【番外編】-前編- 叛逆王子はハロウィンを平和に過ごしたい

特別編です!!!

ギャグとシリアスですなんでも大丈夫だよって人お願いします!先に謝っておきますごめんなさい

そのくせ本編と他作品にまで関係しているって言うね

番外編なのに長くなりました

本当は本番前日に投稿する予定でしたが、長くお待たせしてしまったみたいなので、優しく応援してくださった読者様に感謝を込めて書かせてもらいました


後編もあるよ(死)







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「「「「ハロウィン?」」」」




午後の戦闘訓練後に事実でユダの淹れたお茶を飲んで一息ついていた時だった

めくっていた本のページが指をすり抜けてペラペラとページが変わっていく


秋の夕暮れ時に暇な使用人たち(一人を除く)と部屋でくつろいでいる時だった

ユダが僕のおろし立ての服をクローゼットに丁寧にしまいながら横でカールトンが手伝うのを器用に阻止しながら言った


「ええ、ハロウィンです。もしかしてご存じないので?」


「えっ?知ってるよそのぐらい!それでなんでハロウィンなんて言葉が出てくるのさ。ユダお祭りとか興味ないじゃん」


「心外です。祭りは好きでもありませんが嫌いでもないですよ。普段食べることができない食べ物もありますし珍しい物も見受けられますからね。ただ準備する側はとてつもなく面倒という話なだけです。お分かりです?」


クッ…いちいち小馬鹿にしないと話せないのかな?


「そうかもしれませんね」

「勝手に心読まないで!!」


グルルッ…

と無駄に威嚇するも無視された

いつか減給してやるかな!

そう思った瞬間冷たい気配が首を撫でたので

無かったことにした



「ハロウィンってなんだ?祭りなんだろう?」

ヘイムが弟を背にそ乗せたまま腕立てをしている

僕の部屋でしないで欲しい


「そ、そうだよ、よ。は、ハロウィンは、死の国に旅立った故人が一度里帰り、す、す、するって話だよ。幽霊とか、か、か、か、怖いよ、ね。あと、起源では、ほ、ほ、ほ、豊穣祭だだだだだだだって聞いたことある、よ!」


ぐわんぐわんと加速していくヘイムの上でギリスが跳ねているが何故か姿勢は崩れないで

暴れ馬の上で器用に乗りこなす騎手のようだ

いや違うかくっついて抵抗できないだけかな

ビート刻んで舌噛まないようにね



「それで、そのハロウィンがどうしたの?もしかして観に行きたいとか?珍しいねユーダちゃん」

わざと揶揄うように言った

フッと鼻で笑われただけだった



「奥様が」


「え?」


「ですから奥様がぜひハロウィンをしてみたい。だそうです。頑張って素晴らしいハロウィンを催してくださいね坊ちゃん。ちゃんと私はお伝えしましたので、セウスちゃん」


皮肉げな言葉と共に発せられた内容に唖然とする

この国の人はお祭り好きが多い

なんて言ったって国王がやたら祭りを開催する

記念日も多いし騒ぐのが好きみたいだ

僕も嫌いではないけど、どちらかというと静かにしていたい



「ちょ、ちょっと待ってよ」


「そう言われると待ちたくなくなりますね」

スタスタと部屋の扉に向かって去るユダ


「なんで今日そんなに意地悪なの!?」


「そんなつもりはございませんよ。通常運転でございます」



…これはもしや、浮かれているな?

何が彼をそうさせたのか

僕にはわからない

わかるのはヘイムの汗が滴って床が濡れて不愉快なことぐらいだ


「まぁどうしても、とおっしゃるならお手伝いをしてあげることも吝かではございませんが、いかがなさいます?」



もうそれは他に選択肢はないに等しい



「どうかお願いします助けてください」


「はぁ、仕方ないご主人様ですね。お任せください不祥私、お務めさせて頂きます」


悪人みたいなスマイルを頂いて僕は項垂れた

横でガクガクと揺れて天に召されそうなギリスを乗せたヘイムの笑い声と

カールトンがクローゼットを爆破した音だけが鳴り響いた








*・゜゚・*:.。..。.:*・'・*:.。. .。.:*・゜゚・*







「秋、ですねぇ」


「そうですね」


「…」


「…」


「それで、なんでこのでっかい芋はここにあるの?なんなの?」


「チッ」

「舌打ちはやめて!!リアルに傷つく」



「はぁ…、奥様のご要望では豪華で賑やかで、アッと驚くような奇想天外なハロウィンが良いそうです」


「その要素いらなくない」


「…同感です」


目の前の悲惨な光景に珍しくユダはボーとしたままバカでかい芋を僕と一緒に見つめている



「……これどうしたの?」


「先日、私がハロウィン開催のため書庫で調べ物をしていました。そうしたらあのバカたちがやってきて一緒に調べたいとほざいて仕事を増やしました」


「oh私怨が滾ってる」


「それで植物図鑑を読んでいたギリスが秋なら芋ですねとか言いましてそれに便乗した奴らが「ならすごい芋を取ってこよう!」と世迷言を述べていましたので、仕事ができないあなた達ならそれもいいかもですね。そういえばこの屋敷から四里ほど離れた森に変わった芋種があるとか、それは…」



「よし!ならみんなで行こうぜ!坊ちゃんもきっと喜んでくれるだろう。俺たちならきっと見つけられる!」


おー!と叫んで彼らは出発して行きました




「そうなんだ。てかそこって」


「はい。魔物の森です。難易度Aクラスの。中級冒険者のグループでも全滅する確率が高い森ですね。あそこは魔獣だけではなく死霊やアンデット、幻覚を見せるウィッチスケルトンもいますからなかなかに手強いですね。よく薬草が取れるのでいい場所ですよ」


「いやそうじゃなくて!?なんで散歩に行かせたぐらいのテンションで死地に送ったの!主にあったりしたらただじゃ済まないよ危険すぎるよ!」


「まぁそうですね。自業自得です」


「いや半分以上ユダのせいだからねこれわかってたでしょあなた」


「ええもちろんです」


「なんでそこで誇らしげなの!?」



「はぁ五月蝿いですねぇ。私は忙しいんです」


「それ主人に言っちゃダメなワードだと思うよ。それでこの芋とあいつらはどうしたの!」


「一度空から芋をフェニックスで運ばせたのか置いて戻って行きました」



「伝説の不死鳥を宅配がわりに…」


「魔力消費が難点ですね。私なら芋に走らせます」


「どゆこと!?もういいから助けに行こう!」


「チッ」

「舌打ちメッ!」



嫌そうな顔のユダを引っ張って馬車に乗って

南の魔物の森に向かった僕たちだった








*・゜゚・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゚・*





「……久しぶりに来たけど、こんなところだったっけ」


「さぁ、中身はあまり変わっておりませんが、外観はだいぶ、と言いますか別物ですね」



馬車から無理やり降ろし手を繋いで森の中に入っていった

この森に来たのはユダの試験以来だ

あの日を思い出したくもない出来事の連続だったなぁ


あの時は昼間だというのに薄暗く

静寂だけではない潜んだ魔獣や魔物、悪霊などが蔓延っていた

それでも場所により清められ休められる安全地帯がある

だから修行などにはもってこいなのだが

一歩間違うと強い魔物のテリトリーに入ると

すぐ殺されてしまう

危険な森なのだ


あと時悪運強く、たまたま起きていた邪気に犯されたこの森の主と出会ってしまい

なんとか討伐することができた

それでしばらくは危険な森も少しは安定してくれたと思う

と思ったんだけどなぁ

どういうことだろうか



薄暗い森のはずが

木々と枝にオレンジの布が巻かれ

赤や黄色の紐が垂れている

なぜか燃え移らない蝋燭がそこら中に置いてある

そして所々、てかそこら中にカボチャが並んでいる


「えーどういうことなんだろう?なんか、不気味だよね」


「そうですね。あこれは珍しい」

隣で歩きながらも植物採取に余念がないユダだ



森の中は装飾されていてまるでハロウィン会場の様なのに

誰もいなくて静かで

より不気味さを際立たせていた



………



「う~、疲れたぁ」


「なかなか見つかりませんね」


あれから一時間近く歩いている

魔物どころか生き物がいない

ぐるぐる歩いてみても何も見つからない

ユダのお目当ての薬草ぐらいだ

本人はほくほく顔だ


「これをどうぞ」


「うんありがとう」

魔石道具から水を出しカップに入れる

すると持ち手の埋め込まれた赤い石が発光しお湯になる

そこにユダ手作りのハーブティーのティーパックが入れてあり、時間と共に抽出され透明な黄金色になる

馥郁とした香りが広がり、温かいお茶と共に体に広がっていく


「ふぅ。しかし何だろうねここ。探知できないの?」


「してみましたが通信はできませんでした。濃い魔素による妨害ですね。生存はしているみたいです。この土地は私の魔術とは相性が良くないので探知には限りがあります。強制的に範囲は広げられますがリスクの方が大きいかと。二手に分かれますか?」



「それはやめとく。何が起こるかわからないし危険すぎるよね。固まった方が安全だよ」


「仰せのままに」


これからどうしよう

無闇に奥に進むのは危険だけど、ユダもいるし彼らを置いて戻るなんてできないし…

さてこれからあぅっ

「やめてよもう考えるんだから」

一応魔術で通ったところには印つけているし迷子にはならないけどこの森の様相は本当に気になあふっ

「ちょっとやめてよちゃんと考えているんだから」

さっきからほっぺた触ってきたり背中撫でたりしてきて何なんだユダ

こんな子供みたいなことするやつだったかな

あんっ

「ちょっとやめてよ!!変な声出ちゃったじゃないか恥ずかしい」

反響した変な声が恥ずかしかった

頸を撫でるなんてそんな、そんな?


「何を騒いでいるんですか?また空想のお友達ならまたの機会にして欲しいですね。状況的に冗談になりませんので」


「あれ?」

正面からいつのまにか持ってきたのかリュックの中に沢山の植物がはみ出しているがめついな

てか、あれ?

「どうかなさいましたか?トイレですか?」

「違うから、あのユダ、ずっとそばに居たよね」


「おりましたけど、少し珍しい毒草があったので採取してくると言いましたよ。戻ってきたら一人で喘いでいらしたので、困惑しており木の影で隠れておりました」


「おい!いらない気遣いやめて!変態じゃないから!」

それなら、さっきのはなんだ?

うひんっ!?

スルッと何かが後ろから服の中に入ってきた

咄嗟に飛び跳ねその場から離れた

「だ、誰!?」


見やるとそこには

カボチャしかなかった

「あ、あれ?カボチャしかいない」


「そうですね。カボチャですね」

つまらなそうにユダが言う

「焔揺れる花弁よ舞へ 華炎」

片手を口元に持って行きフッと息を吐いたユダ

その掌から赤い煌めきが現れて花びらのように空に舞って

カボチャを焼き払った

一瞬で黒炭になる

「わっ!何しているの?」


「足元ご覧になっては?」

えっ?

