第13話 思い出話

 家に帰ると、早速宗助が出迎えた。その後を必死に橙司が追ってきた。宗助が清美に纏わりつき、話をしようと嬉しそうに腕を引っ張った。

 橙司が自分も聞くのだと宗助に纏わりついた。宗助は嬉しそうにしていた。

 私も橙司に負けじと参加を表明した。まだ喧嘩の余韻が残る清美に、寝たらいいのにと言われたが、三人について行った。

 宗助は食卓に私達を通し、せっせと茶を並べた。そして、楽しそうに桜刃組の話をした。

 人物一人一人の個性がはっきりとし、時折物騒なワードが差し挟まれるのに目を瞑れば、心躍る冒険譚ともいえそうな内容だった。最後に、宗助は桜刃組の現状の大変さをさらりと語った。頑張っている在君の力になるよう清美も精進しないといけないという文言で締めくくった。

 清美はあからさまに溜息を零した。

 宗助の話は大まかに分けると二パターンぐらいしかないらしい。初代組長凄いという話か、おいたわしや在君という話か。しかも、その二パターンの終わりは一つしかない。清美が桜刃組で役に立てるようになろうという結論しかないのだ。清美はつまらないとはっきり言った。

 宗助がむっとする。話術には自信があると返した。そのことは私も同意であったが、表面には出さないように努めた。

 橙司はそういう問題じゃないと切り捨てた。そして、朗々と宗助に語った。

 ――僕も清美も現代っ子。宗助とは生まれた時代が遠く離れている。宗助にはピンとこないかもしれないが、僕らが物心ついた頃にはカラーテレビは既に普及しており、子どもの頃から容易くネットにアクセスできた。それによりドラマやアニメや映画といった視覚情報付きの物語が簡単に、多く、そして高いクオリティで楽しむことが出来た。だから、宗助の世代と違って、視覚情報がない話は想像しにくい。しかも、宗助の話は現実の思い出話。小説のように伏線が巧妙に張られて一つの作品として出来上がっているものでもないし、落語のように笑えるポイントもない。だから、注目すべき点が分かりにくい。しかも、登場人物が多い。情報と言えば、名前と性格ぐらい。本であれば分からなくなれば見返せるが、口で言われちゃそれもできない。記憶を頼りに情報の整理をしなければならないが、それが現代っ子には酷く難しい。難しいので、興味も持てない。

 つまり、と橙司は仰々しく人差し指を立てた。

 ――写真が必要なのだ。

 宗助は雷撃に打たれたように驚いていた。そして、目を輝かせて声を上げていた。納得がいったらしく、肯定した後に橙司を褒めた。ひとしきり撫でまわした後、写真を貰いに行ってくると告げて立ち上がった。別の日に出発するのだろうと思っていたら、財布だけ持って家を飛び出した。

 嵐のような目まぐるしい宗助の行動に清美はぽかんとしていた。私も同じ表情だったに違いない。

 橙司は清美にも褒めてもらいたかったらしく、清美の隣で胸を張った。清美は頭を撫でながら、自分より宗助の扱いが上手い事を褒めた。が、橙司はその点ではなく、写真のことで褒められたかったと訴えた。清美は暫く唸った後、まあでも、と話し出した。

 ――単純に見てはみたい。

 それから無邪気な笑みで映画の悪役で御馴染みの俳優の名前を羅列していき、ああいうのが見れるに違いないとはしゃいだ。橙司もはしゃぎ、まあ私も同じ気持ちはあったので調子を合わせた。それから、三人で強面俳優の名前で古今東西をした。

 その期待が大いに裏切られるとは思わなかった。

 十日ほど後――この十日間で清美は晋也君との仲が大分良好になっていて、喧嘩にも巻き込まれず平和そのものだった――、宗助が大荷物を持って帰ってきた。大きなキャリーバッグ一つ、キャリーカートにくくり付けられた箱が二箱、そして体の三分の一を覆ってしまう大きさのショルダーバック。宗助はショルダーバック以外を自室に放り込むと、そのまま私達を食卓に呼び寄せた。

 橙司は荷物の全てが写真だと思って戦々恐々としていたが、宗助によると大部分は愛媛に来る前に預けっぱなしにしていた家の荷物だった。

 ――あの中にも初代時代の写真はあるが、兎に角、まずは今の桜刃組のメンバーを見てもらいたい。

 宗助はそう言って、嬉しそうにショルダーバックからクリアファイルを取り出した。その中から茶封筒を取り出すと、複数の写真を私達に見えないように出した。それからババ抜きでもするかのように扇形に広げた。数えると六枚あった。

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