祭り

「冒険者の皆さん!大規模クエストが実施される事になりました!期間は明日の正午から夕刻です!詳細説明や受諾を希望する方は受付へ!」


 受付がハンドベルを鳴らし、ギルドの中央でそう宣言した。予想していた冒険者が多いのか、既に何人かが受付へと向かっている。


 俺とフリューゲルのように休憩所に居る連中も含め、ギルドは徐々に活気づき始めていた。


「な、何だか雰囲気が変わったような……」


「最近受諾待ちのクエストがやたらと多かっただろう?そういう状況になると決まって実施されるからな。予期してたヤツが多いんだ」


「……おい、本当に受けるのか?報酬とか無いんだろこれ」


「バカ野郎。ギルドから評価されるんだ、しといた方が良いって。上の等級の人達の戦いも見れるんだぞ」


 俺達の横を通り過ぎた見るからに駆け出しの冒険者達の会話が聞こえた。


「……え、報酬が無いんですか」


「無い。……俺達が普段受けてるようなクエストは一つ辺りの規模を小さく、対象を限定化する事によって成功の確実性や安全性を高めている。ゴブリン数匹や区域単位の内容が存在するのもこれが狙いらしい。分かるか?」


「は、はい」


「このクエスト設定の方針があるからこそ、個人の力量に合ったクエストを冒険者が選択する余地が生まれる訳だ。ただ、これだと一つ一つのクエストの消化速度、つまりモンスターへの対応速度は少し落ちる」


 フリューゲルが倒したアーマードベアのように、クエストに関係の無いモンスターを倒しても報酬が発生する場合はある。


 しかしギルドへの発見報告だけでもある程度の報酬は貰える事を考えると、クエスト外のモンスターをわざわざ相手にするのはリスクだと考えるヤツは多い。


「そうすると徐々にモンスターの増加とクエスト消化の速度が釣り合わなくなる事がある。それに合わせてこの大規模クエストが実施される」


「最近は結構クエストを受けてましたけど、それでも足りないんですね……」


「……それだけ多いという事だな」


 最近のフリューゲルは積極的な姿勢でクエストを受諾している。高難易度のクエストを即座に消化し報告された事で驚いた受付の顔を何度も見てきた。


「大規模クエストの内容はただ一つ。細かな指定は無しでだ。報酬は無いが目立った活躍をすればギルドから得られる評価は大きい。普段のクエストを焦れったく感じてるようなヤツらは鬱憤を晴らせる。そういう理由もあって、俺達はこれを祭りと呼んでいる」


「そうなんですね……」


 フリューゲルは発行された手元の昇級クエストを見つめていた。


「恐らく、参加が条件の時点で既に実力は認められている。主に見られるのは素直にギルドの意向に従うかどうかだな。……ただ、ここで目立てばそれだけ金等級までの道も短くなる。気張れよ、フリューゲル」


 俺の言葉に、フリューゲルは真剣な顔で頷いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る