そう言われて確認すると足元には棘のある蔦があった

「これは、魔物?」

「そうですね。魔界には似たようなのがいますが、これは改造された魔植物ですね。自然に溶け込めるよううまく調整されています」

辺りには焦げた匂いとカボチャの甘い匂いが霧散している


「じゃあこれ、全部魔物?」

そこら中にカボチャがある

これ全部敵なら大変だ


「そうですね。でも条件が揃わないと襲っては来ないようです」


「条件?」


「一、危害を加える。二、邪な念を察知した時。三、好みの生物がいた時」


「一はわかりやすいけど、二と三がよくわからない」


「そうですか、なら坊ちゃん。あのカボチャをパンプキンスープにしたらどう思いますか?焼きたてのパンもつけましょうバターも添えて」

え、美味しそう

「ぐわぁっ!」

急に蔦が伸びてきて僕の足を絡め取り宙吊りにした

「た、たすけて」

真顔のユダに救出されて息を整える

「こういう、ことね」

「そうです」

「僕で試さないでよ」

「善処します」

このぉ……


「次は坊ちゃん」

「まだ何かあるの?」

「あちらのカボチャに触れてください」


「えー絶対なんかありそうじゃないか」

「ほらはやく」

シッシッと手で促される

執事だよね君


とりあえず言われた通り大きめのカボチャに触れる


…………

何も、起きない?

「…大丈夫そうだよ。これは普通なのかな」


「いえ、魔物ですよ」

「ひえ」

飛び跳ねて下がる

「次はその横のをどうぞ」

「あひゃっああ!!」

指先が触れた瞬間蔦が地面から出てきて僕の体に纏わりつく

服の中に侵入し肌を撫でる

撫でると言うか、それはもはや揉みしだく

「やっ!やぁめ、やめてぇ!!」

涙目になって助けを願ってユダを見るが

ユダは自分でいれたお茶を飲んでいた

この、減給してやる

「い、雷よ」

電撃を纏い触れた蔦を焼く

煙を出しながらカボチャごと電撃で焼いた

「ふ、ふぅこのエロカボチャ、なんなんだよまったく」


「変わっていますよね。少なからず趣向があるようです」

「わかってたなら助けてよ!」


「いえ、一生で一度でいいから好みの子に触れてみたい。あわよくばワンチャン……と泣いていたのでつい絆されてしまって」


「はぁ!?主人よりカボチャ優先しないでよ!てか言葉わかるなら避けられたでしょ」


「まぁはい」

面白そうだったので

そんな心の声が聞こえた気がした

「ハァ疲れた。じゃこっちのは何で何もしなかったんだろう」


「簡単なことです。幼児体型のお子様にはそそられないそうです」


……


「獄炎よ 怨敵を燃やせ」

つい暗黒魔術で焼き払った

炭すら残さないでやった



「ほぅ、結構美味しいですね」


「えぇっ、食べちゃったの?ほら、ぺってしなさい」


モグモグといつのまにかナイフで僕が先程電撃で焼いたカボチャを切開し、食べていた


「カボチャとは思えないほど甘いです。ほら坊ちゃんも味見しては」

ずいっと一欠片を口元に押しつけられる

仕方ないので食べてみる

モグモグッ

「美味しい!」

ビックするほど甘くてホクホクだった!



「これで彼も浮かばれるでしょう」

「そういうのやめて!」




*・゜゚・*:.。..。.:*・''・*:.。. .。.:*・゜゚・*





「本当に食べないんですか?」


「……今はいらない。特にそれは」


先程のカボチャ(故)を素早くバターと生クリームでほぐしほんの少し塩を入れ、即席のカボチャクリームを作りそれをパンに塗って食べている

僕はスルーして普通のサンドイッチを食べていた

僕にエッチなことしてきたカボチャなんてこれ以上食べたくない

美味しそうだけど我慢だ


ユダは知らん顔でクリームたっぷりにのせシナモンパウダーを少しふりかけ食べている

確かにあの美味しさなら絶品だろうな

だが断る!



「ほら、坊ちゃん美味しいですよ。ただのカボチャクリームですそこに意思はありません。既に天に召されていますから大丈夫ですあーん」


「召されたとかそう言うのじゃなくて、…あ、あーーんほぁっ!?」


甘い香りと一緒に口に入ろうとしたところで

大きな爆発音がした

「な、なんだ!?」

「そこで戦闘が起きているようですね」

「あっ、これおいしーですぅ~~んまぁ!」


僕たちが爆発音のした方を向いていると

横からいつのまにかやってきたのか

カールトンがカボチャクリーム一杯のパンを頬張っている

幸せそうだ


「カールトン!無事だったんだね」

「はい!カールトンは無事ですよ坊ちゃん!まさか心配してきてくれたんですか二人とも!!嬉しすぎますぅ~」

そのままパクつきおかわりしようとしたところでユダにゲンコツを落とされてストップした


「い、痛いですぅ」


「痛くしたんだから当たり前です。状況を説明しなさい」


「は、はいぃ。…明朝四時に出発し「早くない?」張り切りましたのでえへへ。私とヘイムとギリス、ユダさんの自室の前でうずくまっていたルカを回収してみんなでこの森にやってきました!最初は魔物一匹すら現れなくて困っていたんですが、ギリスがサツマイモ?とかいうのに捕まり破廉恥なことになりまして、それに激怒したヘイムが暴れそれにルカが巻き込まれてそして私が便乗しました!そしたら大きな大きなサツマイモさんが現れて、みんなでボコボコにしました。大人しくなったので記念にとお屋敷に送りました。それから誰が一番大きな獲物を取るか競争するかとなった次第ですえっへん」

小さな胸を張りながら説明した

なにをしているんだ君らは


「つまりなぜ森がこうなったのかわからないと」


「はい!全くわかりません!」


「チッ」


「いやん」

なぜか嬉しそうなカールトン

触れないでおこう


「とりあえず、みんなを探そう。まだ未知な事ばかりだし危ない」


「はぁ帰りたいどうでもよくないですかあいつら」

(はい坊ちゃん。仰せのままに)

「逆だよ逆」


そうして三人で先に進んだのであった






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「どこもかしこも、ハロウィンづくしだね」


「そうですね~坊ちゃん!私ハロウィンって初めてなんですけど、こんな感じなんですね!楽しいですね!!」


「うーーん。だいぶ違うしなんていっていいか…」


「何か聞こえますね」


「うん」

少し離れたところから笑い声とさぁこい!と言う声が聞こえた

十中八九ヘイムだろうな


「おーいヘイム」


木々の合間を抜け顔を出した

目に入った光景に驚く


「何してるの?」


「おお!坊ちゃんじゃないか来ていたのか。これか?これはだな、友情を育んでいるんだ!」

なにをいってるんでございましょーか?


白い枠線の中にヘイムがいて

両サイドには大きなカボチャとサツマイモが

戦っていた



なにか疑問を抱いたが、触れないことにした


「……すごい光景ですね」

「本当にね」

「わぁ~あのカボチャフェイント攻撃しましたよ!その攻撃に対して身を捩って蔦で己の身を引っ張ることで回避しました!!すごいですね~!」

………


「説明を…」


「んむ?説明か。彼らはカボチャ族とサツマイモ族で長年争ってきたそうだ。だが長年争って互いに疲弊していた。そこで互いの族長の子を結婚させ終戦させようとしたらしい。だが二人は雄同士、どちらが夫となるかで争っているようだ。互いに愛し合っているはずなのにすれ違い譲れないものを掲げ拳を交えることになった。なので部外者の俺が立会人となり勝敗を見ていることになったんだ」


「えぇー…」


大事だったのかよ。てか長年って半年前にはこんなことになってなかったよ。無駄に歴史あるように言ってるけどさ

しかもオス同士なのね。子供云々の前に種的に作れるのかな知らないけど

壮大なストーリーを感じるけど、カボチャとはサツマイモなんだよね………



「そこだいけ!負けるな!男を見せろ!」

白熱した様子でヘイムは観戦している


「く」

危ない危ないつい本音が

「くだらなすぎますね」

容赦がない執事である



「く、くだらないとはなんだ!いくらユダで「さん」…ユダさんでも聞き捨てならない!彼らは本気で悩みそして選んだんだ愛のために戦うと!!それがわからないのか!」




「自分の弟を放置してまでですか?」


「あ」

やべって顔をした後照れ臭そうに後頭部をかいている

何も誤魔化せてませんよお兄さん


本気で忘れていたようだなこのダメ兄


「きっとギリスなら大丈夫なはずさ!なんて言ったって俺の弟だからな!さぁもうすぐ勝敗が決する」


その言葉通りにカボチャとサツマイモの争いは

終わりを告げようとしていた

サツマイモの撹乱させるような動きのしなやかな蔦の鞭攻撃をカボチャは身一つで耐えている

それはまるで自分たちの運命に抗っているように見える


(…なぜ、なぜだ!なぜ攻撃してこない!?本気じゃないのかお前は!)


(グッ…………俺は、本気だぜ。全力さ) 


(嘘だ!お前はまともに攻撃していない!!本気を出していないじゃないか!まさかそのまま負けるつもりか!?俺はそんなの認めないぞ!)


(そんなんじゃ、ねぇよ。ただ…)

(ただ?)

鋭いサツマイモの蔦攻撃に耐えながら

どこか呆れた様子でカボチャは言った


てかなんで言葉がわかるの??きもい!?

「思念波ですね珍しい」

さいですか



(ははっ…、笑っくれていいぜ。男側は譲れねぇ、けど心から惚れちまった奴に俺は、手は上げれねぇんだよぐっ?)

下から薙ぎ払うような攻撃をまともにくらい吹き飛ぶカボチャ

それを成した側のサツマイモは呆然としていた


(なっ、何を言ってるんだよ。それじゃ、俺は今まで何を)


(ぐぅ)

(おい!無理しすぎなんだよお前はいつも。ほんと、馬鹿なやつ)


(へっ、泣いてやがんのか?美人な顔が台無しだぜ?)


(ふん、減らず口を。あんたは男前な顔が傷だらけじゃないか)


(……惚れ直してくれたか?)

