【Roster No.8@ウランバナ島中央部】


 99人殺してハッピーエンドだ。


「そうですね」

「ヒィッ!」

「カメラに向かって、最期に言っておきたいことは?」


 このシーンが抜かれていたら、全国の皆さんにお届けできますよ。


「ね、ねえ、ウチは! ウチはふたりに合わせてただけで、ウチは、ウチはふたりを止めてたから!」

「うん」


 わたしはすっかり黙ってしまったを見る。


「だから、ねっ? これからはウチらふたりで戦ってこ?」

「うーん……」

「サユキひとりじゃ、心細いでしょ? ねっ? ねっ?」


 そう言ってわたしの左足に縋り付いてきた。その「ねっ?」は同意を求めているおつもりなんでしょう。つばを吐きつけてやりたい。

 このわたしが、あなたたちがわたしにしてきたことを、この千載一遇のタイミングで、許すとでもお思いなのでしょうか。


「サヨナラ」


 わたしはドラグノフ――この長いライフルの名前だ。厨二病っぽい名前だから覚えやすい――を、泣きついてくる同じクラスだった女の脳天に振り落とした。


「あぎゃ」


 左足から手が離れて、上体がよろめく。わたしはドラグノフを構えると、その銃口を女の額に押し当てて発砲した。


「ぎゃ、あ、あアあ」


 他のふたりと同じく、今まさに致命傷を受けた事実を受け入れられないような表情をして、仰向けに倒れる。

 どうしてこのわたしが、あなたたちを許さなければならないのでしょうか。――わたしは、あなたたちがカメラに向かって「仲良く優勝します!」と意気込みを語っている最中でも、あなたたちから最初に殺してやろうと、思っていました。


 想定ではサブマシンガンで銃弾の雨あられを叩きつけてやろうとしていましたが、ちょうどよく落ちていませんでした。仕方なくドラグノフをフルスイングしたら、あるのかないのかわからないような脳みそをぶっ壊せたのでよかったです。やっすい化粧品で塗り固められたその顔がゆがむ様は、スカッとしました。この時を、わたしは待ち望んでいたのでしょう。


「う、ぅう、う」

「しぶといですね」


 あなたたちがわたしにように、わたしは女の背中を踏みにじる。……これってマッサージですよね。そう言ってましたよね。

 銃弾がツルッツルの脳みそを貫通しているのに即死できないなんて、あなたはゴキブリか何かですか。ゴキブリに失礼ですね。


「……」


 ようやく黙ってくれた。死体を蹴り飛ばしながら他のふたりの近くに置いてやる。あとでこの家ごと焼いてあげます。

 地獄でも三人仲良くしてくださいよ。わたしはあなたたちの分まで戦って、生き残ります。


「これで残り79人、ですか」


 わたしは携帯情報端末の死亡ログを確認して、ため息をつく。目の前の元クラスメイトたちが確実に死んだと、システム上でも判断できました。

 思っていたよりも減らない。輸送機内で威勢よく「全員ぶっ殺す」と息巻いていた女の子はどうしたんでしょうか。口だけは一丁前なビッグマウスちゃんですかね。


「きっとたちは生き残っているんでしょうね……」


 ヒトメサマ。陽キャの間で流行っている、厨二病全開の配信者。それっぽいことをまことしやかに言ってのけたり、大掛かりな装置を作ってタネも仕掛けもあるようなイリュージョンを見せたりして再生数を稼ぐ、インチキ霊能力者。ご本人のとしては「伊達政宗の生まれ変わり」なんだそうです。わら。


 このかわいそーな人たちが場違いな『ウランバナ島のデスゲーム』に参加したのは、このヒトメサマが参戦しているからだ。四人目にいじめられっ子のわたしを入れたのは、この人たちなりに「サユキも友だちだし」という理由があったから。わたしはちっとも友だちとは思っていなかった。あちら側からすると友だちだったらしいです。


 ヒトメサマは三ヶ月前に【緊急告知】とかいういかにもなライブ配信で、唐突に、取り巻きの信者たちと共に「我らの大義のために」とのたまって、その枠内で参加申請をしていた。――詳しいねって、なんか「絶対見ろ」って言われて。ネットニュースになっていたから見る必要はなかったと思います。


 ヒトメサマはの使い手なので、自分が優勝して、亡くなった人たちをそので冥府から呼び戻すそうですよ。


 まあ、変なおじさんの妄言はともかく、ここはプレイゾーンではなくなってしまうので、ぼちぼち移動しなくてはなりませんね。サヨナラ、友だち。


【生存 79(+1)】【チーム 23】

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