敗者の訴え

「はい。治癒士共も呼びました。医者はもう、動いても良いと」


 興奮を押し殺すような声でフェリエラは答えた。療養の為の寝衣ではなく、クエスト用の姿をして。


「それで、何の用だ」


 あの日、フリューゲルに襲い掛かったフェリエラは敗北した。その代償であるこの一ヶ月間の療養と謹慎。


「鍛えて下さい」


 そしてその中でフェリエラは。


「あの女を殺す為に」


 最早言葉で誤魔化す事すら出来ない殺意を抱いている。


「一つ聞いておく。何故、フリューゲルをそうまでして憎む」


 以前からフェリエラは何かと俺に干渉してきた。何かを理由に、俺に執着している。


 その上でフリューゲルを襲い、ここまでの殺意すらも抱く理由が分からなかった。


「私の方が!オーウィンさんの隣に相応しいからです!」


「隣?」


「風足を使える私こそが、オーウィンさんの凄さを、夢を!継ぐのに相応しいんです!だから、あの女は邪魔なんです……!」


「……は」



 夢を継がせる。少し前までの俺が逃避の末に出した答え。


 執着の原因は知らないが、フェリエラはその答えにそっくりな行動を取ろうとしていた。だから、俺自身が夢を託すと言ったフリューゲルを敵視した。


 そして、私がお前の夢を継ぐと言われてしまう程に外から見た俺は腑抜けていたのだろう。思わず笑いがこぼれた。


「だがお前は、フリューゲルに負けた」


「……」


「お前では足りん。分かっただろう」


「……で、でも、私を選んでくれました」


「何?」


「私の方が……夢を託すに相応しいと思ってくれたんですよね?……でもまだ足りないから、もっと私を強くする為に、あの女を捨ててここに――」


「……何故そうなる。最初に言っただろう。一時的に部屋の一室と庭を借りる。その為の金も言い値で払うと」


「……」


「それに俺がフリューゲルから離れたのは、今のアイツの側に俺は居ない方が良いと感じたからだ。あのままではアイツは冒険者として自立する事が出来ない」


 俺が自分の家を出た後に欲したのは自由に動き回れる環境。今の俺がするべきは実戦ではなく、新たな戦い方を作り出す事。


 その上で俺の知り合いの中で唯一広大な庭を持つフェリエラの存在を思い出し、交渉した。フリューゲルから離れたのも祭りの日に見せた危ういあの目が原因だ。


 ただそれだけの理由で、俺は今ここに居る。


「それにな、もう止めたんだ」


「……え?」


「誰かに夢を託すのは止めた。俺はもう一度自分自身で高みを目指す。だからもうフリューゲルは関係無い。お前も、俺を気に留める必要が無い」


「そ、その足で……?」


「ああ」


「無理です!風足どころか普通に戦う事すら満足に出来ないのに!」


「何とかする」


「私に……私に任せて下さいよ!そうまでして戦う意味なんて――」


「居た居た。本当にここに居たんだ」


 フェリエラの言葉を遮って、その声が聞こえた。声の出所――敷地全体を囲う壁の方を見る。


「フロイデ……」


「久しぶり」


 俺の遥か先を行ってしまった幼馴染が、ひらひらと壁の上で手を振っていた。

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