【Roster No.20@ウランバナ島北東部付近】

 この世には二種類の人間がいる。


 ――って言うじゃん。勝ち組か、負け組か。その二種類。二種類しかないのなら、俺は勝ち続けたいと思った。どっちつかずはない。だから、この戦いにも勝つ。そうでないと、負け組になってしまうから。いつだって俺は勝ち組であり続ける。


 なお、他のチームメンバーはどっか行った。俺がお前らを優勝まで導いてやるって言ってやったのに、俺の言うことがどうも信用ならなかったんだとかなんだとかぐちぐち言っている、のがトランシーバーで聞こえてきちゃうもんだから、さっきトランシーバーを踏みつけて壊してやった。自分に自信を持てない奴は何をやっても大成しない。根拠のあるなしに関わらず、気持ちの持ちようが人間三度の飯よりも大事。お腹がいっぱいになったと思い込めば空腹も和らぐものだ。


「いちゃいちゃしやがって……」


 俺は、俺こそが『凄腕のスナイパー』なのだと、心の中の俺自身に言い聞かせる。パラシュートでウランバナ島へと降り立ち、平屋建てで武器を調達する。カルカノM1938――あのJFKの暗殺に使用された、とされるスナイパーライフル。俺は俺自身にオズワルドを憑依させた。ことにした。


 大統領だって殺せてしまうのなら、一般人を殺すなんて他愛もないことだ。大統領の命と、一般人の命のどちらが重いかといえば大統領の命のほうが重たいはず。大統領は絶対的な勝ち組。なんたって大統領だもの。


 武器を手に入れた俺の前を、クソデカいタイヤの四輪車がすんごいスピードで横切った。間一髪のところで直撃は免れたものの、俺の身体があともう一歩でも前に出ていたら轢かれていたところだった。ふざけんなよな。だから俺は岩陰に一旦身を隠して、心を落ち着かせてから、上体を右に傾けて、そのすんごいスピードで通過してった四輪車に乗っているカップルを男から順番に撃ち殺すことにしたのだ。


「……」


 この引き金を引けば、スコープ越しに見えるカップルの男のほうを殺せる。おそらくカップルだろう。カップルに違いない。なんだかガミガミと言い合っている。俺は何度目かの舌打ちをした。女のほうはセーラー服で、男のほうは軍服のコスプレをしている。どちらも顔つきが幼いから、ひょっとしたらリアルに女子高生と、コスプレが趣味の男子高校生のカップルなのかもしれない。そういうことにしよう。そういうことにしたら、どんどん腹が立ってくる。むかつくなァ……!


『違反者ヲ発見シマシタ』


 ようやっと引き金に人差し指をかけたところで、背後から機械的な声をかけられて「へ?」と振り返る。そこにはドローンがいた。あのドローンだ。空を飛ぶやつね。


『ルール違反ノ為、Roster No.20ヲ“失格”トシマス』


 は?

 ルール違反?


「なんだよそれ」


 最強のスナイパーであるはずの俺が失格とはこれいかに。

 しかもNo.20って、俺だけでなく、チーム全員とも……?


「俺が何したってんだ?」

『ルール違反デス』


 俺はカルカノの銃口をドローンに向けた。ドローンに命はないから、脅しにはならないだろう。俺はドローンに聞いているのではなく、ドローンの操縦者に訊ねる。


「ルールって、このウランバナ島に落ちてる武器を拾って殺し合う、んじゃなかったのか?」

『“失格”デス』


 例えばこのカルカノを俺が大事に抱えて持参したってのならまあそうだよなルール違反だよなウンウンって納得できる。そうじゃない。さっき拾ったばかりのもので、ルール上何の問題もない。運営がばら撒いた各種武器は、この島の中でなら自由に使用してもいいとされている。


「何がダメなんだよ」


 俺はただ、見える範囲の別のチームの参加者を狙撃しようとしていただけだ。正々堂々と正面切って勝負しろ、っていうルールはなかったはずだよな……? 大将戦じゃあるまいし。大将首を取ったほうが勝ち、ではなくて、何をしてでも最後の一チームにまで残れたらよかったはずだよな。自信がなくなってきた。


『ルール違反デス』


 こいつ、同じことを何度も言いやがって……!

 俺の質問に答えろよ!


『“失格”デス』


 ドローンの真ん中の部分が変形・・し、ミサイルの発射口のようなものが現れた。

 は……? 何?


「くそ!」


 俺はカルカノを一発、ドローンに撃ち込んだ。この一発により、四つの羽根のうちの一つの羽根は破壊される。が、このドローンとかいう機械はその飛行を止める気配がない。四発当てないと落とせねぇかチクショウ。


発射・・シマス。5……』


 カウントダウンが始まった。俺はたまらず「なんだよ!」と叫びながら逃げる。ほんと、なんだよ!

 意味がわからない!


『2……0』


 襲ってくる理由が支離滅裂なら、カウントダウンもデタラメだ!

 5の次は2、2の次が0となって小型のミサイルが発射される!


「うわああああああああああああ!?」


 <<トロット が プレイゾーン外 で 死亡しました>>



【生存 82(+1)】【チーム 23】

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