新たな問題

 勇人は朝起きてまだ寝ている美雨の横で素早く制服に着替える。そしてリビングで朝食を済まして部屋に一度戻ると美雨が起きて勝手に本棚から漫画を持ち出して読んでいた。


「起きてから行動するの早いな、おはよう。美雨」

「おはよう勇人君、あ!その格好勇人君が通う学校の制服だよね」

「まぁね、あーそういえば美雨の設定ではたしか高校二年で俺も二年だから同い年なのか」

「うん、同い年!!そうだ私も勇人君の学校に行こうかな」

「それはさすがにダメだろ、制服も違うしそれにゲーム内キャラ本人だから色んな意味でマズい」

「でも敵がいつ出現するかも分からないよ、それに第一として『勇人君を守ること』があるから極力離れたくはないかな」

「うーんでもなぁその~難しい話なんだけど俺は構わないけど学校側がね」

「そうだよね〜……あっ!アレがあった」


 何か思いついた美雨は制服の上からローブを出現させて羽織り机の上にあるペン立てからマジックペンを手に取り床に魔法陣を描き始める。


「昨日とは違う簡素な装備だな、えっとたしか……」

「昨日は魔術士、今回はその下位職業の魔法使い。現実世界の人間にはこれだけでもかなり強力だけど今回は人に使うんじゃない。自分に使う」

「自分に?」

「そう、ブレイブファンタジーソードでは回避スキルに該当する幻影魔法を使って今の制服と私を見た時に別の姿になる幻影魔法のちょっとした下位スキル」

「へーなんでも出来るのか?」

「制限は多少あるよ、たとえば攻撃魔法の場合はスキルによって疲労が溜まる。だから武器を使う職業、戦士。騎士などで剣など武器を扱った方が多少楽です。当然武器スキルも疲労は溜まりますけどね」

「マジックポイントが疲労に変わったと思えばいいのか」

「簡単に言えばそうですね。はい完成しました」


 魔法陣を描き終わり美雨はその上に乗り呪文を唱えると勇人の視界が一瞬ボヤける、目を凝らして美雨を再び見るとあまり変化がなかった。


「うーん特に変わってないぞ」

「勇人君だけは私を神凪 美雨として認識可能です。他の人からは神凪 美雨ではない誰かにみえています」

「本当か?」

「はい!じゃあ妹さんかご両親に試してみましょう」

「ストップ!それだけはまだ待ってくれ」

「どうしてですか?別の人に見えてるか確認ですよ」

「いやそうなんだけどまず俺の部屋から女の子が出てくるのが根本的にヤバい、それにその美雨の事をどう説明したらいいかまだ整理ついてないからまだダメ」

「えーだったら素直に彼女と言っちゃいましょうよ」

「うん、そう言えたらいいんだけどね、うん……うん……そう……」


 勇人は苦悩した表情で唸る。


「な、なんか凄い表情だよ勇人君」

「いやホントマジで美雨は悪くないんだよ。ただそ俺が言う勇気が無いというかその、うん……」


 簡単に美雨は勇人の彼女だと言ってしまえばどう反応されようが家に居てもそこまで突っ込んで来ることはないが美雨はゲームのキャラであっていわゆる二次元のキャラ。それを彼女だと言い張るのは勇人でも少し気が引けた。それ以前にいつの間に自宅に連れ込んだのか聞かれそうでそっちも言い訳するのに考えるがいい案が思いつかなかった。


