第9話

エクスを、追ってセクター達も海上へ移動してきた。


「よし!ここまで来たら大丈夫だ!!レオ、さっきのヤツをお見舞いしてやれ!」一郎は眼下を確認する一面が海、船の姿もなかった。


「いえ、さっきの攻撃は24時間に一回しか使用できません」レオは淡々と応える。


「えっ!?じゃあ打ち止めってこと?」一郎は焦った。もう一度先ほどの攻撃を喰らわせれば目の前のセクター達を一網打尽に出来ると踏んでいたからであった。


「ここからは肉弾戦です」エクサの背中の一部が開き、そこから大きな剣が姿を現した。エクサはそれを引き抜くと両手で掴み真正面で構えた。


残りのセクターは数十匹、これでもかなりの数を先ほどの攻撃によって殲滅したのだが、決して少ないとは言えない。


「ふー……、でりゃー!」一郎は気合い込めて、セクター達の中に飛び込んでいく。その刹那、エクスの剣は金色に輝く。目の前の敵を縦に横に斜めに切り裂く、その度にセクターの体液のようなものが返り血のようにエクスの体を汚していく。


「一郎!後ろです!!」背後から迫ってくるセクター振り返りながら横一文字に切り裂く。


「解っているさ!」一郎は、何か自分には無かった感覚が生まれてくる事を自覚していた。


 楽しい……、いや快感だ……!脳内のアドレナリンが溢れ出てくる。こいつらを皆殺しにしてやる!



「なんなんだ!この力は!?」大井戸は、ドローンから送られてくる動画を見ながら目を見開く。エクスの圧倒的な力にセクターと呼ばれる敵は全く歯が立たない様子であった。


「どうするんだ!こいつは本当に我々の味方なのか?もしも、戦うことになったら……」先ほど、大井戸に魘された男は大人しくなったようであった。


「そうですね。彼らにその意識が無かったとしても、そうならざる運命かもしれませんね……」大井戸は遠く燃え盛る町を見てため息をついた。これで、エクスやその同乗者である一郎、レオへの国民の敵対心が、増幅された事は明らかであった。


「貴様、まさかこうなる事を予測していたんじゃ……」男がそこまで言ったところで、大井戸は少し鋭い視線を向ける。「ひっ!」男は何かされるのではないかと両目を瞑り、身構える。


「まあ、普通ではすまないとは思っていましたが、ここまで、やってしまうとは……、流石に思っていませんでした」いつものように眼鏡の位置を整えた。


エクスは、無傷のまま追ってきたセクター達をほぼ切り刻み終えていた。残りは、他のセクターより一回り大きな相手。どうやら彼らをコントロールしていたのは、こいつのようであった。エクスは、仕切り直すかのようにもう一度剣を正面に構える。相手も、攻撃の機会を探っているようであった。沈黙の時間が流れる。


海の潮の風向きが変わった。

飛び出したのはセクターであった。ヤツは両手でから飛び出した爪のようなもので、エクスの体を正面から羽交い締めにしようとした。が、突然、その口から出血するように体液を吹き出した。セクターの背中をエクスの剣が貫いていた。そして、その目から光が消えて目の前のセクターは動かなくなった。


エクスはゆっくりと剣をセクターの体から抜き取ると、刃に付着した体液を、振り払った。


「終わった……のか……」少しの間、茫然としていた一郎は、我に返った。海に浮かぶ無数のセクター達。それを切り刻んだのは、自分である事を改めて自覚する。


「一郎!見事です!!やはり、あなたは私の最高のパートナーです!!」レオが感嘆の声をあげる。


「全テノ、セクターハ沈黙シタワ。ゴ苦労様」エクスが労いの言葉をかけてくれるなんて想定外だったので一郎は少し面食らった。


辺りの状況を少し確認してから、エクスは町に戻っていく。がまだ、延焼は続いている。


「あの火を消す事は出来ないのか?」一郎は火災の原因が自分達にも責任があると感じて、レオに依頼する。


「お任せください」レオは、然も簡単なことですとでも言いたいように返事をする。


エクスが海に向かって手のひらを翳す。少しすると海上が切り取られたように宙に浮く。それを操るかのようにエクスは燃える町の上に移動させて、まるで激しい雨のように降らせた。


その雨のお陰で、町の火災はゆっくりと治まっていった。一通り、火災が鎮火したのを確認すると、エクサはまた学校の校庭へとゆっくり降下していった。


「お、おい、帰ってきたぞ……」男は大井戸に言う。そんな事はいちいち言われなくても解っていることであろう。男の言葉を最後まで聞かずに大井戸は、車を降りた。彼の目の前に、エクスはゆっくりと着地した。


エクスの額が輝くとそこから、一郎とレオが降りてきた。


「大井戸さん……」一郎は、大井戸を見つけて近寄る。


「一郎君……」南が彼の姿を見つけて、近寄ろうとした途端、一郎達に向けて声が聞こえた。それは、賛辞の言葉では無かった。


「帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!帰れ!」その声は少しずつ大きくなっていく。


「えっ!俺達は……!?」一郎は仰天して目を見開く。


「帰れ!!宇宙人め!!!」一人の男が叫ぶと石を投げてきた。それが一郎の頭に直撃して、出血する。


「何をする!!」レオが激高して飛び出そうとするが、それを一郎が制止する。


「やめるんだ!レオ!!」額から流れる血流を気にしていないかのように、真っ直ぐな目で一郎は彼女を見た。


「で、でも……」レオは、少し悲しそうな顔を見せた。


「二人とも、こっちに来るんだ!」大井戸はクルマのドアを開けて、先ほどの男に降りるように即すと、二人を乗せてその場を離れた。走り去るその車に群衆からの投石が続けられた。どうやら、この車は防弾使用になっているようで、石位ではガラスも大丈夫なようであった。


「一郎君、大丈夫か!?」大井戸は助手席から、声をかけながらハンカチを差し出す。


「ありがとうございます。大丈夫です」そのハンカチを遠慮なく受けとると、額の傷を拭った。結構な傷だと思ったがすでに止血しているようであった。


「あいつら!せっかくセクターを倒してやったのに……!!」レオは腸が煮えかえるような顔をしている。その顔を見て、一郎は大きくため息をつく。


「仕方がないさ。最初の攻撃でセクターはかなり倒せたけれど、町の被害は尋常じゃ無かった。あれでは誰も助けてもらったなんて思わないよ」大井戸は前を向いたまま、口を開いた。


「私は、地球を救うとは言いましたが、あの下等な……、いえ、人間を助けるなど言っていません」レオは真っ直ぐ大井戸の座るシートを睨み付けた。


「確かにそうだったね。でもね、あんな事を続けていては憎悪しか生まれない。セクター以外にも敵を作るつもりかい?」大井戸はバックミラー越しに後ろに座る二人表情を確認した。一郎は下を向いたまま、レオは、納得がいかないような顔していた。


「……」大井戸の問いに対する、レオの返答は無かった。


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