第4話 変身! 咲枝、転職!?

「ああああああっ!!」


 叫ぶ。とにかく叫ぶ。恥ずかしさを振り払うように。叫ばなければ理性を保てないかのように。


「絶っ対! 許さんからなああっ!!」


 23歳女性会社員が、2度、屋外で裸を晒すという公開処刑。さらに2度目は自らの意思で。

 確かに、輝く光によって大事な部分は隠されるとは言え。恥ずかしいのには変わらない。非常時で、誰も見ていないとは言え。咲枝の心情は察するものがある。


「む! この気配……。エナリアか!」

五月蝿うっさいハゲ! こっち見んなハゲェ!」


 怪人。ドラキュラ男より体格が大きい。全身が焦げ茶色で角やトゲが生えており、大型の爬虫類を二足歩行にしたような印象だ。標識や電柱、ガードレールをひしゃげさせ、破壊している。辺りには警官が数人倒れている。足元に転がっているのは銃弾だろう。全く効いていないのだ。


「誰がハゲだ! 殺す!」


 咲枝の罵倒に反応した怪人は、唸る右拳を振り抜いた。


「ぬっ!」

「チョロいわハゲ!」


 それをひらりと躱し、懐に入る。入る際に身体を捻り、反転しながら振り抜かれた右腕を掴む。

 そして、腰を相手の股に滑り込ませて、持ち上げる。同時に腕を引き付けて、力の限りぶん投げる――


 ――【背負い投げ】!!


「がっはぁっ!!」


 ズドン、と巨大な衝撃音、そして振動が走る。コンクリートを割りながら、怪人の身体は地面へ深くめり込んだ。そのまま動かなくなった。











「……身長タッパが全てちゃうぞハゲ山ァ」


 ぱんぱんと埃を払う。咲枝はふうと息をひとつ。


「サキエー! 信じてたディ!」

五月蝿うっさいハゲぐるみ。少しちょお黙っとれ」

「ハゲぐるみ!?」


 ポポディもやってくる。だが咲枝はその場から動かず、ぷるぷると震えている。


「いやマジで今話し掛けんといて。力抜いたら変身解けんねやろ? ちょっ。本当ほんま無理。もう1回ハダカとか本当ほんま無理。これがあるから無理やわやっぱ。本当ほんま恥ずかしいねんてこれ」

「さ、サキエ……?」

「春風さん!」

「!」


 当然ながら、空石もやってくる。だがそれのせいで、咲枝は動けない。


「そ、空石さん……ちょ、見んといて。本当ほんま無理やって」

「……分かってるよ」

「!」


 空石は、コートを脱いで咲枝に羽織らせた。


「えっ」

「こっちにパトカーがある。すぐに離れよう。着替えも用意させる」

「…………!!」


 暖かいコートと共に、そんな言葉を掛けられては。


「……あっ」

「!!」


 気も力も抜けてしまう。コートで隠しているとはいえ。その下は再び全裸になってしまった。


「……嫌や。見んといて。へんたい」

「……み見てない! ほらこっちだ! ここでひとりになった方が駄目だろ!」

「ぅぅ。最悪やぁ……」











「……なあポポ」

「なんディ?」


 またしても、警察署にて。今回は取調室ではなく、応接間に通された。今回も咲枝は、婦警にジャージを貸して貰っている。


「なんで1回、ハダカを挟まなアカンの? 本当ほんま意味分かれへんねんけど。要らんやんそんなん」

「戦闘服にならないと戦えないディ。それは仕方ないディ」

本当ほんまになんとかならんの? アタシ本当ほんま、もう変身せんで本当ほんま

「それは……」

「いや、アタシな? ちょっとやる気になってんやんか。病院で、あのおばちゃんらに感謝とかされて。怪我とか見て。アタシが戦うことで、助けられるんやなあとかおもて。やけどな。それとこれはちゃうやん。その為に毎回全裸になれとか。そんなんちゃうやんか。アタシにも人権ある筈やんか」