(とっくに、ベタ惚れだよ)

二人は蔦ごと絡み合いキスをするように重なった

外野のカボチャ族もサツマイモ族も歓声をあげて泣いている者もいる


「長い」

紫色の光線が辺り一面を薙ぎ払った

「ああーーーっ!!?」

ヘイムの絶叫が響く


「長すぎます何の時間なんですか本当に。くだらなすぎて頭が痛くなります」

「そうですかぁ~私は結構面白かったですよぉ。まさか宇宙海賊のライバルが兄弟だったなんて熱い展開ですよね」

「何の話ですかまったく」


地に伏せ蹲っているヘイムの背を撫でる

心なしか小さく感じた


「さぁその辺の食糧拾って次に進みますよ」


確かに無音となった芋達はただの芋達になっていた

あの光は魔力だけを吹き飛ばしたのだろう

死んではいないが、……いや、考えるのはよそう

泣きじゃくるヘイムを宥め、片手を握りながら芋を拾う

隣でぐずぐずと泣きながらいちいち芋達の名前を呼ぶのを非常にやめて欲しかったが、そんなことは言えなかった





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「結構奥深くまできたね」


ここまで森奥深くまできたのは初めてだ

ハロウィンの装飾はされていても

この重い雰囲気は深部近くの危うさを感じる


「そうですね。私もここまできたのは初めてです。何が起きるかわかりませんが注意してくださいね」


「魔素が濃くなりましたねぇ~楽しくなってきちゃいますうふふっ、えへへ」


「カールトン自制しなさい。あなたを止めるのは面倒です」


「うぅ、もちろん頑張りますよーえっへん!坊ちゃん褒めてくださいねー!なでなで希望です!」


「わかったよ。カールトンも無理しないでね辛かったら早めに言うように」


はぁ~い!と返事をしてスタスタと前を歩く

ここでカールトンがハイテンションモードで暴れたらひとたまりもない

あの日は散々だったなぁ


「ほらヘイム、きっと芋達も争いがなくなって良かったんだよ。これも一つの幸せだよきっと、うん。美味しく食べればきっと喜んでくれるさ」

自分でも何を言ってるのかわからないが言葉を紡ぐ

横で普段明るいやつがしょげていると落ち着かない

ヘイムは黙って手を握って歩いている

ね?っと声をかけるとぎゅっと手を握られる

大人しいとなんか可愛いな大型犬みたい

ピッタリとくっついてくるヘイムに歩きづらいながらも

共に歩く

前を歩く元凶は香ばしく焼けたサツマイモを食べている

この大食らいは人の気持ちを思いやるとかできないのかな

できたら目の前で薙ぎ払ったりしないか


「霧が濃くなってきましたねぇ~」


濃霧が辺りの蝋燭の光をぼやかしていて

濃い魔素による閃輝現象は七色に光の粒子が光って幻想的だった



「……何かいますね」

ユダが最後の芋を口に入れてそう言った

カッコつかないな



大きな木が並ぶ森の中、地面はわずかに水に沈んでいた

何だこの場所は


「雷・鵺」


僕の眼前を獣の形をした雷が何かを吹き飛ばした


「何をしているですか。しっかりしてください」

「ご、ごめん」

腰から剣を抜く

ヘイムも落ち込みモードから戦士の面構えとなり構える


「よっっっと!」

空中に飛び跳ねたカールトンがクルクルと回転し

地面にハンマーを突き立てる

ドゴォッと音と共に太い蔦が地面から現れ

そのまま吹き飛んだ


「あれは魔物?」

いや、あれは


でっかいカボチャだった

今まで見た中で一番の大きさだった


「うっわぁ大きいですね!お庭で育てられるでしょうか」

うちでそんなの育てないでね


「ふざけてないで戦闘始っちゃいますから。シャッキっとなさい。ほら余所見してないで転けますちゃんと前向きなさい荷物落としますよ。…さて戦いますよ」

はぁーいと返事が聞こえる

お子様連れの散歩かなぁ


「わはーー!なか、なか!生きがいいですねぇ」

地面から出てきた太い蔦がしなりながら迫っている

それをカールトンはクルクルとダンスを踊るようにかわし、的確なタイミングにハンマーを撃ち込み蔦を吹き飛ばす


「見ていてくれ芋達!!」

何かを見ていて欲しいらしく果敢に迫ってきた蔦を魔法剣で斬る

斬ったところから冷気があがり白い煙と切断面が凍って砕けていく

激しくも鋭い攻撃を何度も繰り出す


「舞い踊れ風よ 我は自由の翼を得たり」

体が宙に浮く 緑色のオーラを纏い風の魔術で加速する

「はぁ!」

日本の蔦を身を翻すようにかわしながら剣撃を当てる

斬り落とした蔦が落ちた

このままいけば倒せそうだな

チラッと静かなユダを窺う

はっ!?


ユダは戦闘の発破をかけた後

離れて何かを調合している

「何してるんだよユダ!戦闘中だよ!」


「知っています。そのぐらい倒せますでしょう。私は早くこの薬草を調合したいんです」


こちらを一切見ずに言う

薄情もの……


「カールトンそのまま地面の蔦を対処して、ヘイムは出来るだけ迫ってきた蔦を倒して」



「承知しましたぁ!」

「任せてくれ!」

二人はより激しさを増して対応する


「氷結の息吹 静かなる時の中で 悠久の時を閉ざそう 暗き闇世に 眼を閉じて 凍れ」


かざした手に氷魔術の青白い光が収束する

それを巨大カボチャに向けて放つ

手を薙ぎ払うように動かした


「無垢なる透明な死を ゼン・ヒョウレイアス」


局地的に触れるものを瞬時に凍らす上位魔術を放つ

青白い光に照らされた蔦は動きを止め、凍りつき砕けた

あとは本体だけだ


「坊ちゃんお待ちを」

ユダが僕の手に触れる

魔力を乱され魔術が消える

「どうしたの?」

なかなかの魔力を消費したのでグッと疲れた

無言で渡されたユダ特製元気が出るよドリンクを

仕方なく飲む

うぅ苦い

のに美味しい

病みつきになる美味しさだ最高!


瞬間的にハイになった



「中に何かいますね」


中に何かいるって?

もう既に触手のような蔦は全て切り落としたようだ

追加も来ない


「出てきなさいそのまま燃やしますよ」

静かに脅すユダ



一瞬シンとしたが、もぞもぞとカボチャが僅かにゆれ

そしてテッペンが開いた

蓋のように


「あれ?皆どうか…あっ、ユダさん来たんですね。坊ちゃんも」

ついでのように言われたけど、まぁいいや



「ルカあなた何をしているんです?」


「ええと、ヘイム達が競争するとか言ってバラけたので、こんな大きなカボチャを見つけたので折角ならと加工して持っていこうかと」



「加工ですか…」


「はい!まだ完成はしてないので恥ずかしいですが、これ正面からどうぞ」


言われた通り正面に移動する

そこにはひどい光景があった


(Dear ユダ♡)

と書かれた文字の上にユダの似顔絵が彫ってあった

確かに見事な出来栄えだが

このスマイル百パーセントのユダは、正直


プフッ


「ほぇーそっくりですねぇ!上手です!こんな笑顔は見たことありませんので違和感は感じますが、素敵です!」


「こりゃ確かに見事だな!これはもしかしたらルカが一位かもしれないな」


「プフッ、……すごい、上手だね。いい、スマイル、フッ、だと思うよ最高」



「そうですか?なかなか暴れて思うように彫れなかったので心配でしたが、そう評価してもらえるなら嬉しいです」

柔和な笑みを浮かべ、本来の好感の感じる男の子の顔になったルカだった



「ど、どうですかね、ユダさん」

チラッと恥ずかしそうに、だが気になるのか視線を泳がせながらも窺っているルカ


「つまりあなたが馬鹿みたいに彫っているせいで、このカボチャは暴れていたんですね」


「へっ?」


スタスタとカボチャに近づいたユダは

静かに手で触れた


「烈・破天掌」

手のひらをピッタリとくっつけたままそう言うと

中にいるルカごと

カボチャは木っ端微塵に吹っ飛ばされた

無惨にカボチャは跡形もなく、形を無くしたのであった





≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫






…………


「ほら、仕方ないって形あるものはいつか壊れるわけだし」


「……」


「でも、うんすごかったよ流石だね!そっくりだったよほんと。帰ったらさ今度は木彫りとか彫刻とかでやってみたら?才能あると思うよ」


右手をぎゅっと握り返された

返事だろうか


「私は迷惑です」


「こら!そんなこと言わないの!仲良くしなさい!」

「どこの立場で言ってるんですか……」



酷いこと言うねほんと。照れてるだけだよきっと

と宥める

ルカは右手で流れる涙を擦りながらこくんと頷く

目が痛くなっちゃうよそれ

左手が引っ張られる

……

「ほら、ヘイムもさ。ギリスにお前のために泣く泣く争いを終わらせて、彼らの勇姿を最後まで見たって報告しようね。そうしたらきっとギリスも喜んでくれるよ。だから泣かないでねほら、鼻かみな」


ポケットに入れていた紙をヘイム自身にとってもらい

鼻をかむ

それでも僕の左手は大きなヘイムの手と繋がれている


はぁ………託児所じゃないんだけど僕

カールトン鼻歌を歌ってご機嫌に

適当に襲ってくるカボチャやサツマイモを爆散させている

先頭を歩くユダは手帳に多分調合レシピでもメモしているのだろう



この使用人たち自由すぎやしないか

主人たる務めとかいうなら

仕方ない気もするけど何だか種類が違う気がする

保育園でも開こうかな



数多の芋達を撃破しながら静寂な森を進んだ僕たち

残骸で食べれそうなのはカールトンが美味しくいただきました









「家?」



ギリス捜索のため森の中を歩いていると

ポツンと開けたところに家が建っていた

おかしい

魔物の住処であるこの森に住むなんて

稀にある魔物が寄り付かない安全地帯でも

家を建てて住むなんて滅多にいないと聞く

一部の研究者や魔術師は材料が多い場所を好んで

住み着くとは聞いたことがあるけど

実際みると、結構引く

オレンジの屋根に煙突が立っている小さな家だ





「お家ですねぇ〜。可愛らしいお家ですお庭もありますよ」


「庭もカボチャとサツマイモばかりですね。なんて面白みもセンスもない……」


「とりあえずぶっ壊しちゃいましょーか!」


「え衝動的過ぎない??待ってよ」


「そうですね。こんなところに住む変人なら先制で潰しとくのも悪くないですよい判断ですね」


「わぁ〜い!褒められましたぁ〜!張り切っちゃいますよ!」


「ストップ解体!!あの家にギリス居たらどうするの!?酷いことになるからやめて!」


「そうですかぁ残念ですぅー………。折角お役に立てると思ったのに」


「珍しくまともなことを言いますね」

「そりゃ思うでしょ!あと結構失礼!ユダ既にめんどくさく感じてるでしょ」


「最初からですよそんなの」

「正直だからって許されるとは限らないんだよ!」

不遜な執事である





「おやぁおやぁ、お客さんですかぼちゃ?珍しいですねぇ」

引っ掛かる語尾と共に何者かが庭から現れた

気づかなかった


「あ、あの僕たちこの森ではぐれてしまった仲間をぉえっ!?」

「五月蝿いですね隣で大声を出さないでください」


言葉の途中で驚きのあまり大声を出してしまった

不愉快そうにユダが眉根を寄せる

今日も変わらずドライだねいいかんじ



「おやぁおやぁ?ささっ中はどうぞ。美味しいカボチャ茶を淹れますのでさぁさぁ入ってくださいねぇ」


カボチャから生えた手らしきものを振りながら

背背負った籠を一度しっかりと背負って

歩くカボチャは家の中へ入っていった


……


「ふふふ、すごいですねぇ話せるんですねぇカボチャって。潰してみてもいいですかぁ?」


「待ちなさい。気味は悪いですが興味はあります。あの家を襲って鹵獲しましょう」


「それ完全に悪役のすることだからダメですからね」

僕の指摘をスルーして彼らはスタスタと家の中へ入っていった


……………



とりあえず大きな子供二人を促して

ついて行った





「お、お邪魔します」

中は普通の家だった

木造でできた家でテーブルと温かみのある赤いカーテンと煉瓦でできた暖炉があった


「さぁさぁ、ヒヒお座り、ください。カボカボ」

怪しく笑いながらカボチャは席に案内して

お茶の用意をするため離れて行った


「本当に家だね…」

「幻術の類も罠魔術の気配はしませんね。ただ……」


「うん。あれだよね…」

ユダの無言で見つめた先には

welcome to the factory!!


