第10話 生還


 うん、うん。

 やっぱり隕石落下は防御Eランクでは耐えられないよな。


 人生って長いようで短いんだな。

 まさに蓮の花みたいな人生だった。


「一応確認で魔法って途中キャンセルできませんよね?」


「殆どの魔法はできなかったはずよ。要はMPゲージを消費した時点で発動が確定しちゃうから。発動途中に外部からの攻撃を強く受けたりしたら止まるものもあるけど……まさか?」


「あはは……後は正義の味方に任せましょう」


 清々しい気持ちで答えた。

 するとユリアとエルフの顔が青ざめていった。


 なにかを言ってきている雰囲気がするがもう何も聞こえない。

 というか、聞きたくない。

 最後は怒られたくないから。


 走馬灯のように今までの出来事がフラッシュバックされる。


 ある日、元居た世界で夢を見てそこでマリアと出会った。軽い気持ちで異世界に行きたいと願った事が原因で気付けば後は引けない状況になっていた。そこから一人戸惑いながらもドラゴン、コウモリ、検問兵と戦った。魔法によるパワープレイでこの三戦は何とか勝つ事が出来た。そして、マリアのいるローズ街に到着しユリアと出会った。ユリアは少し前までマリアと同じパーティーだった。今はカルロスとの一件がありローズ街で宿のウエイトレスとして働いている。蓮心がたまたま泊まった宿でユリアはこの世界について色々と教えてくれ、更にはマリアからの伝言も伝えてくれた。

 まだ二日しか経っていないはずなのにとても懐かしく感じる光景だった。もっと一緒にいたかったしもっと仲良くなりたかった。

 色々な感情や思いと言った物が混ざっていく。



 脳に直接、声が聞こえて来る。

 一体この声は何処から……。

 そんな事、今はどうでもいいか……どうせ死ぬんだ。


『EX(エクストラ)固有スキル獲得:未練を糧に立ち上がる者』


「幻聴か?」


『EX(エクストラ)固有スキル:未練を糧に立ち上がる者使用しますか?(MP全消費) YES/NO』


「え? ならNOで」


 この状況でスキル獲得と発動?


 今さらなにをしても遅い。どうせ死んだ後では何の役にも立たない。今更慌てたって運命はそう簡単に変わらない。あの隕石はもう誰にも止められない。事実カルロスの攻撃でも断片が削れている程度で破壊には程遠い。ったく、弱小ヒーローだな。正義の味方ならここは格好良く、滅びの呪文とか聖剣エクスカリバーとか斬鉄剣とか使って見せろってんだ。こんなことになるなら魔法の途中キャンセルできるかちゃんと確認しておけばよかった。てか、その場の勢いでしちゃダメだな、隕石落下は……。大きさを間違えるとどうなるか身を持って知った。


「ちっ。街中じゃなければ……なんとかなるが、ここでは……」


 舌打ちし成すすべがなさそうなカルロス。


「ちっ。こちらも街中じゃなければ……どうにか……なったんだがな」


 偶然にもカルロスと意見が一致してしまった。

 せめて街の地形が頭の中に完璧に入っていれば人が絶対にいなさそうな場所に放り投げれたのだが……。


 さて諦めるのはいいけど、これじゃ関係のない人を大勢巻き込んでの自爆になってしまう。本格的にどうしよう……と悩んでいると。


 地面から壁が出現する。

 壁は半透明のまま広がっていき蓮心とカルロスそして観客たちを護るようにしてドーム状に形成されていく。


「そこまでよ!」


 観客を含めた全員が声のする方向に視線を向ける。

 そこには、金色の長い髪が特徴的な女の子にして女神のマリアが居た。

 そして隕石が内側から破裂し粉々になっていく。

 細かく割れた破片が飛び散るもドーム状の壁に衝突していく。

 それを今度は天から降り注ぐ無数に分裂した光のレーザー光線が全てを焼き払っていく。


「ここで何やってるの?」


 マリアがカルロスに向かって歩き近づいていく。


「マリアどうしてここに?」


「ローズ街でが喧嘩してるって聞いてもしやと思ってね。それより私言ったわよ。絶対蓮心にだけは手を出さないでって」


「蓮心……そうかこいつがマリアの言っていた転移者か」


 カルロスがこちらを見て睨む。

 見た感じマリアと普通に話している。

 どうなっているんだ?

 これなら普通に話し合いで結婚の話しは解決出来そうな気がするがそうじゃないのか。


「ほら、行くわよ」


「ふん。お前、命拾いしたな」


 そう言って二人は人混みをかき分けて何処かに行ってしまった。去り際一瞬、見えたマリアの表情は何処か寂しそうに見えた。蓮心だけでなくユリアにすら挨拶すらしないとなるとやはり何か訳ありなのか。


 視界に、

『カルロスとの決闘。引き分け報酬獲得』

 と、ウインドウが出現する。


 報酬は『17000ギルド』だけだった。

 どうやら今のでも引き分けになるらしい。


 もし真面目に戦っていたら負けていたのは蓮心だっただろう。

 何より剣士としての実力差があり過ぎるから。


「蓮心?」


 振り返るとそこにはユリアが居た。


「はい?」


「大丈夫?」


 心配そうに蓮心見るユリア。


「……はい」


「なら良かった。とりあえず私もだけど蓮心も聞きたい事が沢山あると思うから一旦中に戻りましょう。話しはそれから。いい?」


「わかりました」


「なんで敬語? 普通にタメ口でいいわよ」


「ありがとう」


 ユリアにリードされる形でそのまま宿のロビーに戻る。


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