第23話

「買い物に行ってはだめでしょうか?着替えとか、あまりないので……」南が大井戸に聞いてきた。セクターから解放されてから、ほぼ缶詰状態でストレスが貯まっているのであろう。


「うーん……、しかし」先日、一郎とレオが拉致された事により、大井戸は慎重になっているようである。


「今度は捕まらないように気をつけますよ」一郎は任せておけという感じで胸を叩いた。


「お願いします」南がおねだりするように上目使いで見つめる。


「それじゃあ、条件がある。SPを数人同行させる事、それとレオは普通の服を着ていく事、その服装では目立ってしまうだろう。それから会計はこのカードを使いなさい。」大井戸は財布からクレジットカードを取り出して南に手渡した。そして真っ赤なスーツを着ているレオに視線を向ける。レオはあまり意味を理解していないようである。


「でも、レオが違う服なんて……」そういえば一郎はレオが他の服を着ているのを見たことがなかった。


「やだ、レオちゃんずっと同じ服を着ているの!?」それを聞いて、南は反射的に後ろに一歩下がった。


「私の服は、着用者の体を特殊な磁場で包んで自動的に殺菌、消毒してくれるのです。私の体はここにいる誰よりも清潔です」レオは淡々と説明する。南の反応は気にしていない様子であった。


「駄目よ!女の子なんだから……、まさか、お肌のお手入れもしてないの?!」南は口を押さえながら目を見開いた。レオは何の事だか解らずキョトンとした顔をしている。


大井戸と一郎は、話に入れないでいる。


「出かける前に、二人でお風呂行きましょう」


「えっ?」レオは理解出来ずに目を見開いた。南は彼女の手を繋ぐと半分強引気味に連れていった。


二人の様子を見ていた大井戸と一郎は苦笑いを見せる。


「南さんの存在がレオには刺激になるかも知れないな」大井戸は一郎の肩を軽く叩いた。確かにレオには、普通の女の子のような感情を見せる事は少なかった。だから、たまに見せる彼女の笑顔が余計に愛しく感じるのかもしれない。


南とレオは少し広めの浴室で湯船に浸かっていた。風呂に入るという習慣の無いレオは少し困惑気味のようである。


「レオちゃん、綺麗な肌してるわね……」南はレオの体をまじまじと見てから、自分の腕を確認した。決して、南の肌が荒れているとかそういう訳ではない。どちらかというと普通の女子高生よりも、色白で綺麗な方であった。しかし、レオのそれは、格段に上であった。南はガクリと頭を垂れた。


「綺麗……ですか?」レオは彼女が何を綺麗と言っているのかがよく解らないでいた。自分の体を確認してみるが、彼女にはその基準が解らないでいた。


「本当にすごく綺麗よ。ねえ、触ってもいいかしら?」その言葉に、特に言葉を発するでもなく、軽く頷いた。南はゆっくりとレオの二の腕の辺りに触れる。


「……」あまり人に体を触れられた事のないレオは少し困惑して、体を硬くした。


「スベスベ、それに引き締まった感じ……、素敵ね……」南は羨ましそうな表情を浮かべた。


「素敵……ですか?」レオは聞き返す。


「ええ……、レオちゃんは一郎くんの事をどう思っているの?」南が突然話題を変えた。


「どう、思っている……、どういう意味ですか?」レオは彼女が薙げてきた質問の意味が理解出来ないでいる。


「私が質問してるのに……、あなたは、一郎くんの事を好きなの?」ちょっと視線を湯船に落とした。


「好き……、ええ、一郎の事は好きです。私のパートナーですから」


「パートナーって、そういう事ではなくて……、どう言えばいいのかな……、一郎くんとキスしたりしたいと思う?」南は少し頬を真っ赤に染める。


「一郎と、キスはしましたよ」それは、初めて二人が会った日の事を言っているようであった。


「そ、そうなんだ……、やっぱり二人は付き合ってるんだ……」南は湯船に頭を沈めた。その目は少し潤んでいるようであった。

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