第32話 風呂嫌いの奴隷

「ジョー。アランが動かなくなってしまった」



 海賊たちと甲板で星を見ていた。

 そこへ少しも慌てずに、船室へアランと消えたはずのジョンが戻ってきた。

 動かなくなったっていうなら、もう少し慌ててもいいんじゃなかろうか。


「……チッ、俺の船に小汚え格好で乗りやがって……」


 案内された船室には、まだまだ怒り心頭という様子のディヴィスと縄で縛られピクリともしないアランが向かい合っていた。

 アランは服を着たままびしょ濡れで髪の毛から水が滴っている。


 どうやら水をかけたらしい。

 あんなに汚いので丸洗いしたくなる気持ちも理解できた。

 ただそれでアランは動かなくなってしまったらしい。


「そういえば、タリクがアランは風呂嫌いの変な奴隷だって言ってたな」

「風呂嫌い!? 正気かよ!!」

「う〜む、さきほども水はダメだと叫んでいたが……奴隷の取扱書などは持っていないのかな」


「あ、もらったよ。書いてあるかな……」

「そういう取扱書というのは総じて奴隷個人用のものだったりするからね。前の主人がきちんとした相手なら、こういうときの対処法も書いてあるはずさ」


『収納』していたマニュアルを取り出してページを捲っていく。

 奴隷──アランのことだ──が動かなくなったときの対処法……。


「あ、魔力で刺激しろって書いてある」

「おお! では頼めるかい、ジョー」

「え、私ですか」

「君の奴隷だ」

「……はい」


 渋々アランへ手を伸ばす。

 どこかせめて清潔そうなところを、と手を彷徨わせて、ええいままよ!

 そんな決意とともにアランの二の腕へ手を置いた。


 魔力!

 手のひらからアランへ魔力を注ぎ込んだ。


「う、……」


 呻き声がして、アランの体が微かに動く。

 その時である。


 ぽろり、とアランの腕がちょうど私の持つ二の腕部分から外れた。


「!?」

「ほう、なるほど」

「フン、そういうことかよ」

「2人だけで納得しないで!? 説明! 求む!!」


 何故かそれぞれ納得の反応を見せた2人へと叫んだ。


「チッ……うっせえな……何騒いでんだよカスど、も……」


 アランが意識を取り戻す。

 言いながら、自分の腕を持つ私へ視線が移ったのが首の角度で分かった。


「あ、あのこれは……違くて……」

「あーはいはい、クソの言い訳はどうでもいいから腕はちゃんと元の位置に嵌めとけよ。あと再起動ありがとさん」

「再起動……?」


 人体に使うには聞き慣れない単語に首を傾げる。

 持ったままのアランの腕を改めて見つめ直せば、ちょうど外れた腕の断面にコードのようなものが見える。

 肉でも骨でもない。

 そうだ、腕が取れたのに血の一滴も流れていないじゃないか。


「再起動であってら。俺は体の8割が機械になってるサイボーグだからな」


 ニヤリ。

 アランは不敵に笑ってそう言った。



 世界観くんさあ……そろそろ本気で仕事しない?

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