第20話 決着と決別


 脳に直接、声が聞こえて来る。

 この感覚……初めてだ……。

 でも今はそんな事よりマリアを助けないと……。


『万に一つの可能性でも希望があるなら戦いますか? YES/NO』


 なんだこれ……。


「YES」


『護るべき者の為に貴方は何を代償に出来ますか?』


 何を代償だと……。

 何を馬鹿な事を……。


 そんなのは初めから決まっている。

 マリアが助けてと言ってきた、ユリアが仲間だと言ってくれた、その時点で決まっている。


「俺の全てだ!」


『例えそれが大切な人達との永遠の別れになる可能性が合っても?』


「あぁ」


『貴方の覚悟見せてもらいました。最後の質問です』


「最後?」


『再び立ち上がる事が出来れば、貴方はその手でカルロスを倒せますか? 人を殺める事が出来ますか? カルロスを殺せますか? 人を捨て死神になれますか?』


 ……成程。この世界にとってカルロスは罪人。マリアの仲間を殺し、脅迫し結婚を迫った。更には関係のない者達まで倒した。それが恐怖の象徴として今存在している。この世界はどうしてもカルロスを消したいらしい。最後の質問は四個合ったが全て同じ意味、だから最後の質問として聞いてきたのか。


「あぁ。俺は人を捨て死神になる。そして、カルロスを殺す」


 ここで宣言した以上、俺の手は血で染まる。もう真っ当な人間としては生きていけないだろう。それ以前に人殺しと仲良しようとは流石のマリアとユリアでも思わないだろう。やっていることはカルロスと何一つ変わらないのだから。でも、それでいい。俺の目的はマリアとユリアの笑顔とたわわを護る事。それ以外何もいらない。


『EX(エクストラ)固有スキル獲得:未練を糧に立ち上がる者(改)』


『EX(エクストラ)固有スキル:未練を糧に立ち上がる者(改)使用しますか?(MP:HP一割分) YES/NO  ※EX(エクストラ)固有スキル:未練を糧に立ち上がる者と併用不可、一回の戦闘に付き一回まで』


 これが最後の引き金。これを引けばきっと俺は人ではなくなる。


「YES」


 迷うことなく最後の引き金を引いた。


『カルロスに対する対抗手段として、スキル:理不尽な怒りの使用を推薦。使用しますか? YES/NO』


 そう言えば、検問兵との戦いで手に入れた理不尽な怒りの効果ってなんだっけ。頑張って思い出す。確か、『スキル:理不尽な怒り』は自身のMPゲージと引き換えに自身の能力を全て向上させ、スキルを使っている間一定のMPを常に消費し、MPがなくなると効力が切れるとかだった気がする。


 確かにこれならいけるかもしれない。

 一割がHPゲージに変換されても残り六割ある。


 そこに希望があるなら賭ける価値がある。


「YES」


 カルロスが勝ちを確信し怯えるマリアとユリアの方に向かって歩く。カルロスは人を殺す事に何とも思わないのかそもそも気にしていないのか倒れた蓮心には一切目もくれずただマリアだけを見ていた。