と書かれたオレンジ色のカボチャ型の両手扉があった

あそこから変な魔術の気配がする


「……やはり爆破した方が」

「しちゃいますぅ!?」


「……保留で」

まだ悪いものとは限らないし

違和感すごいけども



「はぃはぃ、お待ちしましたよぉ飲んで食べてくださいねぇちゃぼちゃぼ」

その語尾何?ランダムなの?


僕たちの前に湯気の立つお茶とカボチャクッキーが出された

すかさずカールトンが早食いし満面の笑顔で喜んでいる

ユダが確認し目で大丈夫だと受け取って一口食べると

カボチャの自然な甘みが良くて美味しかった

お茶も普通に美味しい

目の前にご機嫌なのかお盆を胸に抱えて揺れているカボチャさえいなければもっと喜べた


全員の前になにかチラシのようなものが置かれた

「これは…」


「工場案内ですよぉ!スマイルカボチャ工場は美味しさ!美しさ!大きさ!生産量!世界一ですよぉチャチャ」


「…あのここにカボチャ工場があるんですか?」


「はぃ!見学しますぅ?今ならスマイルカボチャくん七種類とシークレットの中からおひとつプレゼントしますよぉボボ」

いちいち語尾めんどくさいなと思っても、黙っておこう


「見てみたい気もしますけど、僕たち仲間を探していて」


「お仲間ですかぁ?もしかしたらパッションサツマイモカンパニーの方にいるかもしれませんねぇチャボカボ」



「こんなのが二つもあるの!?」

「坊ちゃんこんなのは失礼ですよ。わかりますが」

「うふ、正直者ですね私は好きですよこんなの」


カボチャの家でワイワイとおやつタイムを楽しんでいた

そうして和んでいたら入り口から大きな音を立てて扉が開かれた

「第一工場長!!大変ですカボ!!芋の奴らが新種開発に着手して成功し、しかもそれが奇跡の芋だとかで騒いでおります!このままでは我らのカボチャが負けてしまいます!!カボ!!」


「な、なんだと!?それは恐ろしいことになったボチャ!急いで社長に報告して偵察に行くぞ!」


はいカボチャ!と言って部下らしきカボチャは出て行った

「ということですみませんが工場案内は本日はなしで、申し訳ないカボ…」


「えースマイルカボチャくん全種類コンプレートしたかったですぅ〜!!」


「特別にガチャ引かせてあげるカボチャ」

「やったぁ!!」

「そんなに欲しいかな…」

「十連だと一回サービスですぅカボカボ」

「なんかいやな商売みたいなやり方だね」

「わぁっ!虹演出確定ですカボチャ!!おめでとうございます!!SSR勇者スマイルカボチャくんですぅ!」


「やったぁ!!!」


「もうツッコむのつかれたよ」



「それでは私はサツマイモカンパニーに行って参りますのでチャボ。お帰りお気をつけて」


「あっ、僕たちもついて行っていいですか?もしかしたら仲間がいるかもしれないので」

そしてこの森の元凶につながる糸口が見つかるかもしれない


「もちろんいいですが、危険ですよぉカボチャ」


「大丈夫です。お願いします」


僕は茶とお菓子を嗜んでいる奴らを蹴り飛ばして

勇者スマイルカボチャくんで喜んでいるカールトンを連れて

目的の場所に案内されたのだった





「ていうかここ通るんだ」

てっきりそのまま外に出て向かうのだと思っていたが

あの室内にあったあやしいカボチャ扉を通るのだという

話によると、工場は繋がっているらしい

対立している組織…でいいのかな

そんなのと直通している工場なんて不思議だ

それをそのまま聞いてみた

「それはですね。我らカボチャ族とサツマイモ族は創始者様のお力で生まれたのです。あの方が日夜研究して、我らをお造りになったあと自分達で存在を広めよと仰せになったんですカボチャ」


それってこの騒動の大きな手がかりになりそうな情報だった

「どこかの神話みたいだね…。それで君たちは競争してるってことかな。その創始者様は何をしているの?」


「新たな可能性と革新的な技術の確立を目指した研究だと言っておりました。まだ我らの中でもこうやってコミュニケーションをとれるものはごく少数。なので更なる発展のために尽力しているのでしょうなんて素晴らしいお方でしょうかチャボ」


涙の出ないのに涙を拭う仕草をしながら

カボチャ工場長は言った

なんだか説明時は言葉が流暢な気がした



「へぇ…。それじゃあその人?は今はどこにいるんですか?」


「ちょうどサツマイモカンパニーとの中間部にあるカボチャ」



それならついでに探ってみようかな

この異変について何かしら知っているだろうし

この先、彼らが人々に害をなさない存在か知らなくてはならない

人工的に植物に人格を持たせるなんてすごい技術だ

ハロウィンパーティの為に奔走した使用人たち回収としてきたのに、何か大事になってきたのかもしれないなぁ




木々を抜けるとそこには金属の看板に

芋式会社 サツマイモカンパニー

と書かれた三階建ての建物があった

うわぁ文明を感じる

「ここカボ。……裏から潜入するカボよ」

いつの間にか黒い装束を着て姿を隠している

フォルムが完全にカボチャなので意味がないし不気味だ

カボチャ工場長について行き裏の勝手口から侵入した

無駄に緊張した

悪いことしている、わけじゃないよね…


「…中に入るのは楽だったね。見張りもいないし…」


「そうですね。ですが何かしら気配は感じます。見られている、のでしょうか?わかりません」

魔力は感じられないのですけどとユダはいう

高位魔術でユダに気づかれない手練れだったら僕たちには少し荷が重いかも知れない



「シッ!カボ!!」

そっちの方が三倍くらいうるさかったけど文句は言わなかった

カボチャ工場長と共に扉から中の様子を窺っていると何かの機械の音と声が聞こえた



「………ヒ………な……たす………や……ぇん」


ボソボソと聞こえる声に少しホラーな感じがしたが

芋しかいないのに怖がってもなぁと考えたけど

動く芋しかいない現実も十分怖いよなと考え直し

思考を放棄した




姿勢を低くして中に入る

見たこともない機械がグオングオンと音を出し稼働していた

まじまじと観察していたせいで手を繋いでいた二人が天井から生えた鉄の棒に顔面をぶつけてしまった

ごめんね


チラッと目があったカールトンは微笑んで

口の動きで「壊します?エヘ」と言っていたので首を横に振っておいた


声が聞こえる場所近くまでやってきた

変なガシャンガシャンと動く機械に身を隠しながら見てみると


「ううぅ…な、なんでこんな目に………指が痛いよぉ。目が………お芋の残像でおかしくなるよぉ」



………


ギリスが台から流れてくるサツマイモに

シールをペタリと貼っていた

服装は臙脂色のサツマイモカラーで裏側は黄色の作業着らしかった

ひたすら同じ作業を繰り返して涙目でシールを貼っている

後ろの壁には真心込めて丁寧にと書かれていた

………なんだろうこの光景に胃がキリキリと痛む


「ま、まごころ、ごめて、ていねいぃに、……うぅ」


悲惨である



「こんなところで何をしているのギリス?」


「わ、わぁ!?」


突然声をかけられとても驚いた様子

そして驚きながらも作業はブレもなく続けられていた

何があったんだ


「えぇと」


皆と離れ離れ、置いて行かれたギリスは仕方なく森を歩いていたそうだ

心寂しく怯えながらも進みその先で空腹で休んでいたところ

双子のサツマイモに助けられたそうだ

そこから紆余曲折あり地下遺跡の秘密を暴き秘宝を手に入れ王墓泥棒を捕まえたりサツマイモ帝国で逆臣に謀られた王子を助けたと

聞いていてもよくわからなかった

そうしてこの会社で雇われたそうだ

日給サツマイモ二個だそうだ


「…苦労したんだね」

「うぅ、辛かったです坊ちゃん…ひぃぅ」

よしよしと頭を撫でながら抱きしめた

横でヘイムがどさくさに撫でようとしたが一瞥もせず瞬時に手を払った

お怒りのようだ


「とりあえずここから出ようか。長居は良くなさそうだし」


「それは、困るイモね」

!?

後ろから声がかけられた

振り向くとまぁ予想どうり

綺麗なスーツを着たサツマイモがそこに立っていた


「君がいなければ奇跡のサツマイモは作れない。それはわかっているだろう?みんなが困るんだ。君一人のせいで全員が迷惑するんだぞサツマイマイ」

こっちの語尾もめんどくさいな

それが僕の感想だ


「そ、そんなぁ、でも私だってこ、困ります。労基に訴えますよ」

僕の後ろに隠れて顔だけ出してそういう

「そんなことして許されると思っているのか!社会を舐めているな全く。これだから若い人間は困るんだイモ」

冷たく言い放つサツマイモ

いつまでこれ続くんだろ人間社会に戻りたい


「経営能力がないからそうなるんでしょうナンセンスです。個人が辞職したぐらいで皆が困るなら困りなさい。多勢が無能なだけですからね自業自得。諸行無常」

淡々とユダが言い放つ

その通りだね

そのカバンにサツマイモを詰めていなかったら最高だったよ



「ぐぬっ!!貴様らはなんなんだ!勝手に社内に侵入して邪魔をするなんて非常識じゃないか!」


「芋に言われましてもね」


「人でなし!」

「どうも」


くぅ!っとサツマイモ専務とやらは悔しそうにしている

その人と口論しても傷つくだけだよと先輩は思っておくよ


「そもそもこちらの使用人を勝手に雇っている時点で不当です誰の許可を得て使っているんです?損害賠償及び精神的苦痛による請求を求めます。払うまでやめません勝つまでは」


