店に変な奴が寝ていた


「Zzzz」


「唐人さんよ、起きろよ!」


汚らしいが衣装からして明国から来た唐人だということが分かるが、なんでウチの前で寝てるのか、しかも酒臭い、伝兵衛は店の前で酔っぱらい寝しているこの男を起こそうとしている途中である


「・・・不舒服(気持ち悪い)、我渇多了(飲みすぎた)。」


ようやく起きて、第一声で大陸の言葉を吐いた。大陸の言葉は分からないが、きっと二日酔いで気分が悪いんだろうと思った


「はあ、誰か茶碗に水を1杯入れて持ってきておくれ、この唐人さんに飲ませる。」


「あ、はい。」


奉公人に命じて、水を持ってこさせるよう命じた。茶碗に入った水を唐人に渡した


「謝謝(ありがとう。)」


唐人は御礼の言葉をいい、茶碗に入った水を飲みほした。そして俺の方を向いて・・・・


「いや、助かったあよ、ありがと。」


今度は日本語で話しかけてきた


「この国の言葉が分かるのか?」


「はい、私の母が日本人だった。名はマオ・ジロウ。焼き物職人をやってるよ。」


この唐人、正確に言えば父が唐人、母が日本人のハーフである。ジロウいわく、両親が死に、母の故郷であるこの国で明国から伝わる焼き物を伝えようと単身来日したらしいが、行く当てもなく、身なりが汚かったためか雇ってもらえず、やけ酒をし、いつの間にかウチで寝ていたという


「焼き物職人と言ったが、どんな物を作るんだ?」


「明国の皿や器や壺や鉢や瓦を作れるよ。」


「そうか、もし行く当てがないなら、ウチに来ないか、焼き物職人として雇うぞ。」


「旦那様、よろしいのですか!」


「構わん、店の発展のためなら、唐人だろうと南蛮人だろうと雇うぜ。」


「おお、ありがと!これからもよろしく。」


こうして明からやってきた焼き物職人、マオ・ジロウを雇った。早速、焼き物のための窯の材料や焼き物の材料を購入し、マオ・ジロウの指導の下、時間をかけ、ついに窯が完成した


「さて、お前さんの腕を見せてもらうぞ。」


「任せとき。」


早速、ジロウの目つきが変わり、焼き物の材料を水と土に混ぜ合わせ、作り始め、練り固め形にしていった。ジロウから発する並々ならぬ熱気に俺は息を飲んだ。こいつは本物だと・・・・

ジロウは窯に火を入れ、温度を調節しながら、作った物を入れた。時間をかけ、じっくりとやった


「旦那さん、焼き物が完成するには1日じゃ終わらないよ。」


「そうか、できあがったら知らせてくれ。」


「分かった。」


俺はジロウに任せ、俺は仕事場に戻った。大陸から伝わる最先端の焼き物の技術、精巧な作りと美しさ、当時の日本にはないものだ、秀吉が行った朝鮮出兵で、多くの武将が、朝鮮の焼き物職人を持ち帰った。薩摩焼・萩焼・有田焼・上野焼・高取焼等が生まれ、現代でも受け継がれている。次の日になり、出来上がったと知らせが来て、俺はジロウのいる窯へと足を運んだ


「できたよ。」


ジロウが見せたのは、精巧に作られた食器だった。現代日本にも通じるほどの出来の良さに俺は感服した


「凄いな、大陸の焼き物は!」


「それは良かったよ。それで旦那さんにお願いがあるんだが。」


「何だ?」


「焼き物を焼く上で、材料もだけど、人手が欲しい。あと、窯の増やして欲しいんだけど。」


「そうか、分かった。」


俺はジロウの願いを聞き入れ、日本の焼き物職人を雇い、新たに土地を購入し、窯工房を作った。日本出身の焼き物職人は大陸から伝わる焼き物の技術に舌を巻き、ジロウに弟子入りし、順調に国産の焼き物が出来上がった。ジロウの作った焼き物が店に並べられ、道行く人々はその精巧さと美しさに見惚れていた。その中には田中与四郎も含まれていた


「これは見事な茶碗だ。」


「お褒めいただき恐縮にございます。」


「この茶碗いくらで売ってくれる?」


「申し訳ありません、これらはあくまでも展示品でして売り物ではないのです。」


「だったら新しい茶碗を作って欲しい!金に糸目はつけぬ!」


「は、はぁ。」


俺は与四郎の依頼を引き受け、ジロウに新しい茶碗を作らせた。田中与四郎から、もう1つ注文があり、黒一色の茶碗にしてほしいそうである


「無問題(問題ない)、それくらい出来るよ。」


ジロウは念入りに茶碗の形を作り、様々な工夫を凝らしていた。そして出来上がったと知らせが入り、俺は田中与四郎の屋敷に知らせた。すると与四郎は足早に窯工房を訪問したのである


「黒一色の茶碗だよ。」


ジロウが持ってきたのは、正に黒一色、どの方角から見ても漆黒の闇を形にした茶碗である


「おぉ、正に黒。」


与四郎は手を震わせながら、恐る恐る茶碗を手にした。そして感触を確かめた後、与四郎は俺とジロウに頭を下げた


「内蔵助、ジロウさん、ありがとう。これほどの代物、私には勿体無いほどだ。本当にありがとう。」


「お気に召していただけて、何よりです。」


「職人として仕事をしただけよ。」


田中与四郎は早速、黒一色の茶碗を、堺の会合衆の方々に披露し、その出来の良さに、誰もが舌を巻いた。その茶碗を作った我ら新名屋は更なる評判を呼んだのは言うまでもなかった



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