「いやーーーー」


 身体から大量の血を流し倒れた蓮心を見てマリアの叫び声が結婚式会場内に響く。

 ユリアは開いた口を両手で抑えていた。


「うそ……何で? 立ってくれないの……」


「復活か? そんな奇跡起きるわけがないだろ」


 カルロスが不敵な笑みでユリアに語りかける。

 徐々に三人の距離が縮まる。


「何で蓮心を殺したの?」


 恐る恐るユリアが質問する。


「邪魔だからに決まってるじゃないか。俺とマリアの結婚を邪魔する愚か者には死を与える。それが俺の正義だからだ」


「はすみ……助けてよ」


 マリアは泣きながら蓮心に助けを求める。マリアとユリアの足は恐怖や絶望と言った負の感情に支配され動かなくなっていた。


 そして、カルロスがついに二人の前まで来た。


「ちっ、まだアイツの名前を呼ぶのか」


「蓮心助けてよー」


「蓮心!」


 二人が叫び助けを求める。

 その時、カルロスがマリアの腕を掴み自分の方に引き寄せる。


「マリア!」


 ユリアが慌てて止めようとするが蹴り飛ばされる。


「邪魔をするな。さぁ約束だ。俺と結婚するんだマリア」


 カルロスがマリアに強引にキスをしようとする。

 マリアが目から涙を零し必死になって抵抗する。


「嫌! 私は私の好きな人と結婚するの!」


「マリア!」


 ユリアが起き上がり、マリアの名前を呼びカルロスを止める為に動き出そうとした時、別方向から音が聞こえる。ユリアは信じられない者でも見るかのようにそれを見ていた。

 ユリアの視線に二人が気づく。

 カルロスとマリアがユリアの視線の先を見ると蓮心の身体から溢れ出ていた血が戻っていた。更には魔法剣を右手に持ち立ち上がる。


「な……に……あの殺気は?」


 ユリアが言葉を漏らす。

 理由は簡単だった。蓮心の身体から赤いオーラが出現する。オーラは蓮心を護ると言うよりかは誰かを救う為、否、誰かを殺すかのように禍々しい殺気を纏っていた。


「蓮心!」


「なんだ……お前は何者なんだ?」


 人を殺すことに何とも思わないカルロスが蓮心を見て問いかけるが返事がなかった。赤いオーラは蓮心の身体だけでなく魔法剣からも溢れ出ていた。

 カルロスの隙を見て、マリアが強引に手を払いカルロスから逃げ、ユリアの元に行く。


「ユリア、蓮心どうしちゃったの?」


「分からない。だけど、あのお人好しで優しい蓮心が怒ってる」


 ずっと一緒にいたユリアにすら今何が起きているのかが分からなかった。勿論、カルロス、マリアそして結婚式会場にいる皆も分からずにいた。


 マリアとユリアが名前を呼んでいた。さっきまでぼんやりしていた意識が徐々にハッキリとしてくる。前を見ると、カルロスが何かを言っていたが何て言っているかわからなかった。MPゲージを見ると、一割がHPゲージに変換され、残ったMPゲージが徐々に減少していた。これが真っ暗な世界で聞こえた声に従った結果だとすぐに分かった。手に持った魔法剣を見ると赤いオーラが纏わり付いていた。よく見るとそのオーラは魔法剣だけでなく自身の身体にも纏わり付いていた。このオーラが理不尽な怒りの効果かは分からないが現状から推測してそう考えるのが自然だろう。


 ゆっくりと口を動かす。


「おい、人殺しよく聞け」


 カルロスが怖い顔をしてこちらを睨み付ける。


「お前の命はここで断つ。覚悟しろ」


「ふん。死にぞこないが何を言う。俺とお前じゃ経験が違う。同じレベルの魔法じゃ勝てない事にまだ気づかないのか?」


「だったら、試してみるといい」


 カルロスに向かって突撃する。カルロスの構えから次の一手を先読みして攻撃をする。剣を上から下に振り下ろす姿勢を取る。魔法剣がカルロスの剣に触れる瞬間、身体を捻り回転させ一歩左前に移動する。反撃してきたカルロスの剣の一撃を躱し、そこから剣を振るう。カルロスの右わき腹を魔法剣が切り裂いた事によりHPゲージを一撃で三割減らす。追撃しようとしたがその隙が罠の可能性も合ったので一旦距離を取る。こちらはかすり傷程度の一撃でも死んでしまうHPしか残っていない。


 失敗はもう許されない。


「成程、そうゆう事か」


 カルロスのHPゲージの減少から考えて全体のステータスが上昇しているのだと確信する。ただし防御に関しては元がかなり低いので期待はしないでおく。変に期待して死ぬぐらいだったら期待せずに生き延びた方が賢明である。