「そ、そんなぁ」


オーバーキルである

さすがブレない執事強欲だ

社会的信用だとかなんとか芋達は騒いでいる


「この芋を市場に出したら大変なことになりますよ。戦争が起きます」


「ええっ!?どうしてさ?」


「確か名前は奇跡のサツマイモでしたか?何故そのような滑稽な名前に?」


「ぬぅ、このサツマイモを食べればあら不思議!病や怪我がみるみる治る芋よ!しかも家内安全安産祈願交通安全よりどりみどり芋!」

「前半はまだしも後半は真っ黒ですね卑しい芋です」


「芋聞きの悪いことは言わないで欲しいサツマイモ!」


「次その変な語尾言ったら真っ二つにしますよ」


「イ、イモォ〜…」

ユダさんやめたげて芋のライフはゼロよ



「はぁくだらない。さっさと駆逐して帰りましょう明日の支度もありますのに時間が勿体無い。謝罪として食糧はいただいて行きます」


「…もう許せないイモ!カボチャ対最終兵器を出すぞ!」

サツマイモ専務はそう口に出しポケットから謎のボタンを取り出して押した

その瞬間会社が揺れて僕たちは急いで外に脱出した



外は大騒ぎになっていて同じように会社から飛び出してきた芋達で溢れていた

そして騒ぎにカボチャたちもやってきたようだ


会社の駐車場が二つに割れ白い煙と動作音と共に

黒い影が現れ照明に照らされ姿を表した


「イモッモッモ!!これぞ我が社の最終兵器メガサツマイモデストロイヤーだ!!」


鋼鉄でできた躯体にサツマイモの蔦を模したパーツが後ろに流れていてマントのようになっている

あまりの出来事に僕たちはぽかんとしていた



だっ、だっせぇ………



僕たち(二人を除く)は同じ感想を抱いた


「皆さん下がってカボ!憎きサツマイモどもついに本性を表したな!!だが我らも黙ってはいないぞ!!」


そう言ってカボチャ工場長は工場作業着からボタンを取り出して押した

するとゴゴゴゴと地面が揺れて地面が割れて何かが現れた

流れ的に察するけどまぁ見ておこう


pumpkinと書かれたマントを翻し魔法使いのような帽子を被った巨大なカボチャが現れた


「マジカルファニーパンプキンちゃんだカボ!」


《悪い芋は生産者が許しても!需要者と価格変動のために私が許さない!ブッ殺♡》



個性が強い魔法カボチャのようだ



「これ、どうすればいいのかな僕たち」

「同士討ちで滅んでくれたら楽ですね」

「…そうだけど、ほんとブレないね」

感情を無くした顔でそう言った

脳はもう疲れたって言ってる




「な、何事なんだいこれは!うわぁ凄いことになってる!


僕たちがぽかんとしていたら

いつの間にか白衣を着たメガネの男が現れた

あ、久しぶりの人間だ

何故かホッとした



「あなたが元凶ですか?」


「えっ?人間?なんでここに…まさか追手がついにここまで」

逃げようとした男をユダは捕まえた


「は、離してくれたまえ!私は決して屈しない!クッコロ」


?最後のはなんだ?呪文かな?ユダに目で尋ねたけどスルーされた




「よくわからないけど、あなたが彼らの創始者様って人ですか?」


「あ、ああそうだとも。彼らを生み出し研究しているのが私ポルトル博士とは私のことだえっへん」


「無駄に偉そうに。この事態見てわかりませんか?研究以外は使えなさそうですね」


「酷い!たしかにコーヒー淹れようとしたら家が三分の一燃えたけど」

それは十分やばいのでは



「とにかくこの事態どうにかしてくれませんか?この森なくなりそうな勢いなんですよ」


話している間にあの巨大な奴らは争っていて

サツマイモの剣撃をカボチャは器用にかわし下がりながらも魔法(物理)で応戦している

その度に衝撃で周囲の木々も芋もカボチャも吹っ飛ばされている

僕たちはいつの間にかユダが展開した結界内で無事である



「き、君たちやめなさい!!なんでこんなことになっているんだ」


「「それは無理なお話です創始者様」」


「君たちは!?」

現れたのは豪華な服を着たサツマイモとカボチャであった


「カボチャ社長とサツマイモ代表取締役ではないか!?何故止めないんだ!」


「もう導火線に火はついてしまったのですよ。もう誰にも止めることはできません」

「その通りです。そもそも創始者様がお告げになったのですよ」


「そ、そんなことは何も言っていない!」


「仰られたではありませんか、進化を、新たなる境地へ進めと」

「それは技術や学術的な話であって」

「同じことです。そうするならば我らはどちらかの種族が争い、そして勝ち残らなければならないのです。それが定めであり必然。進化とは勝ち取ることなのですよ」

その言葉に学者は地面に尻餅をついた


「わ、私はこんなこと」

「あなたは素晴らしかった。そう我らを生み出し、常に黎明の光を目指せと。高みへ至れと。その言葉通り我らは考えて歩んできたのです」


「だが、こんなこと。これでは君たちは滅んでしまうかもしれないぞ。土壌が荒れて仲間たちが死んでいる。なんとか結界式で魔獣を遠ざけたのにこのままじゃ襲ってくるぞ!」

「それもまた世の常。構いません」

「そんな!?」

「わかっております。あなたが我らを愛してくれていることを。だが分かってしまったのです」

「なにを?」

「いつまでのあなたの加護に抱かれていてはただの芋とカボチャと変わらない。文明が朽ちていくのです」

「それは」

「あなたを信仰し、崇拝し、全てのものが考えることをやめました。あなたがいうのだから正しいと。自分達の平和は永遠だと」

「それは実に愚かなことだ。その時点で我らは歩めない。黎明の光は届かない!!」

感極まったようにサツマイモが胸を叩いた

それを痛ましいながらも支えるようにカボチャが寄り添った

「そして、一つの結末を描いたのです」

「これは、仕組まれていたのか」

その言葉に、芋達は静かに笑うだけだった

「全てを破壊し地を掘り起こし天を揺るがし概念という概念を今!!我らの手で初めに還らん」

その叫びと共に巨大な奴らは光を纏い激しさを増した


「悪辣なカボチャよ。今終の時イモ!!!」

「私と契約して魔法イモにならないなら、終わりにしよっか。ハッピーダーク・パンプキンナイト!!!」


二つの大技が交差し光に包まれた

眩い光のサツマイモソードがカボチャステッキに衝突する

激しい魔力の衝突に

冗談じゃなくこの森全体が爆発で消えそうだった


「や、やばくないですかユダさん」

「坊ちゃん動揺しすぎて言葉が変ですよ」

「もう、許容量オーバーだよ!!」

「たしかにこのままでは危険ですね。大切な資源が無くなってしまいます」


スタスタと前に歩き巨大な芋達に近づいた

「ユダ危ないよ!」

それに応えず何かを始めた


「我が声に応えよ 我が声に応えよ 我は地に根を張るものの王なりて 声無きものに命を与えん 従え 王の言葉に応えよ」


これは種族隷属魔法か

かなりの高位魔術だ

小規模ならよくあるが、王の言葉に変化したならばかなりの魔力と構築技術がいる

それをなんてことないように展開するなんて本当に天才だな


ユダの魔術により吹っ飛ばされていたカボチャと芋達が連携して被害多いとこから仲間を救出し

僕たちの盾にもなってくれていた


「坊ちゃんこれは長持ちはしません。あとはお願いします」


「ええ!?」

「早くしませんと私たち以外吹っ飛びますよ」

ユダの魔術でもあの巨大な芋達には魔力量による阻害で声は届かないらしい


「お任せします」

振り返らずユダは言った

これは、信頼の言葉だと僕にはわかった

……

「わかった」

僕は一言言って動き出した


「僕の使用人たち!仕事だ!」

その言葉に様々に光景を見ていた彼らは一変して

動いた


「カールトンは奴らの攻撃の余波を吹っ飛ばして!それでユダを守りながら応戦!地面からの蔦は頼んだ」

「ふふふ!!!承知しましたマイフェアレディ」

嬉しそうな笑みを浮かべ無慈悲に潰す鎚でユダに迫った蔦を潰し切る



「ヘイムはギリスを守護!そのまま奴らの足を止めて!」

「任せてくれ!!俺の坊ちゃん!かっこいいところ見ててくれよな!」

背中に背負っていた大剣を取り出して低く姿勢を下げたあと一瞬で跳ねた

後方では溢れていた蔦が切り刻まれていた

そして足元に立ったヘイムは大剣を振って奴らの片足を切り落とした


「ギリスはフェニックスで炎の結界を!囲むだけでいいから辛そうなら仲間の回復だけでいい!」

「お、お任せください坊ちゃん!シール貼りなんかより得意です!!出でよフェニックス!君の火でみんなを守って!」

凄まじい炎が地面から飛んで周囲を照らした

その光により傷ついた芋達が癒やされいった



「ルカ!姿勢を崩したあとなるべく中心地に拘束して!」

「承知しましたよ坊ちゃん」

ルカは素早く走り木に跳ねるように飛びのりヘイムによって膝をついた奴らの背中を蹴り飛ばした

すかさず反対方向に駆けてもう一体も背中を蹴り飛ばした

そのまま持ってきていた魔道具なんでも縛っちゃう君でぐるぐると巻いた

暴れても逆に絡みつく仕様のようだ

よくカールトンが巻かれている




「ユダ!僕の合図で術を解いて僕にエンチャント!属性は、闇!」


「イエス・ユア・ハイネス」

静かに最大の言葉を告げたユダ




僕はユダの前に立つ

一応持ってきていた魔法剣に魔力を伝える


「暗き従属に御手で触れたもう エンチャント ダークネス」

ユダの最速の付加魔法だ

暗い青みがかったオーラがまとわりつく





「滅びの鐘は鳴り響いた 命あるものは噎び泣き地に伏せよ 汝らの慟哭のみで我が心は満たされる 諦観した夢は 救いとならない ロスト・トロイメライ」


奴らの下の地面から青黒い炎が現れる

瞬時に足元から無音で焼き壊す

そして静かに 巨大なもの達は灰も残さず消えた






「な、なんてことだ。あの規模を瞬時に倒すなんて」

ポルトル博士が驚いた様子で見上げていた



「な、なんとか倒せた」

急激な魔力消費に倒れた

地面に触れる前にユダに抱き止められた

「まったく無茶をしすぎですね。他人任せが多すぎます」

「……うん。ごめんなさい」

「まぁ悪くありませんでしたよ。及第点です」

「ふふ、やったね」

「ですが暗黒魔術なんて大規模すぎます。制御を間違っていたら森どころかこの地域が滅びましたよ」

いつ覚えたんですがと睨まれたが曖昧に笑っといた

そしたら口にサツマイモを突っ込まれた

美味しい


「ふわぁ〜スッキリしましたぁ!すっごく楽しかったですねぇ」

「そうだな!やっぱり体動かすのはいいものだな!」

「兄さんは無茶しすぎなんです。だから置いていったり忘れたりするんですよ」

「それは、悪かった」

「まったく、鶏頭はすぐ忘れる」

「なんだと!?誰が鶏だこのアホ犬!」

「誰が犬だ!この青芝生!」

「垂れ耳チワワ!」

「体育会系バカ!」

「うるさいので黙ってもらえます?」

「「ごめんなさい」」


仲間たちもたった今ユダにぶん殴られた怪我以外は平気そうだ

てかこの芋美味しい

あれ?魔力が回復してる


「この芋…」

「やはりですか。フェニックスの炎で焼かれた上召喚士の魔力つきのシールで蓋をされていた疑似的な魔力回復剤となっていたんですね。怪我の回復効果もついてます」

「それすごすぎない」

「そんなのが簡単に手に入ったらどうなるでしょうね」

「市場は荒れて、戦争の道具か原因になってしまうね」

「なので撲滅しましょう」

「か、過激〜」



「うぅ、なんでこんなことに…」

地に伏せたままポルトル博士は呟いた

「よくあることです。いくら頭が良く一つ事柄に真理を求めようとも、自分がしたことの波が大波になることすら想像できない。愚かなものなんですよ研究者なんて」

どこか遠くを見るような目で心配したが

すぐにいつもの眠たそうな目に戻った


「ぐ、ぐふぅ」

「マイモくん!、マイモくんぅぅうぅ」

少し離れた先で横になったサツマイモをカボチャが支えて泣いていた

「どうかしたの!?怪我?」


「違います……マイモくんは、病なんです」

「なんだって?そんな報告は聞いていない」

「魔力欠乏症です。長い月日を種族のために働き身を粉にして魔力の少ないもの達に配っていたのです。互いの作物でしか魔力は回復しない。譲渡できるのは僕たちだったんです」

