第44話「ルグル防衛戦-反撃-」

 蓮とアデルは百合とティリアがベッドで寝ている事を確認すると街へ向かった。


 (ティリアもう少し待っていてくれよ。ルクスがきっと何とかしてくれるから)



「こっちです! 怪我が酷い方がいたらお互い助け合ってお城まで向かって下さい!」


「早くこちらへ! これからここは戦場になる可能性があります! 焦らずに城への避難をお願いします!」


 街では葵とアサギリが必死に住民達を城へ誘導している。先程の襲撃で怪我を負った者や、不幸にも命を無くした人々で街は軽いパニック状態だった。


「おい! 一体何が起こってるんだ!? 説明してくれ」

「あっちで子供が瓦礫の下敷きになっているの! どうか助けて下さい!」


 葵もアサギリも必死に誘導してはいるが2人の話に聞く耳持たない人もいて相当に苦戦している。


 その中でアデルと蓮も到着した。


「みなさん! 落ち着いて下さい! 今この国は大変な時にあります! しかし大丈夫です! 私がいます! そして貴方方を護る人もこうしているのです! だからどうか今はこれ以上の被害を出さない為にも城へ避難して下さいっ!!!」


 アデルの言葉でこれまで聞く耳持たなかった住民も足を止め、聞き入った。


「王女様だ!」

「アデル様がいらっしゃるぞ!」

「そうだよな。今は言い争ってる場合じゃ無いよな……皆で助け合って城まで行こう」


 アデルの言葉に耳を貸した人々はこれまでのパニックが嘘のように足並み揃えて城へと向かい始めた。


「さすが……王女様は違うね! 助かったよ!」

「アデル様! ありがとうございます!」


「気にしないで良いですよ! 私にできる事は言葉で……この声で人々を動かすしか出来ないのですから」


 街の住人が城に向かい始めた時に後ろからアサギリを呼ぶ2人の声がした。


「おい! アサギリ! すまなかったな! 遅れちまった」


「すいません! 再度回復が使えるようになるまで時間がかかってしまい遅くなりました!」


「シンク! それにアスカも! よく無事でした! 話はアサギリから聞いています。ご苦労でしたね」


「アデル様! いえ、それよりご無事で何よりです!」


「ところでこの者達は……アサギリが話していた下の階層から来たって言ってた奴らか!」


「ああ、蓮だ。こっちは葵。よろしく頼む!」


「デタラメに強いらしいな! この騒ぎが終わったら俺とも一戦交えてくれよ! アサギリともやったんだろ?」


 (また始まった。この戦闘オタクが……)


