弓矢当て

「――オーウィンさん!あれは何なんですか?」


 フェリエラに関する話の中で一時は沈んでいた調子が再び上がったようで、フリューゲルは今までに見た事が無い程の機嫌の良さだった。


 俺の手を引き、興味を持った店や遊興に次々と連れて行こうとする。今、目の前にいるのは遠く離れた場所に置かれたマトに向かって弓を構えている男だ。


「……!くそっ!」


「あー全部ハズレだ。もう一回やるかい?」


「やらねーよ。というか当たんねーよ!」


「おいおい、やる前は余裕だって言ってたぜ兄ちゃーん」


「俺は弓の名手だーって言ってたぞー」


「うるせー!」


 店主に弓を突き返し、そう吐き捨てる男を周囲の見物客が囃し立てている。


「矢をマトに当てれば払った金が当てた数に応じて何倍かになって返ってくるって遊びだ。基本は一本も当たらんがな」


「え、そうなんですか?弓って、上手い人が居るんじゃ……」


「弓や矢尻、矢羽に細工をしてわざと当たりにくくしてる筈だ」


「……ずるい」


 湧いていた興味が萎んでいくかのようにフリューゲルは呟いた。確かに卑怯ではあるが、これは遊びだ。


「皆、理解した上でやってるさ。技量差の無い平等な遊びだという事だ。それに――」


「お、やるかい兄ちゃん」


 店主に金を払い、弓と五本の矢を受け取り指定された場所に立つ。渡された弓の方は問題無いが、矢の方にいくらか細工がされているようだ。


「オ、オーウィンさん?やるんですか?」


「技量差は無いと言っても、それぞれの矢にはそれぞれの歪みがある」


 俺は五本の矢をそれぞれ見比べ、矢尻の特徴や矢羽の乱れを確認し、一本目を構えた。


「それを把握し」


 一本目。


「一本毎に」


 二本目。


「適切な力と」


 三本目。


「狙いをつければ」


 四本目。


「当てられない事は無い」


 五本目。


「当たってねーぞー」


「はーい兄ちゃん、全部ハズレね。もう一回やるかい?」


「……やらん」


 五本全てを使い果たし元の場所へと戻ると、俺の醜態にフリューゲルは何を言っていいか分からないという顔をしつつも、やはり気になるのか店の方を横目でちらちらと見ていた。


「お前もやるか?」


「――はい!」


 その後、フリューゲルは二回挑戦したが一本も当てる事は出来ていなかった。


「もう少し背筋を伸ばせ。……そうだ」


「――っ!あっ!惜しい!もう一回、もう一回やります!」


 そもそも弓を扱う事自体が初めてだったようで構え方も拙いものだったが、フリューゲルは終始笑顔を浮かべていた。

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