第22話「番人」

 蓮達はサハギンを倒した水辺からそのまま川の様に流れている道を上流に向かって歩いていた。


 道中何度かサハギンに出会ったが少しダメージを与えると皮に逃げ込む特性を活かしてわざと川に入れて釣るという行為をひたすら続けていた。


 そしてサハギンの涙が16個ほど集まったところで鉱石に囲まれた部屋へ辿り着いた。


 部屋の奥には人影が見えたが様子がおかしい。


「おーい、誰かいるのか?」


 近づくとそこには立派な髭を生やした40歳くらいの男性が傷だらけになって横たわっていた。


「どうしました!? 大丈夫ですか!?」


「俺は大丈夫だ。それよりこの先に俺の弟子がいてモンスターに襲われてるんだ。助けてやってくれ……」


 男性の話が終わると直ぐにウィンドウが現れた。


 《連携クエスト分岐》

 ・デュラムへ斧を渡してエルムへ報告する(D)

 ・弟子を助ける(A)


「この人がデュラム!?」


 蓮は葵と百合の方を見たが相談するまでもなくどちらを実行するかは決まっていた。


 クエスト関係無しに目の前に死にそうな人がいるんだからそれがNPCだろうと関係ない。


「分かりました! ここで少し待っていて下さい! 必ず助けて連れ戻ってきます!」


「助かるよ。何かの役に立つかもしれないからこれを持って行ってくれ」


 デュラムは力無い手つきでポケットへ手を入れると虫眼鏡の様な物を取り出した。


「これはスペクタレンズ。モンスターに対して使うと相手の情報を見ることが出来る道具だ」


「ありがとうございます! それじゃいってきますね!」


 蓮達は奥の部屋へと続く道へ進んだ。


 (無事でいてくれよ。助けたいって事もあるけど、死なれたらAランクが……)


 通路を進んだ先には先程の部屋よりも更に大きな空間が広がっていた。周りには同じく鉱石の塊が並んでいる。


 部屋に入るなり部屋中央付近の様子を確認したが、敵と見られる姿は無かった。


 しかし、壁際を確認しているとデュラムより酷い怪我を負っている青年が倒れ込んでいた。


 薄暗い部屋であったが青年が手に持つ松明でその周辺がぼんやりと照らされておりすぐに発見できた。


「ぐぁ、い、痛い。助けて」


 蓮は迷う事なくティリアに作ってもらったポーションを飲ませた。外傷はみるみる内に治っていき会話が出来る程には回復した。


「あ、ありがとうございます!」


「早くここから出るぞ!」

 

 その時、天井からガガッと音がして落石と共に蓮の10倍はありそうな程の巨大なモンスターが降りてきた。


「なっ、でかっ! これって蜘蛛だよな!?」


「むりむりむりむりむりむりーっ! 蜘蛛だけは無理!!」


 葵は蜘蛛が大の苦手でそれがこんなにもデカいんだから失神ものだろう。


 蓮はさっきデュラムから貰ったスペクタレンズを使って敵の情報を確認した。レンズは使い切りだったのかストレージから出して使うとパリンッと音を立てて壊れた。


【鑑定】

モンスター名:ヘビースパイダー

レベル:145

スキル:ポイズンストーム、硬質化、粘糸

パッシブ:毒耐性(大)、再生(中)

備考:

大きな蜘蛛、定期的に子蜘蛛を産み出す。


「145レベル!? 前100人以上で挑んだオークキングと一緒くらいじゃないか!」


 達成難易度Aという設定に納得した。俺達のレベルだと一撃受けるだけで致命傷になりかねない。


「ひとまず、この8本ある足から攻撃して相手の動きを止めよう」


 蓮はスキルで白剣にATK +とDEF +をもう片方の手に持つナイフにも同様に改変を加えて敵の足元に入り込んだ。


 白剣とナイフの2連撃が敵の足に命中して、大きな足は盛大に吹き飛んでいった。


「こいつの足案外脆い! いけるぞ!」


 次の攻撃を別の足に繰り出そうとした瞬間、他の足を器用に動かして蓮の左右から攻撃を仕掛けてきた。


『キシャァァァァッ!』


 蓮は左右の攻撃を両の手に持つ武器で叩き落としたが、正面からの攻撃に気付かず胸あたりに直撃してしまった。


「がはっ!……いってぇ」


 直撃する瞬間スキル硬質化によってダメージは大幅カットできたが反動で後方に吹き飛ばされてしまった。


「大丈夫!? お兄ちゃん!」


「ああ、それより……俺が最初切り落とした足が再生してる」


 (足を全て同時に攻撃するくらいじゃないとダメってことか……)


「百合、弓の範囲攻撃で一気に足を攻撃って出来るか?」

「やってみる!」


 百合はスキルを唱え敵の頭上に矢を放った。放たれた矢はいくつもの光る矢に分裂して下にいる蜘蛛目掛けて無数に飛んでいった。


 敵は足の半分4本のみを頭上に上げて矢を防いだ。4本の足はダメージを受けたようだが、消滅はしなかった。


 恐らく4本の足を硬質化によって防御に回したのだろう。


「私の攻撃じゃ威力が足りないよ。防がれちゃう!」


 蓮達は倒すイメージがつかない中で相手の攻撃を回避する事でいっぱいになっていった。


 蜘蛛が苦手な葵もそうは言ってられないとヒットアンドアウェイで少しずつダメージを重ねていた。

 しかし、再生しているためどれだけダメージが入っているかは怪しい。


 苦戦をしている中、蜘蛛の行動が遅くなり攻撃が止まった。


「なんでか分からないが敵が攻撃しなくなったぞ! 今のうちに一斉に攻撃を仕掛けよう!」


「分かった!!」


 蓮と葵は相手の両側にそれぞれ回り込むと体に向けて剣と刀を振り抜いた。

 二人の攻撃は確かにヒットしたはずだったが硬質化によって手応えは殆ど無かった。


『フシュッ、キィィィィィッ』


 敵の体の周りに紫色の煙が出てきたかと思うとその煙が凄い勢いで現れた突風に巻き上げられて、一帯に広がった。


「これは……みんな! 下がれ! この煙を吸い込むんじゃない!」


 ヘビースパイダーが持つスキルの1つポイズンストームだと直ぐに察した蓮は大きな声を上げて他の二人をすぐ後ろに下げた。


 (デュラムさんに感謝だな。事前にスキルが知れてなかったら危なかった)


 蓮は本当にこんな敵倒せるのかと不安になっていた。


 このスキルをトレースしたとしても相手は毒耐性があるせいでダメージは期待できない。

 蓮は絶望的な状況に立たされていた。


「相手の攻撃がまた来るぞ!」


――防戦一方のままヘビースパイダーと戦い10分経過


 何度も敵に攻撃を与えていたら蓮の武器効果で眠り状態になった。トレースしても大して意味はないと思っていたが、何か打開策に繋がるかもしれないとスキルを使った。


「カスタマイズ[トレース]」


……


 ≪スキル「ポイズンストーム」をトレース(ストック3/8)≫

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【ポイズンストーム】

 ・毒の霧を発生させて強烈な突風で撒き散らす。霧を吸い込んだ対象を毒状態にする。

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 (トレースは出来たけどこれだけじゃ……)

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