「もしかして嫌いになりましたか?私の事」

「いやっ!違うよ、美雨の事は好きだよ。ただそのねその〜……あーーなんて言えばいいんだ。難しい!!あーーーーというか時間ヤバい!学校行かなきゃ!!」

「待ってください!私も行きます」

「本当に着いてくるの?」

「はい、その為に魔法を使ったのでせっかくなのでこのまま行きましょう」

「マジかよ、でも家に居させるよりいいのか?うーんとりあえず学校に遅れる。奏美はもう先に行ってるからえっと〜、あーもうとりあえず行くぞ」


 あれこれ考えるがあと数分で家を出ないと間に合わなくなるためカバンを持ち急いで学校に向かった。美雨もバレずに家を出て勇人の後について行く。

 なんとか間に合い教室に向かう前に美雨は勇人に伝える。


「あ、私ちょっと転校手続きしてきますね」

「まさかそれも……」

「魔法を使います」

「なんか凄い便利なんだろうけどほぼ現実を捻じ曲げるというか悪いことにしか使ってるようにしか思えないのは俺だけ?」

「別に犯罪をしている訳ではないのでセーフです。それに勇人君にしか認知出来ないので大丈夫です」

「地味ーに犯罪なんだけどそれを証明出来るのが俺しか居ないというのも凄い複雑だな」

「安心してください。この件が終わればまっさらになるので元から私達が居ない現実に戻るので今だけはちょっと弄るだけです」

「うーんそういう事を聞いたんじゃなくて、ああまあいいや。時間が無いから先に行ってる。多分転校生扱いでも俺と同じ教室にするんでしょ」

「さすが私の勇人君!大正解です」

「うん。嬉しい反面なんか色々と複雑だわ」

「じゃあまたあとで会いましょう!」

「はいはい、またな」


 美雨は走って職員室に向かい勇人は自分の教室に向い自分の席に座る。

 そして案の定、先生が少し遅れてやって来るとそのあとに美雨も居た。当然教室は騒然とする。


「両親の都合で転校してきました。えっと〜三浦 凪です。よろしくお願いします」


 可愛らしく偽名を使い可愛さの化身をした天使のような笑みで男子生徒だけでなく女子生徒まで虜にする。

 ここまで勇人は予想通りの展開だった。当然席も隣の席だろうと予想する。ギャルゲー通りの展開、事前に予習済みの勇人は諦めの顔をしつつも待機する。しかし次の一言は予想外なものだった。


「ちなみに芹沢 勇人君の恋人です!」


 沈黙。それもそのはず突然の転校生が突然クラスメイトの恋人と聞いたら唖然とする。

 そして驚きの声、教室内は騒ぎになるが先生は何事も無かったかのように美雨を勇人の隣の席に指定して朝の時間が終わると多くの質問攻めを受ける、勇人も同じで恋人のワケを聞かれまくるが全て分からないと貫き通す。それもそのはず恋人設定は聞いてないからだ。

 そんな中でも美雨は一人一人丁寧に質問を返していた。

 昼休み、勇人と美雨は魔法を使い人から見えなくする魔法を使って誰にも邪魔されないように食堂で昼食を食べる。


「美雨。お前なぁ〜なんで恋人とか言うんだよ」

「だって〜私に告白したじゃないですか」

「いやそれはゲームの中であって」

「えっ!嘘だったんですか!?」

「違う、ただあれはゲームの中であって本当の美雨は……」


 あきらかに嘘泣きの仕草をする美雨だが勇人は面倒臭いながらも必死に言い訳を考える勇人、そんな二人の間に一人の人物がやって来る。


「あれ?お兄……とどなた?」

「え?……奏美お前見えるのか?」

「見える?お兄、今私の目の前にいるじゃん。馬鹿なの?」

「いやだって……」

「そこにいるじゃん、てか美雨?んーー……あっ!この人、お兄がやってるゲームに出てくる女の人じゃん。えっ!?まさかお兄、とうとうゲームだけじゃ飽き足らず女の人に無理やりコスプレさせて楽しむ事に走ったの!?キモ!」

「馬鹿っ!ちげぇよ、てかマジで見えてるのか?というより美雨!」


 突然現れた奏美は勇人だけでなく美雨の存在までも見えており勇人は美雨の方を見ると美雨は首を横に振り、魔法は解いてないとアイコンタクトと素振りで伝える。それを確認した勇人は美雨と共に奏美を連れて人の目が付かない校庭の端の方まで移動する。