「……じゃあ、常に変身してるとかはどうなんディ?」

「そもそもあのフリフリが恥ずいやんか。似合におうてへんし。コスプレやんか」

「おいらは、似合ってると思うディ」

「ぬいぐるみ族の基準で言われてもなあ」

「ぬいぐるみ族じゃなくて『エナジーアニマル』ディ!」


 今回も、空石に待たされている。彼は真面目だ。正義感も強い。加えて男前である。


「すまない。待たせた」

「お疲れさんやな。お互い」

「…………」


 やがて、空石がやってくる。昨日会ったばかりなのに、もう敬語が取れていると彼は思った。まあ、別に良いが。


「……これは話すべきか迷うんだが」

「ほえ?」

「君を、対怪人の戦闘員として雇えないかという話が出ている」

「!」


 空石からの提案に、咲枝はぴくりと反応した。


「今日で分かったが、怪人には銃が効かない。少なくとも日本の警察が持っているようなものではな。それを、君は素手で。二度も撃破した。その功績を鑑みての話だ」

「…………アタシを、雇う」

「こんにちは」

「!」


 そこへ、もうひとり男性が入ってきた。空石と同じく20代くらいで、白衣を着ている。真面目な顔の空石とは違い、嬉しそうに笑っている。


「その話を持ち出した、俺の同僚だ。名は三木」

「三木です。君が『春風咲枝』さん? へえ、思ってたよりあれだな」

「(あれってなんやねん)」


 三木は空石の座るソファの、肘掛けに座った。


「『怪人』。ひと言で言うけどな。あれは未知の生命体だ。強靭な肉体、映像を見る限り俊敏な動き、そして人類への敵性。既にネットでは宇宙人だと話題になっている」

「宇宙人……」

「それで言うと、君の動きも似ているんだ。春風さん」

「は?」

「人間には反応できない速度で反応し、人間にはできない力を発揮し、怪人を倒した。銃弾が全く効かなかったのに、地面に叩き付けられただけで戦闘不能だ。分からないことが多すぎる。そのぬいぐるみについても」

「ディ!?」


 三木はにやりとしながら、咲枝とポポディを交互に見る。


「常時、都内を私服警官などこちらの人間で巡回し、怪人の発生を君に報せる。君はそれを受けて現場へ急行し、怪人を倒す。……それが現状、一番被害を抑える手段だと考えている」

「…………でも、アタシ仕事が」

「俺は反対だけどな。三木」

「!」


 空石がそう言った。


「何度も言うが、彼女は一般人だ。戦闘に巻き込む訳にはいかない。それに彼女にも彼女の日常、生活がある。こんな、いつ終わるとも知れない事件に関わらせるべきじゃない」

「空石さん……」

「勿論タダじゃないさ。俺も上に掛け合う。そりゃあ命を懸けるんだ。それなりの報酬を約束しないとな」

「!」


 反応した咲枝を見て。三木はにやりとする。


「それに、一般から自衛隊や警官を募集するのは当然だろ。一般人を戦わせる訳じゃない。署内に怪人専門の部署を立ち上げる。彼女には普通に警官とかになって貰ってから、そこに配属させれば良い。女性警官や女性自衛官なんか、沢山居るじゃないか。お前は彼女達にも戦うなと言うつもりか?」

「…………だが。そうだ、結局は本人次第だろ。なあ春風さん。断って良い。別に強制なんてことは無いんだ。怪人は俺達に任せれば良い」

「…………」

「どうする? 春風咲枝さん」


 空石と三木、ふたりの視線を受けて。


「…………アタシ」


 咲枝は。


「今の仕事、上手く行ってへんくて。正直アタシに向いてへんのかなっておもてたんです」

「!」


 俯きながら。


「……でも、ほならアタシに何ができるんかって。いっつも考えてて。何かできることあるんかなって。……今日、空石さんに教えて貰った病院で、アタシに助けられて良かったって喜んではるおばちゃん見て。……これ、アタシがやったんやなって、おもて」

「……サキエ」

「正直柔道初段しか持ってへんけど、初めて役に立ったんやなって。……アタシが『エナジー』に適性あったんは、奇跡なんやないかって」


 自分の考え、思いを纏めようとしていた。


「…………やけど……」


 空石は分かっている。彼女が毎回、恥ずかしい思いをしていおり、それを本気で嫌がっていることを。警察に入るならば、身体を徹底的に調べられるだろう。もっと恥ずかしい思いをするかもしれない。


「思い付いたディ」

「?」


 咲枝の言葉が詰まった所で、ポポディが短い手を挙げた。勿論男性ふたりには言葉は分からないが。


「変身時に『エナジー』をもっと放出して、ギラギラに光ったら皆眩しくて見えないディ。その間に戦闘服になるディ」

「…………そんなんできるん? 『エナジー』ってそんな無駄遣いアカンやろ」

「それは、倒した怪人から吸収すればいいんディ。昨日と今日、2体分があるディ?」

「…………そんなんできるんか……」

「えっと。春風さん。ポポディは何と?」

「……空石さん。捕まえた怪人ふたり、どこにるんですか?」

「えっ」






☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

次回予告!


〈咲枝〉:春風咲枝やで! ていうか毎回このコーナーでアタシテンション高過ぎへん?


〈ポポディ〉:知らないディ。おいらはポポディ! ウインディアからの使者ディよ!!


〈咲枝〉:アンタもやん。


〈ポポディ〉:で、エナリアやってくれるディ?


〈咲枝〉:……はぁ。本当ほんま仕方しゃあ無いなあ。


〈ふたり〉:次回!

『美少女エナジー戦士エナリア!』

第5話『変身! 覚悟を決めた咲枝!』


〈咲枝〉:なんでもえけど、サブタイにアタシの名前3週連続で入ってるやん。


〈ポポディ〉:流石主人公ディ!

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