第5話「モンスターシュート」

――初めてタワーに入ってから2ヶ月後


 蓮と葵のレベルはお互い9になっており、当初目標としていたレベル10は目前であった。


 戦闘も慣れてきて、2、3体のゴブリン程度なら問題なく対処できる。


「これまでは3層までしか行ってなかったけどそろそろ階層を上げてもいいかもな。」


「そうだね。ここじゃレベルも上がりにくくなってきたし。」


 このタワーにはモンスターが入ることが出来ないレストエリアと呼ばれる場所が1つの階層に複数箇所存在しており、今はそこで休憩を取りながら話している。



「よっし! 4層にとりあえず行ってみるか。モンスターの種類も増えるみたいだし気を引き締めて行こう!」


「そーゆー蓮こそ油断しないでよね!」



 階層間の移動はフロア内にいくつかある扉から階段を登り移動する。


 扉自体は今いる小部屋の少し先にあるのを確認済みであった。



――タワー4階層


 階が変わると内部の見た目も変わってくると聞いていたが4層ではこれまでと特に変わりはない。


 しかし、一つ気になったのは遠くから戦闘しているような音がいくつも聞こえている。


 3層まではゴブリンしか出ない事もあり、レベル上げ効率が悪いのか自分達以外の人の気配が無かった。


「とりあえずどんなモンスターがいるかも分からないからレストエリアを見つけながら探索しよう。」


「はい! 隊長!!」


「……行こうか」

「はーーーいっ!」


 少し歩いた先の曲がり角を曲がるとモンスターが1体突然襲ってきた。


「なっ!!」


――キィーーン


 蓮は反射的に背中に掛けたさやから剣を抜き、相手の攻撃を刀身で防いだ。


 (危なかった。一体何が…)


 すぐに1歩後ろへ下がると目の前には殺気立っているモンスターがこちらを睨みつけていた。


「ゴブリ……いや、あれはコボルトだ!」


 コボルトはゴブリンよりも知能が高く、速さを活かした素早い攻撃を繰り出してくるらしい。


 手には黒光りした鋭そうなナイフを持っている。


「ここは私に任せて!」


「気を付けろ! そいつ結構速いぞ!」


 葵は素早く武器を構えるとスキルを発動した。


「剣戟」


 モンスターに向かってゆっくり歩き出したかと思うと次の瞬間にはモンスターのふところに潜り込んでいた。


「たぁっ! はぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 葵のナイフはコボルトの胸を数箇所連続で切り裂いた。


 (おお……)


 ナイフにまとった青白い光も相まって不謹慎ふきんしんながら美しいとまで思ってしまった。


「これでっ! 終わりっ!!」


 そう言い放つとコボルトが振り下ろしたナイフをサッと避け、背後に回り背中から一突きした。


 結局コボルトは一度も攻撃を当てる事なく消滅してしまった。


「やるなー! 単体相手ならコボルトでも余裕そうだな!」


「へへんっ!」


「けど蓮が言うように大勢を相手にするのは辛そうだからそれは避けないとね」


「そうだな。出来るだけ避けて進もう!」


 その時奥の方からこちらの様子を伺っている人影が見えたが、他のホルダーが通りかかっただけだと思い気にもとめなかった。


 蓮達はその後、1時間かけて10体程コボルトを倒し探索を切り上げようとしていた。


「そろそろレベルが上がりそうだけど今日はこのへんにして戻ろうか。帰り道のこともあるからな」


「うん、無理は禁物だね」

 

 下層へ降りる階段へ戻ろうとした時、後ろの方から大きな音で『ドタタタタッ』とこちらに近づいて来る足音のようなものが聞こえた。


「なんだ!?」


 目を細めながら遠くを見てみると大量のゴブリンとコボルトがこちらに向かって走ってきている。


 その数は10…いや、20体以上はいそうだ。


 そして更に目をやるとモンスター達の先頭には、はっきりとは見えないが不敵な笑みを浮かべた1人の人が走っている。


「確かこれは。モンスターシュート……」


 モンスターを他の人になすりつけて自分は逃げる行為。


 基本的には許された行為ではないが怪我などで戦闘が不可能な非常時にはまれに発生するらしい。


 しかし、今回のモンスターシュートはそれとは全く異なる。


 恐らく先頭を走っている奴が俺達へ向けてわざとモンスターを呼び寄せて来たのだ。


 集団がはっきり見えるくらいまで近づくと、そこにいる人物に目を疑った。先頭を走っていたのは五十嵐だったのだ。


「なっ、五十嵐! なんでお前が!?」


「はあ? お前らにこいつらをプレゼントしてやる為に決まってんだろーが!」


「お前らが最近になってタワーに入ってるって聞いたけどまさか本当だったとはな! 俺は弱い奴が頑張ってるのを見るのが一番嫌いなんだよ!」


 そう言い放つと五十嵐は俺達の横を全速力で駆け抜けて行った。


 そしてモンスターの攻撃対象が蓮達に切り替わったのを確認すると少し離れた場所で立ち止まった。


 思い返してみれば4階層に入ったばかりの時に見えた人影は五十嵐だったのかもしれない。俺達の様子を伺っていたのだ。


「おいおい、そんなとこで武器も構えず突っ立ってていいのかよ!」


 五十嵐は俺たちを見て楽しんでいるかのようだった。


 視線を五十嵐から前方に切り替えた時、既に何体かのコボルトはこちらに向けて攻撃しようとしていた。


(五十嵐にスキルを見られるのは良い気分じゃないがそうも言ってられないな)


「カスタマイズ[改変]ATK+をロングソード、DEF +をナイフへ!」


 右手と左手それぞれの武器から紫のサークルが現れた。


 それを見ていた五十嵐は驚いた。なんせ蓮のスキルは使えないスキルだと聞いていたからだ。


「葵! やるぞっ!!」


「数が多すぎるけどやるしかないね!」


 2人は集団の左右に分かれて向かって来る敵を倒していった。


 武器と武器がぶつかり、甲高かんだかい金属音が何度もフロアに響き渡る。


「はぁーーっ!」


「くっ、たぁぁぁっ!」


「きゃっ!!」


 あまりに数が多すぎて、複数から同時に攻撃をされるとどうしても避ける事で精一杯になってしまい、蓮達は苦戦していた。


 (葵も攻めあぐねているようだし、これじゃこっちの体力が尽きるのが先だ。なんとかしないと。)


 すると五十嵐が口を開いた。


「おい! 助けて下さい! お願いします! って土下座したら助けてやってもいいぜ!?」



 五十嵐がそう言った瞬間、蓮の目の前にウィンドウが表示された。


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 《レベルアップ Lv.9→L v.10》

  -ステータス変動無し

  -スキルレベルアップ

   カスタマイズLv.1→Lv.2

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《カスタマイズLv.2》

・対象(自身の所有する無機物)に対して2つまで構造改変を実行可能


・改変項目の追加

 -AGI+

 -チェイン(単体への攻撃が一定範囲に存在する近くの敵対対象へも伝わる)

  ※クールタイム有:1h


・コマンドカット習得:Lv.1で習得した改変効果のみコマンド不要で改変が可能

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