手を伸ばしたカボチャの手をサツマイモは握りしめた

「もう…いい」

「そんな!嫌だよマイモくん!」

「俺は、十分生きた」

「まだ、これからだよ約束したじゃないか!すべてを壊して、作り直そうって!!」

「あぁ、そうだったな。ははっ、そんなに、泣くなよ」

「……マイモくん」

二人は静かに抱きしめあっていた

その姿に僕たちは何も言えなかった


「お前たち」


「すみません創始者様、そして創造主様。僕たちは自分達のために、この事を計画しました」


「つまり、種族による争いによる魔力の困窮による消滅を防ぐための、賭けに出たというわけだったのか」


「そうです。いくらこの事を告げても分かり合えないと、滅ぼすべきだと言って納得してくれなかった。たった一人の神のもとに生まれ落ちた僕たちなのに争って理解し合おうとしない。ならいっそ、滅んでも良いと」


「これは、………建前なんです」

「カボンヌ……お前」

「いいんだ結局、僕は君なしでは生きていたくないんだ」

「……」

?つまり彼らは、愛し合っていたという事?

ほんとに、人間のようだと思った

いや人間よりも種として真っ直ぐでありながら

互いに深く愛し合っているように見受けられた



「ぐっ」

「マイモくん!?」

「悪いなカボンヌ、お前と見た星も、夢も、俺は幸せだった」

「そんな!そんなぁ!終わりみたいな事言わないでよ!!今からでも、……奴らを糧にして儀式をすれば」

「それは絶対ダメだ。禁術を使っては、未来は、ない」

「未来なんて!!君が隣にいない明日なんて、僕はいらない」

「カボンヌ………」

「ごめんよぉ、ずっと助けたかったのに、僕はいつも助けられる。僕に魔力がないから」

「そんなことはな、い。生きるという意味をお前が教えてくれた」

「僕は、なんにもしてない」

「それでいいんだ。お前が笑ってくれたなら。ただ使命をこなすことだけの人生を、お前と出会って俺は、お前を、愛することができた…」


「!……僕だって、君を愛してる」

静かに二人はキスをした

「…死ぬ前に、争いをおわされることができて、よかった。どうか、幸せに…………………」

「マイモくん!マイモ!?うわぁああぁぁぁあ!!!」

泣き出したカボンヌに抱きしめられたまま

マイモは静かに息を引き取った





「うぅ」

カールトンは大泣きしていてヘイムは顔を隠しているが声を噛み殺して泣いているようだ

ギリスは兄に抱きついて泣いている

ルカは顔を背けて辛そうにしている

ユダは、本を読んでいた

おい


「すまない。私は間違っていなのか。ただ、あの人のように新天地に私も行きたかっただけなんだ。すまない全て、私が悪かったんだ」

「うぅ、ぅぅう」


争いにより荒れた森の中で胸が苦しくなる鳴き声が響いていた




禁術、さっき言っていたのは禁忌暗黒魔術の大二門の扉

数多の命を積み重ね地肉と魂を罪の秤に並べ

大罪を背負い 怨嗟に塗れて扉を開く術だ

十三門の扉の領域まで知っているなんて

思考が何かに触れてしまったようで

あたまが おかしく なって …


声が



「坊ちゃん」

「あっ」

ユダに肩を叩かれて覚める

「呼吸が止まっていました。何かありましたか」

「……大丈夫。なにか、疲れちゃったのかも、はは」

ユダは納得していない顔をしていたが

深く追求してこなかった

「もう用事は終わりにして戻りましょう。体に障ります」

「でも」

チラッと彼らを見る

いくら同じ人間じゃなくても、こんなのあんまりだ

縋り付くカボチャが あの地獄の時の自分と重なる


「はぁ」

ユダは深くため息をついてカボンヌ達に近づいた

「な、なにを」

「お静かに」

ユダはマイモに触れて黙る

「魂……なんでしょうか、さすがに複雑ですね。私では深層までは届かない」

「それは」

「それって、反魂の術?」

「なぜそれを知っているのか、後で教えてくださいね」

「えっと」

「それではダメですね。あれは正確には精神体や残滓を反映させるだけの術です大抵不完全な術ばかり。成功させるものはごく少数、この場合は人間とも違って肉体の死と概念は違うみたいです」

「ならどうすれば助かるの?」

「た、助かるんですか!?お願いします!助けてください!お願いします!」

哀願するカボンヌ


「……魂の励起。本来は死に取り憑かれ生きる事をやめた人間や何かしらの原因で魂が肉体と結びついていない場合など古い魔術の儀式で蘇られる場合がある、そうです」


「なら、それをすれば!」

「危険なんですよ。魂に触れる行為自体禁忌。魂は全てが門への続いていますからね。悪魔ぐらいですよ簡単に触れるのは」

「では、どうすれば」

「それは人間の場合でしょ。このサ、マイモさんは魂が癒着が弱くて。魔力欠乏症と普段の力の使いすぎによる離脱症状に近いはず」

「…」

ユダが鋭い目で見てきた

だが臆してはいけない

「僕なら、ガフの扉に干渉されないはず。だからユダが術式を組んで、僕が魂の励起をすれば」

「できなくは、ないですが。よろしいのですか?」

よろしいか…リスクは知っている

共鳴すれば己の魂もつられて肉体と精神からずれてしまう

「…うん」

「はぁ、困りましたね」

「ユダ」

「仕方ありません。お手伝いしますからさっさと終わらせましょう」

「ありがとうユダ!」

「危険だと判断した時点で強制的に終わらせます」

「うん」

「よくわかりませんが、どうか、どうかマイモくんを助けてください!」

「私からも頼みます」

二人に頷いて始める

ユダが僕を包むように背に被さる

静かな心音が伝わってくる

「…私の呼吸とリズムに合わせてください」

「そう、お上手です」

「そのままお腹から指先、奥まで意識してください」

…ッ

「大丈夫です。シンクロによる感覚同調です。集中して魔力の流れ、生命力を感じてください」

目を瞑って意識する

自分の体に重なる

静かで優しい流れ

自分勝手に流れるのに我が物顔で僕の中を通っていく

それが温かい 気持ちがいい

「さぁ、…そのまま、ゆっくりです。そう、もっと強く」

……

流れの先に 光が見えた

「………そっと、手で雛を掬うように。しっかりと、丁寧に、包み込んで」

……‥刺激が、つよい

「怖くありませんよ。そこを一歩、そうすれば、もっと先へいけます」

……ン

「いい子です。ほら、あと少し」

輪郭を捉える

これが、魂?

丸い、小さな灯り

弱々しく、鼓動が聞こえる

「それです。さぁ念じて、すべてを私と一つに」

「……うん」

手と手 足と足 心と心

重なるたびに 痛いような 苦しくて 嬉しくて

気持ちがよかった

「深層シンクロ合致。術式展開」


「レクイエム・円環から羽撃く鳥」

精神世界に青い鳥が羽ばたいて現れた

沢山の小鳥は魂を囲むように飛んでいる

……ッ

なんて、情報量と、処理領域の広さだ

頭が、細胞が悲鳴を上げる

焼け死んでしまいそうだ

「このままでは」

ダメだ!ここでやめてしまったらこの明かりは消えてしまう

直視が辛くて激痛が走る

もう、限界……

その時だった

胸につけていた銀の羽飾りから

一羽の鳥が飛び立った


!!


「情報領域把握、多重処理完了、魂の選定完了、励起処理完了」


「坊ちゃん手を伸ばして!」

「うん!」

青い鳥と白い鳥が互いに寄り添うように飛んでいる

その先に、光が




一瞬


闇がこちらを視た

「させるか!」

青い鳥が光り輝いて闇を払う

溢れた闇はそれすらも覆おうとしていた

そして白い鳥が銀の輪を描いて歌を歌った

《深淵より來るものよ 去ね 汝は招かざるものなり》

青と銀の光に闇は消えた



「うわっ!!」

後ろに倒れた僕を倒れながらもユダは受け止めた

「……だ、大丈夫?」

「…………なんとか、です」

疲弊は凄まじかった

一ヶ月寝ずに勉強したような頭の痛さだ

した事ないけど

「あっどうなった!」

起き上がるとカボンヌがマイモに被さっていた

ダメ、だったのか

「マイモ、マイモ、マイモくん……」


「………そんなに泣かれちゃ、寝れねぇな」

「マイモくん!!!」

「また、逢えたな」

「うん!!」

二人はピッタリと抱きしめあった

その姿に僕までうるっとしてきた

「本当にありがとう、ございます」

「助けてくれてありがとう」


「助かったならよかったよ」

「一年分以上の労働です本当に困ったものですね」

はははと笑い安堵する


「皆さん、本当にありがとうございます。あなた達がこなければ罪を重ねて、私のせいで彼らを失うところでした」


「いやぁいいよ。助けることができたんだし。そもそもなんでこんな事をここで?」


「以前大国の研究所におりましたがそこを破壊され、行く当てもなく歩いていたらある人に助けてもらって一晩語り合ったのです。そうしたら私は研究を諦めるなんてできないと思ったのです。そうしたらこの森には資源も多く何をしてもいいと噂に聞いたので来ました」


「何もしても良くないよ。これでもうちの国の領域だし」


「それもそうですね」

「植物の自我の研究か知らないけど、ちゃんと許可とって安全なところでやってよ」


「はい。正確には魂の錬成と精神と時間原理の因果の解明ですけど」


「なんでそれでこんなハロウィンチックなの」

「実験的に成功例達が自分達でどう動くのか観察していました」


「なんでカボチャとサツマイモ?」


「美味しいからと、食べ物に困窮したもの達に植物達自身が供給すれば労働力代わりになると思って」

「うーん。考えたことは悪くないけど想像以上になりすぎじゃない」

「そうですね。中には統治から逃れてノラ野菜として文明を築く者もいましたし」

「思った以上にすごいことになっていたね」

「面目もないです」


「まぁ、今後気を付けてもらえればいいよ。魔物もいないみたいだし」


「いますよ」


「え」


「あぁまずい!さっきので結界機構が破壊されてしまったから集まってくる。この子達は奴らにとってご馳走なんです!」

それはまずいよね

こんな魔物の森奥深くで襲われるなんて…



ガオォォォォォンーーー!