 アデルとアスカ、それにアサギリはまたかという表情でシンクを見ている。


「これが落ち着いたら構わないが……」


「よしっ! ならさっさと終わらせようぜ! ダルカンの奴らは何処にいるんだ!?」


 結界の端にルグルの兵士を向かわせており、先程入った情報によると結界のすぐ側で野営をしているそうだ。


 恐らく結界を破る為の算段をしているとの事だった。


「結界を破る為にすぐ側で構えてるみたいですね。数はおよそ千人程……。ダルカンの抱えている兵士のほとんどです」


「千人か……アデル、こっちは何人ぐらいの兵士を用意できるんだ?」


「先程の戦闘で失った兵もいるので正確な人数までは把握しておりませんが500人程かと……」


「500か。とりあえず一部は街の防衛に回そう。もし結界が破られて中に入られた時の被害を抑えるんだ」


「分かりました! アサギリは街の兵達を統率してくれますか?」


「承知しました」


 アデルは迅速にアサギリと兵士達に街の防衛にあたるように指示を出した。


「よし。それじゃ、俺達は結界の外にいる王子達に攻撃を仕掛けよう。狙うは王子だ! あいつが投降すればこの争いも収まるはずだからな」


「アデル様! 敵の新しい情報になります。敵は野営地を3箇所に配置しており、それぞれに王子であるエスター、ヨハン、ウィルの3名を主として配置されているようです」


 兵士からの情報で3箇所に配置されている事が分かるとアデルは戦力を3分割して一気に叩くことにした。


 エスターは戦闘能力も3名の中では一番低いと思われるたので戦闘要因として葵、そしてアデル自らも出向いてエスターを説得する事にした。


 ウィルの部隊へはシンクとアスカが、ヨハンへは蓮が向かうことになった。

 また、それぞれの隊にはルグルの兵士も100人程付けられた。


「それではこれよりダルカンの部隊に対して攻撃を開始する! いきましょう!」


「「「おおお!」」」



 開始の合図から間もなく一番近い場所に構えているヨハンの部隊に蓮が到着した。


『ん? お前は確か……ダルカンに王女と一緒に来ていた護衛だな? お前1人か?』


「ああ、そうだ。何故ルグルを攻撃した? 食糧のためだけなのか?」


『1人で私達の相手を出来ると思ったのか? みくびられたものだな……攻めた理由はもちろん食糧のためでもあるがここを支配下に置く為だ。ある方の命令でな』


「それはお前達の王子の命令って事か?」


『ふっ、お前が知る意味も無いだろう? 聞いたところでここでお前は終わるのだからな』


「まあいいさ。ところでお前達の中で呪いをかける女を知らないか? そいつの呪いの解き方を教えて欲しいんだ」


『呪い……? スクラルが確か呪いをかける天啓を待っていたが……あいつは確か先にこの城を攻めていたはずでは。さては死と引き換えにあやつの呪いを受けた奴がおるのか』


『それなら諦めろ。あの呪いは本人が死んだらより強まり、解呪するのは到底無理になる。まして解き方を知っていたとしてもお前なんぞに教えんがな』


「ふぅ、そうか。それなら思い切りやれそうだ」


 (敵はヨハンと合わせて300人程か……問題無いな)


「カスタマイズ《改変》白剣に属性付与(雷)、ATK +を付与! 蒼白刀に属性付与(雷)、ATK +を付与」


 属性付与の重複改変によって属性効果が大幅に上がった。2つの剣は稲妻が直撃したかのように電気を帯びており紫と青の激しい光が剣を包んでいる。


「炎毒陣――イカズチ――」


 属性付与された剣から放たれた炎毒陣は通常の技に加えて陣の外側50メートル先まで稲妻が落ちる超広範囲攻撃となった。


「ぐがぁぁあっ! 熱いっ! 消えないぞこの炎!」


「外へ逃げても雷に襲われる! ぐはぁっ!」


 (技のネーミングセンスは自分で付けときながらどうかと思うが、効果自体は想定を遥かに超えたな)


 蓮は頭の中で技のイメージはしていたものの想定の範囲外の敵も麻痺させるとは思っていなかったので想像を超えた変化に少し驚いた。


 嵐がおさまると目の前にいた兵士250人余りは全て地面に倒れ込んでいた。一部炎を纏いながら足掻いている兵士もいたが時間の問題だろう。


『驚いたな……中々強いじゃ無いか。お前』


「今の攻撃で無傷だと!?」


『ああ、言い忘れたが私は強いぞ? 多分お前よりな。しかし、躊躇なくここまでの人を殺せるとは慈悲は無いのかねぇ?』


「何言ってるんだ? これまでなるべく人は殺さないようにしてきたが今回は別だ。お前達は関係のない人まで殺しすぎたよ。それにどっちが強いかはもう少し経てば分かる事さ」


『そうだな。では1つだけ私の天啓について話させてくれ。私が使えるのは昔から身体強化のみだ。他に特別なことが出来るわけでもない。強化だ』


「わざわざどうも。けどそんな事話して良いのか? 不利になるんじゃないか?」


『いや、問題無い。私はいつも殺す相手には自分の中のルールとして最後に話してやると決めているんだ。何も知らないまま死ぬのは悲しいだろ?』


「別に構わないが悲しむこともなけりゃ、殺されるのも俺じゃ無いと思うけどな」


『ふふっ、油断だけはしないでくれよ? では……いくぞ!』

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