最低ステータス×チートスキル【カスタマイズ】の組合せが最強だった。〜現代に現れたタワーの頂上目指し俺は成長する〜

空ノ彼方

1章〜前兆〜

第1話「始まりの気配」

――タワー3階層


「カスタマイズ[改変]ATK+を石へ!」


 手に取った投げやすそうな大きさの石に対してそう叫ぶと石を囲む様に紫のサークルが一瞬出現した。


 その石を勢いよくゴブリンの顔面目がけて投げた。


 石がゴブリンに命中すると「グギャッ!」という悲鳴と共に黒い煙となり消え去った。


 《レベルアップ Lv.8→L v.9》

  -ステータス変動無し


 ゴブリンを倒すと目の前に青い半透明のウィンドウにレベルアップの文字が映し出された。


「ふぅ、やっとレベル9か……ゴブリン相手だとレベルの上がりも悪くなってきたな。それと……ステータスはまた変動無しか」


 腰を下ろして一息着こうとすると奥から1人の女性が駆け寄ってきた。


れん!こっちも終わったよ!」


 そう言って俺の元へやって来たのは『吉川よしかわ あおい』。


 俺が通っている大学の同級生で1年生からの友人だ。


 大学では2年連続ミスキャンパスに選ばれるくらいの容姿で、綺麗というよりは可愛い部類である。


 性格は剣道をやっていたこともあり、とにかく元気で何事にもはっきり言うタイプだが、どこか抜けているところがある。


「おう、こっちも丁度今片付けたとこだ」

「それにしてもこれだけ倒してもまだレベル9って、上層にいるホルダーはどんだけ廃人プレイしてんだろーな?」


「んー、けど2ヶ月でこのレベルならきっと凄いよ! うん、凄い……はず! だよね?」


「いや、どっちだよ!」


 実際に2ヶ月でレベル1から9まで上げるのは普通の人なら相当厳しいのが現実だ。


 なぜなら低レベルだとゴブリンなどの低階層にいる経験値が少ないモンスターしかローリスクで狩れないからである。


「まあ、2ヶ月前の出来事がなければそもそもこうやってタワーに入ってモンスターと戦うなんて想像もしてなかったしな」


◆◆◆


 蓮達が今いるタワーは出現してから3年が経った今でも10層より上を見た者はいない。


 地上の外側からもタワーの上部を確認することは出来ず、タワーの周りはもやの様なものが立ち込めているせいで飛行機などで上層がどうなっているか確認もできないのである。


 タワー出現間もない頃、実際に近づこうとした戦闘機は靄に触れた途端、大破してしまった。


 現在分かっていることは、タワー内部にはモンスターがいて、タワーの侵入者に対して攻撃を仕掛けてくるということだ。


 また、モンスターに対して通常は武器による攻撃では少しのダメージしか入らず歯が立たないことも分かっている。


 モンスターに対して有効な攻撃は、タワー出現と共に人々に与えられたスキルを用いた攻撃のみである。


 スキルは、人それぞれ何を会得するのか基本的にランダムとなっており、当たり外れも存在する。


 しかし、完全にランダムというわけではなく、その人の身体的特徴、仕事、性格、善行、悪行といった様々な要素からスキルは割り当てられる。


 タワーに挑む上で重要となってくるのがこのスキルである。


 もう1つ、スキルとは異なり自分のステータスを可視化することができる力も与えられた。

 前にかざした手を横にスライドすれば眼前に青みがかった半透明のスクリーンが表示され、LV(レベル)、ATK(力)、DEF(防御)、AGI(素早さ)などの能力値が表示されるものである。


 こちらはRPGゲームなどでもよくある仕様なので馴染みがある人は多いだろう。


 

◆◆◆


――2ヶ月前


「あー、やっと終わった〜」


 19時を過ぎた頃、大学の講義が終わり、椅子にもたれながら目一杯体を伸ばす。


「ゴミステータスくーん」


 後ろを振り返ると大柄で筋肉質な男がこちらをニヤニヤとした笑みを浮かべて見ていた。

 

 いかにも性格の悪そうなこいつは《五十嵐いがらし 哲也てつや》。

 

 事あるごとに俺に突っかかってくる。


「五十嵐か。何か用?」


「今度タワーに行こうかと思うんだけどお前も来いよ!」


 (またか…)


 俺の能力ではタワーに行っても何もできない事を知った上で言ってきているのである。


「タワーには行かないよ」


「行かないじゃなくてスキルもステータスもゴミだから行・け・ま・せ・ん。だろ!? ククッ」


 蓮は何も言い返せずに黙り込んだ。


 (俺だってなりたくてこんな能力になったんじゃない)


 五十嵐はそれからもブツブツと言っていたが蓮は聞く耳持たなかった。


「それじゃ、俺は今からタワーに挑むからよ! お前はせいぜいお勉強でもしてな!」


 不快な笑いを周囲に振り撒きながら俺の頭を軽く叩き去っていった。


 五十嵐が去り一息付くと机に散らかったノートやら筆記用具をリュックにしまい席を立つ。

 周りにいた学生も次々に席を立ち教室を出て行く。


 そして講義を終えた俺が大学を出ようとした時、後ろからドンっと強い衝撃を受けて少しよろけそうになる。


「いっった…」


 葵がすごい勢いで突っ込んできた。まあ毎度のことなのだが普通に痛い。


「おっつかれー! 帰るぞーっ! ってなーんか元気ないね。どした?」


「いや、いつものことだよ」


「また五十嵐にイジられたのね。あいつ自分の能力が他の人より優れてるからって自慢げだもんね」


「言わせとけばいいさ。そんなことより帰ろうぜ」


 2人は帰る方向が一緒のため、帰り道は大抵2人で帰ることが多い。


「明日からは夏休みだなー。けどまあ、バイト三昧なんだけどさ……」


「実家には帰んないのー?」


「妹が帰るだろうから俺はいいかなって」


「あー、今年から同じ大学に入学した妹がいるって言ってたね!」

 

「私も実家には帰んないでおこうかなぁ……帰ってもどーせやる事無いからなぁ」


「あ、そーだ! 蓮もバイトだけで暇してるならプール行こうよ! プール!」


「えー、暑いしなー。他の友達で行ってくれる人いないのか? 男友達も女友達も葵は多いだろ?」


「私は蓮と……もういいですぅー!」


「なんだよそれ。なんか変な事言ったかー?」


「はぁ。もういいよ。てゆーかこの私が誘ったのに断るとは何でやつだ!」


 冗談混じりに葵は言葉を濁した。


 蓮も葵の事は他の女子より特別だとは思っているものの、葵の好意に全く気付かない超鈍感男である。



 そう言って二人はいつも通りの会話をしながら大通りから薄暗い道に入ろうとしていた。

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