森の中でに反響する声が聞こえた

これは、結構まずいのでは


「…あなた達、坊ちゃんを死んでも守りなさい」

「はい!」

仲間たちが僕の周りを囲むように動く

ユダはゆっくりと立ち上がる

どこも変なところは見えないが

どこかしんどそうに見えた

「ユダ、お前たち…」

「道を作りますので坊ちゃんは振り返らず走ってください。森を出るまで」

「そんな!!」

「坊ちゃんおまかせを!私が必ずみんな守って、お屋敷に戻るので先に行っていてくださいませ!」

「そうだぜ坊ちゃん。こんなの俺たちなら楽勝だ!」

「兄さんの言う通りです。もう日が暮れてしまうので、先に戻っていてください」

「坊ちゃん安心して、帰りを待っていてくださいね」

ユダ、カールトン、ヘイム、ギリス、ルカと

彼らは朗らかに笑ってそう言った

そんなの、嫌だよ

これじゃ何も変わらない

無力なままの僕と


僕はスッと立ち上がり武器を構えな

「何をしているんです」


「使用人が頑張っているのに、主人だけ怠けるなんて恥ずかしいでしょ。みんなで帰るんだこれ命名だからね」


「仕方のない人だ」

「ふふふいいですねぇこういうの」

「おうそうだな。俺がみんなを守るから安心してくれ」

「無茶しちゃダメだよ兄さん」

「言われても無茶する男だよなお前は。坊ちゃんとユダさんに迷惑はかけるなよ」

お互いに軽口を言い合う

大きな気配がここに向かってやってくる

大型魔獣数十体ってところかな

騎士団でも苦労しそうな量だ

どこまで戦えるか

最終手段は、とっておきたいんだけどなぁ



「来るよ!」

僕の掛け声に全員が構える

芋達を背に庇って戦うつもりだ


ガアゥゴアアアァァァーー!!!

四肢に大きな爪と牙があり家のようなサイズの魔獣が現れた

他にも蛇型や蛙型、大きな花の魔物もいる

これは、やっぱり無理かも

獲物を見つけ、奴らは襲ってきた



「い「ここに居たのか」」


いくぞ!と掛け声を出そうとした時

鋭い青と黒の閃光が迸った

その一瞬で

大型の魔獣の首が落ちた

「な、なに。あっ」

攻撃しようとして浮いたままだった僕は

空中で抱き止められた

こんなことができるやつなんて

一人しか知らない


「ログナス!!」

「セウス心配したぞ」

少し困ったような笑みだったがホッとしたのか優しい笑みを浮かべている


「遅れて来る英雄ですか。最後に美味しいところを」

「助かりましたね!さすがログナス様!」


「どうしてこんなところにいるの?」

「それはこちらのセリフだセウス」

僕をゆっくり丁寧に降ろしながらいう

「屋敷を訪ねたらセウスも使用人達も居ない。他の使用人に聞いたら南の魔物の森に行ったという。心配だから追いかけたんだが、魔物が密集していたからついでに狩っていたんだ。そうしてセウスたちを探していたら大きな気配を感じてそれが消失したから探りながら探していた。それでかかっていた結界が消えたので適当に魔物に乗ってやって来たんだ。会えてよかったぞセウス。怪我はないか?」


「うん。僕は大丈夫」


「随分と疲れているようだ。処理は任せてくれ」

マントを翻して大勢の魔獣の中へ向かっていった

「ログナス大丈夫!?」

「大丈夫だ。すぐ終わる」


そう言い終わる頃には大蛇を切り落とし花の魔物を焼いていた

見る見るうちに倒されていく


「……疲れましたね」

「うん」


「よければお茶して休んでいかれますか?」


「頼みます」



僕たちは一方的に倒されていく魔獣達を背に

残されていた博士の家で休むことになった






≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫






「お世話になりました」



「いえいえ、こちらこそご迷惑をかけまして」

「本当にありがとうございますカボ」

「助かりましたイモ」


三人は深く礼をして見送ってくれた

彼らは一からまた始めるようだ

この森からあまり出ないようにと、仲良くするように約束して

博士にもリスクを考えて研究するようにと言った

そして傷ひとつなくピンピンとしているログナスと手を繋いで(強制)帰路についたのであった






屋敷についた時には真っ暗だった

残っていた使用人達に訳を話して

お土産を預けてみんなでお風呂に入り(ユダは仕事があると言って逃げた)自室に戻った


「うへぁ………つ、疲れた」

ベッドに深く沈みながら言う

あうきもひぃベッド最高ずっと寝れる

ベッドで丸くなっていた黒猫に顔を叩かれたが許そう

ぷにぷにだしね



「こちらにお茶置いておきますね。夜のお茶はブレンドハーブティーです」


「ありがとう」

柔らかな葉の香りで癒される


「今日は大活躍だったらしいな。ぜひ見ていたかった」

ログナスは優雅に椅子に座ってお茶片手にそう言った

「ログナスも助けてくれてありがとう。いなかったら危なかったよ」


「役に立てたなら良かった。俺のいないところで無茶はしないでくれ」

「なるべくそうしたい」

「フッ、俺は今日泊まる。いいか?」

「はい。御支度しておきます」

「ああ頼む」

「それまで湯浴みなさってはどうですか」

「そうだな。報告書も終わったしそうする」

ここに着いてからずっと書類をこなしていたようだ

忙しい身なのにわざわざ来てくれている

優しい奴だなぁ


浴室に消えたログナス

僕は何もせずゴロゴロとする


「今日は、本当に、疲れた。精神的にも」

濃い一日だったな

喋って動く芋とカボチャってなんだよ

今更また思う


「確かにそうですね。静かな一日がこんな事になるとは思いませんでしたね」

「そうだよねー」


「さて、話をしましょうか」

うぅ尋問タイムか

「なぜ禁忌領域の知識があるんですか?」


「えっと、本で」

「なんの本ですか?どこでそれを読みました?」


「ええと、街に行った時、古書堂でたまたま見つけて」


「あり得ません。そんな本が置いてあったら国が動きます」

ですよねー

「………王宮の、書庫で少々」

その時ザクッと視線で刺された痛い痛い


「はぁあなたって人は、いくら王族でも許されない事ですよ本来なら。決して他言してはいけませんわかりましたか?」

「はい」

まぁねそうなるよね

読んだのは一度目の人生で探っていた時にたまたま見つけたんだけどさ

「そういえばなんでユダは知っているの?」

「…」

「ダンマリはずるくない?」

「黙秘権があります」

「わーずるいずるい!!」

「うるさいですよ」

「なんでも知っているよね。あのシンクロ魔法?すごかったけどなんなの?」

「あれは、…秘密です」

「またそれ」

「いつか教えますよ」

「約束してよね」

「はいはい」

「はいは一回って言っているでしょ」

「はい」

「よろしい」

まったくこの執事は正直じゃないなぁ

「あの青い鳥綺麗だっなぁ」

「見えたんですか」

「うん。青い小鳥、光っててヒュって飛んでた」

「そうですね」

「あとあの白い鳥」

「あれもユダ?」

「違います」

「そうなの?てっきりユダがあの黒いのから助けてくれたのかと」

「あれは、…私ではありませんね。不愉快ですがその羽根のお陰でしょう」

羽?

ああこれか、サイファーにもらった銀の羽飾り

「そっかぁ。これそんなすごいのかぁ。すごいのもらっちゃったんだなぁ」

えへへと笑う

「すごい綺麗だったよね。光魔法かな。自動的に干渉してくるなんて聞いた事ない」

「そんな芸当できる者なんていませんよ」

「え、そうなの」

「関わらない事です。いくら光だろう闇だろうが、行き着く先は人の及ぶ所の外ですから」

「それは……」

「そんなことよりいいのですか?」

「何がですー?」


「ハロウィンパーティーの準備です。食糧のカボチャとサツマイモしかありませんよ」


「ヒィ」

農作物しかないパーティなんて庶民的

庭にはでかい野菜が鎮座していた

「今日のせいで予定が圧迫されていますので、寝させませんよ」


「ヒィ」

僕はガクブルとして泣いた


風呂から戻ってきたログナスは状況がわからないが

楽しんでいるなと笑みを浮かべていた


その目は節穴ですか







★★★★★前編 end★★★★★



《1.5》




私は大国ゼンクォルツ王国近くの研究所で働いていた

そこはそれぞれ部門があり私は植物生態学と学生の時論文を出した精神と魂と魔術による解明について発表した

それからスカウトされてここに来た

そうして日々を過ごしていたら私が研究対象の植物を探して戻ってきた時異変があった

研究所が襲撃されていたのだ

怖くなって自室に立てこもっていたら朝になっていた

研究所には誰もおらず無人になっていて

私は恐ろしくなった

あの噂は、本当だったのかもしれないと


急いで必要なものを集め逃げ出した

ロードワークには慣れているつもりだったが十分荷物を抱えて走っただけで胸が苦しくなった

休んだ瞬間後方で、研究所が消失した

その光景は言葉にできなかった

見えたのだ一瞬だけ

黒い光の中の虹を


私はいつのまにか涙が出ていた

あれは人智を超えた先に在るものだ

研究者でありながら私は、諦めたのだ


そして、逃げ出した全てを捨てて





ただ闇雲に歩いていた

そうしていたら力尽きて倒れた

そのまま死ぬのだと

心が折れた私は無価値だと

このまま死に 大地に還ることができるなら

それでもいい

そう思った時だった


「やぁこんばんは」

「まだ死んでないみたいだけど、大丈夫かい?」


「えっと、はい。…生きてます」


「フフ、なら良かったね」

「よかった、のでしょうか」


「悪いことではないのは確かさ。さぁ起き上がりたまえ。お腹が空いたのだろう」

そう言われて初めて空腹を感じた

死んでもいいと思っても腹は減る

当たり前のことだった

そんなことすら私は忘れていた


焚き火をたいていて、ただじっと炎を見つめていた

不思議と揺れる炎を見つめていると

心が落ち着いた


「ほら、できたよ。口に合えばいいんだけど」

木の器には乳白色のスープが入っていた

これはなんだ見たこともない

だけど、すごくいい香りだった

グゥゥウゥ……

腹の音が響いて恥ずかしかった

「体は正直なようだね。食べてくれるかい?」


「あ、い、頂きます」

木の匙を受け取り一口掬い

口に入れる

!!!