「ちょっと急になに?離して気持ち悪い」

「凄い言われようだがそれよりお前本当に美雨の事が見えるのか?」

「はぁ?だって現にそこにいるじゃん。幽霊だって言いたいの?苦しい言い逃れね」


 美雨の方をしっかり指さす奏美。確実に美雨の事が見えさらに別の人だと認識される魔法の影響を受けてないことを確認する。

 勇人は美雨と奏美に聞こえないようにヒソヒソ話す。


「美雨。どういうことだ?もしかして家族には通用しないのか?」

「いえそれは無いと思います、魔法の効果対象外は勇人君自身だけです。例外はありません、あるとするなら……」

「するなら?」

「勇人君と同じ私達の誰かと繋がってる可能性があります」

「それってまさかプロメモの誰かが奏美の所に現れたということか?」

「はい。おそらく、でなければ魔法の効果対象外にならないのです。しかし不思議なことに彼女、奏美ちゃんは私を見て驚きました。まだ誰にも接触してない可能性もあります」

「接触してない?どういうことだ?」

「私と勇人君が出会った時覚えてますか?」

「そりゃ昨日の事だったからな、覚えてるぞ」

「私がこの世界に初めて来たのは勇人君の部屋です、そして勇人君を助けに行きました。なので来た初めは私と勇人君は出会ってないんですよ、出会ったのはその後なんです」

「ああそっか、じゃあもしかして奏美はまだプロメモの誰かとは会ってないということだな」

「はい。しかし……」

「ねぇ!お兄!!」


 突然、奏美に呼ばれる勇人はビクッと体を震わせる。


「な、なに?」

「私戻っていい?用がないなら連れてこないで」

「ちょっちょっと待ってくれ、もう少しだけ」

「早くしてよね」


 勝手に連れてこられてさらには待たされてる状況からイライラが収まらない奏美。勇人は早めに話を纏めようと急ぐ。


「んで、なんだ?」

「はい。問題はどこに現れた。ということです」

「えっとじゃあもしかして今どこかで歩いているかもしれないってこと?」

「そうなります。ただ彼女達も私みたいにこの世界に現れたらブレイブファンタジーソードの敵を倒すことは理解するはずです」

「それは良かった」

「でも問題は『誰か』なんですよね」

「あーーーー……今日学校終わったら少し探しに行くか」

「そ、そうですね」


 改めて思い出す、プロメモのヒロイン達は問題があることを、それを理解している美雨もさすがに苦笑いする。


「悪い、待たせたな」

「何なの、でそのコスプレの女の人は?」

「あーそのな、奏美驚かないで聞いてくれ」

「別にお兄が女の人にコスプレさせてる時点でもう驚かないけど」

「うん。めちゃくちゃ悲しいからやめてね。それでこの人は本物の神凪 美雨なんだ」

「はぁ……はぁ?」

「美雨はとあることでこの世界にいるんだけど……」

「いやお兄、さすがにそれはない」


 先程までカンカンに怒っていた奏美だったが突然勇人がおかしな事を言い始めたと思いめちゃくちゃ怪訝そうな顔になり軽蔑を通り越して見放すような目を向ける奏美。


「そういうことじゃない、奏美まじめに聞いてくれ」

「お兄……ばいばい……」


 凄い気を使わせるほど分かりやすいほどに複雑そうな笑みを向けてもう一生近寄らないでほしいという感情と共に兄として見ることが出来ないという二つの気持ちが篭った優しい微笑みで奏美は小さく手を振って逃げるように帰って行った。


「奏美!待ってくれ話はまだ……」

「勇人君!危ないっ!」


 追いかけようとした勇人だった突然美雨が勇人の腕を掴み引っ張ると勇人が先程まで立っていた地面に槍が突き刺さった。


「――なっ!?」

「上です!」


 美雨が指さした先には屋上に人が立っていた。


「あれは敵?」

「いえあれは……人です」

「人?プロメモの誰か?」

「違います、あれは……」


 目を細める美雨、その瞳に映ったのはたしかに人だったが明らかに背丈からしてプロメモのヒロイン誰にも当てはまらずまた肩幅的にもガッチリしており男の人だとすぐに分かる。


「――敵です」


 男ということは敵ということの証明だった。

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