「お前、何をした?」


 切られた割にはカルロスがかなり冷静だった。


「人を捨てた」


「人を捨てた? なら何になったんだ?」


 カルロスの表情が曇った。


「死神だよ。お前の命を狩るな」


「だったらやって見ろ。雑魚!」


「あぁ」


 同時に相手に向かって走り出す。魔法剣と剣がぶつかり合う。

 お互い通常攻撃で何度も何度も相手に切りかかる。時には、魔法剣と剣が衝突し時には空を切りと命懸けの戦いに周囲で見ている者達が引き込まれていく。こちらのMPゲージは幾ら攻撃しても増えることはなく、ただMPゲージの減少速度が遅くなるだけだった。


 カルロスのMPゲージが満タンになろ、剣が青く輝く。


「ちぇ、魔法か」


 その時、カルロスのMPゲージ一瞬で零になった。

 どうやらこの一撃に全てを賭けるらしい。今更こちらに逃げると言う選択肢はなかった。ならば受けて立つ以外に方法はなかった。両者が近距離でぶつかり合う中、カルロスが魔法を発動すると同時に魔法剣も赤く輝く。こちらはMPゲージ一割だけ残し全て魔法発動に使う。一割残した理由は理不尽な怒りの維持の為だ。


「蓮心! 逃げて!」


 マリアの叫び声が聞こえた。


「任せろ」


 小さい声で返事をする。

 俺はずっと勘違いしていた。


 俺は剣士で合って剣士ではない。魔法剣士。つまり魔法と剣士の両方の道を歩く者だ。だから俺の場合、剣士らしく、魔法使いらしくと言う概念が間違っている。


『スキル発動:超音波を模倣しますか? YES/NO』


 YES。

 相手の必殺に対して認識をずらすには持ってこいだ。


『スキル発動:一閃を使用しますか? YES/NO』


 YES。

 死神は非常に冷徹で人の感情等ないぞ。


 二つの魔法を同時に発動する。


「必殺、chaos emperor(カオスエンペラー)」


 大層な名前だな。

 カルロスの剣は結婚式会場を真っ二つにする程の威力を持っていたが当たらなかった。


 そして、超音波により狙いを外され隙が出来たカルロスの首を一閃で跳ねる。

 首から上がなくなった身体が地面に崩れ落ちる。

 周囲からは沢山の悲鳴や叫び声が聞こえて来た。マリアとユリアを見ると、決闘前に二人がカルロスを見ていた目でこちらを見ていた。人を殺したんだ。そりゃそうなるよなと自分を納得させる。


 そもそもこれは覚悟の上でした事で後悔なんかない。


 視界に、


『緊急任務:女神マリアを救え クリア』


『決闘:カルロスからの挑戦状 クリア』


『報酬獲得』


 と、それぞれウインドウが出現する。



 報酬は『マリアとの結婚権』『770000ギルド』だった。


 更に別ウインドウが出現して、

『マリアとの結婚権を使用して結婚しますか YES/NO』

 と、出てきた。


 ここでもしYESを選択すればマリアの結婚相手は蓮心となるのだろう。視線を再びマリアに戻すと怯えた目で見ていた。そりゃそうだよな。人を平気で殺すようなやつと結婚以前に一緒にすらいたくないよな。それが普通の人の感性である。もし蓮心が逆の立場だったらきっと今のマリアと同じ事をしていたと思う。


 NO。

 を、選択。


 それがお互いにとっていい選択だと思ったから。


『本当に破棄しますか YES/NO』


 YES。

 自由になれマリア。


 これによりマリアは誰とも結婚する必要がなくなった。

 これからは自分で決めた誰かと結婚が出来るようになった。カルロスに勝ったのに何も嬉しくない。肉体的にではなく精神的に死んだ、そんな感じだった。全てを失うと言うのはこうゆう事を言うのかもしれない。ユリアは目すら合わせてくれない。これじゃ本当に一人だな。


「マリア、ユリアさよなら。幸せになれよ」


 周囲にいる者達もこちらを忌み嫌ったような目で見ていた。

 このまま此処にいてもしょうがないので結婚式会場を出ていく。

 ずっといるのには居心地が最悪に悪かったから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る