びっくりするほど、美味しかった

「これは、とても美味しいです」

「ならよかった。パンもあるから一緒に食べると美味しいよ」

「いただきます」

食欲なんて忘れていた事が嘘みたいにがっついて食べた

それぐらい美味しくて、温かかった

知っていたんだ

あそこがどんなところか、それを見ないふりをして

関係ないと言う顔をして

やりたかった事を捨てて別のことをやっていた

私の罪は 詐欺だ 己を騙していた


「うぅ……うぁ、おぃ、ひぃです」


「フフ、そんなに焦って食べるとむせるよ。ほら口元ついてる」


「あぅ、しゅみません」

寒さと口から入る温かさの温度差で

ぐらぐらとしていた

体も心も

「いいよ。好きなだけお食べ」


「ど、どうしてそんなに、優しくしてくれるんですか」

「んー、気まぐれかなぁ。旅をしていたんだけどさ。そしたら道に人が落ちているんだもん。驚いちゃった」


「それは、すみませんでした」

「謝らないでよ面白いな」

クスクス笑う彼

どこかむず痒く 心がざわついた

彼が笑うたびに ふわふわとする


「これ!なんですか!おいしぃれすよ!!ゴホッ」

「ほらほら落ち着いて、君見た目の割に落ち着かないね。子供みたい」

子供みたいなんて

呆れられてしまっただろうか

「すみません……」

「謝らないでよ。面白くて、かわいいなって思っただけだからさ」

「かっ!可愛いなんてそんな!?」

「アハハ、可愛い」

「か、揶揄わないでいただきたいです」

「ごめんごめん。それカボチャだね。気に入った?」

「あのカボチャですか?もそもそして味のない」

「こっちの品種はそうだね。それは甘いでしょ?その横にあるサツマイモも美味しいよ」

「サツマ?イモ…」

言われた通り食べるとほくほくとしていて甘かった

「美味しいですね!!」

「でしょ」

クスクスと笑って鍋をかき混ぜている

「お料理お上手なんですね」

「んー旅をしているとね。こんな事しか楽しみないからね」

彼は、いや少年か

今更相手を見た白い髪に青みがかった光を反射していた


「私には作れません。こんなに人を幸せにできるなんて、あなたはすごい人ですね」


「そんなに褒めても何も出ないよ」

朗らかに笑った

「いえ!本心ですから」

つい手を握ってしまった

自分でやった行為に照れてしまう

相手も綺麗な瞳を輝かせていて驚いているようだ

なんて、綺麗なんだ

星空を映している瞳には私が映っていた

距離が……、近づいて……



「そこまでにしくれるかな君」



声に反応して互いに飛び上がった

「お、おかえり!」

「ただいま。しかし雰囲気に流されてキスなんてマセすぎじゃないかな?もっと自分を大切にしてほしいけどなぁ」


「そ、そんなんじゃないよ!変なことを言わないでほしいな!」

頬を赤く染めて反論する彼


「こんばんは。いい夜だね」

「こ、こんばんは」

白馬から降りた彼は余裕そうな笑みを浮かべて私たちの横に座った

「どうだった?」

「何もなかったね。面白いものはいくつかあったけど大体がたいしたことなかった。人はいつになったら己が身の浅はかさと身の程を知ることができるんだろうね」

「またそんなこと言って。自分だって大好きなくせに」

「まぁね。でも私ならあんな程度の低いことはしないよ」

「兄さんと比べたら可哀想だよね。ズルだよズル」

「ズルくなんてないさ。スノーが真面目すぎるんだよ」

「そんなことないさ」

「ほら、鍋が焦げてしまうよ」

「うわっ、いけないいけない」

急いでスノーと呼ばれた少年は焦った様子で鍋を混ぜる

こっちがお兄さん………

白い外套を羽織って群青色の髪を揺らしていた

肌は白皙で確かに顔は似ていた

綺麗な青年だ

兄弟揃って美形なんですね


「なにか?」

青年が可笑しそうに尋ねた

「な、何でもないです」

「そう。弟を口説きたかったらもう少し頑張ろうね」

「そ!!そんなつもりはありません」

「キスしそうだったのに?」

「兄さん!」

「えっと」

「あ、なら年上の私なんてどうだろうか?この子みたいにウブさはないが上手、かもしれないよ?」

細く微笑み妖艶な唇で誘ってくる

ついドキッとしてしまって、見つめてしまう

「兄さんからかい過ぎだよ!まったく」

「フフ、ごめんごめんつい可愛くてね」

「だよね」

「そんな!!」

「「フハハハ」」

兄弟に笑われてしまったが嫌な感じはなく

とても満たされた時間だった

そのあとスノー君の料理の話を聞いて

片づけてくれて先に寝てしまった

焚き火を囲って兄の方と静かに時間を過ごしていた

兄の方は本を片手で読み馬を撫でながら時間を楽しんでいた

その姿が様になっている

「君はなんで研究者になったの?」

「え?」

なんで知っているんだ

「その格好」

「あっ」

薄汚れた白衣のまま歩いてきたみたいだった

「別にどうでもいいけど。何かを知りたい。学びたい。解明したいって欲求は悪いことではないよ」

「なにを」

「フフ、死にたかったら死ねばいいよ」

「でもせっかくだからさ。弟の手料理食べた分頑張って生きなよ。それからだったら好きにしなさい。ダメそうだったら、私が貰ってあげる」

「え!」

「こら静かに。寝ているんだから」

優しい手つきでスノー君の頭を撫でている

「ごめんなさい」

「いいよ。許す」

騒いだことに対する許すなのに

なぜか私は、存在を許させた気がした

「もうほら、泣かないの」

「な、泣いてなんか」

言い終える前に私は抱きしめられた

優しい頭をポンポンとされる

こんなの初めてだ、ダメだよこんな

こんな気持ちよくて温かいのを知ったら

手放せられなくなる

「いいよ」

「え」

「だから、辛い時してほしい時またしてあげるさ。だってお兄ちゃんだからね」

クスクスと笑う

その笑顔を見て私も笑った

「うん。いいね。笑顔だともっと可愛い」

「えっと、あの」

動揺しているとちゅっと

額にキスをされた

「うモゴモゴッ」

「シーッ静かに。特別なおまじないだからね」

そう言ってスノー君の額にもちゅっとキスをした

し、親愛的な行為か

ど、ドキドキしました

「だかり程々に頑張ってみなよ。ダメならダメで、その時はやりたいことを探せばいいよ」

「それでも、ダメなら」

「私が貰ってあげる」

ど、どういうことですか

そそそそれってけ、けっこん

「これでも結構稼いでるんだよね。君なら金勘定良さそうだし、研究して稼いでもらってもいいし」

あ、そうですか


「だからまだ人生は長いんだ。悩んだらほら星でも数えて、何かわかったら私に教えておくれよ」


「……そうですね。天文学はそこまで詳しくはありませんが、あなたと星の話をするのも良さそうだ」

「うん。それはとっても素敵だね。楽しみだ」


静かにパチパチと爆ぜる音を聞きながら

肩を抱かれたまま

静かに眠りに落ちた



「ほら起きたまえ〜」

「うわっぷ」

顔をぺろぺろと舐められた

あ、朝から激しいです


「はは、びしょびしょだね」

「びしょびしょだね。じゃないよ兄さん舐めさせたのは兄さんのせいでしょ」

「友好の印だよ。お前もそう思ったからしたんだよね」

ヒヒンと尻尾を揺らして馬は鳴いた

そっちか



「私たちはもう行くよ」


「えっと、はい」

「そんな悲しそうな顔しないでよ」

「そうそう。永遠の別れじゃないんだから」

「そう、でしょうか」


「これあげますね」

スノー君が小さな袋をくれた

中には食料や簡単な生活物資が入っていた

「いいのかい!?」

「せっかく出会えたんですから。よかったらどうぞ」

「うん。ありがたくもらいます。ありがとうスノー君」


「なら私はこれを」

「これは」

白い表紙の本だった

開くと童話だった

「小難しい事ばかりではなくたまにはいいだろ?」

「そうですね。嬉しいです」


「ではもう行くよ」

「またねえーと…」

「私の名はポルトル!真理を追求するものだよ」

「ポルトルさんまたね!」

「真理か。せいぜい頑張ってみたまえポルトルちゃん」

「ちょっと兄さん!」

「次は、かっこいいって言ってもらいますからね!」

「フフ、楽しみにしてるさ」


手を振って別れた




…!

「あの、お兄さん!お名前は!!」

精一杯に大声を出した

人生で初めての大声だ

振り返った兄弟は笑い合って


「私はレグルス。レグルス・シリウスだ。またね旅する探求者君」


手を振って

今度こそ別れた










あれから数年

この森にたどり着きもらった芋とカボチャで研究をしてきた

まだ彼らに会えてはいない

だがきっといつか

会えると信じている


自室の机で日記を書き終えた

久しぶりの人間の客人にあって私は気付かされた

また新たな発見のために

そして人々のために頑張ろうと改めて気持ちを思い出した

机から白い表紙の本を取り出して撫でる

宝物があるから私は見失わずに生きてこれた

今回は人間以外にも考えなくてはならない

魂があり心があるから彼らだって助けたい

そこに格差はないのだ

本を静かに机の上に置く

月の明かりに照らされて青白く見える




「いい夜だよなぁほんと」



「だ、誰だ!!」

この部屋は研究した成果が並んでいる

悪用されないように厳重に結界がはってあり誰も入ってこれないはずだ

まさか、今更追ってが

研究所は滅んだはずなのにそれでも暗部にいたのかもしれない

回収に来たのか、消しに来たのか……



「私は、やられるわけにはいかないんだ!!」

机から銃を取り出す

白い本に乗っていた、見えざる頁に載っていたものだった


バン!バン!バン!

三発の魔法弾を放つ

死にはしないが強力な拘束魔術がかけられている

これなら今日現れた大型魔獣だって一発で戦闘不能になる

急いで逃げなければ

彼らを連れて……

「あっぶねぇなぁ。思わず殺しちまいそうになったじゃねぇか」


「な、なん」

月明かりから外れた影に奴はいた

三発の弾丸は床に落ちていた


「な、何者なんだ。私をこ、殺すのか?私は死ねない。約束があるんだ!生きてあわなければ」


足が震えて倒れそうになるも机を掴んで耐える

考えろ考えろ考えろ!

ここまで頑張ってきたんだろ私!

また、会おうって、あの夜をもう、一度




「悪りぃな。あんたに恨みわねぇが、仕事なんだ。諦めてくれよ」

若い声の男は顔を布で隠していた

「い、いやだ!!」

リボルバーの残り三発を撃つ


「おう。精々抵抗してくれよなあんた」

弾丸は全て打ち落とされた

男は変わった武器を持っていた

「これか?これは俺の母国の武器なんだよ。トンファーって言うんだけどよ。わざわざ作ってもらえたんだぜ!すげぇだろ?」

男は初めて感情をこめて嬉しそうに言った

だが私には絶望的な状況なのは変わらなかった


「非番だってのにせっかく会えたのによぉ仕事が邪魔しやがってさ。まぁ活躍して認めてもらえんならありがてぇんだけどさ。しかもなんだあれ?森にやベーのいたよな?気づかれそうだったから適当に魔物押し付けたけど奴紙みてーに斬ってやがんの。あの鉄仮面兄貴並につえー感じしたし。殺し合いしてみたかったけどよー、聞いてる?」

「…」


「まぁそんなにビビんなよ。こんな綺麗なお月さん出てるんだぜ?暗殺ばっかやってっと感性が鈍っちまうからなぁそれは可哀想だろ?いつもはこんな喋らねーんだぜほんと」


男は震えて動けない私に近づいた

目は鋭く鷹のようだった


「なぁ兄さん。こんなキレーな月の晩にやられるなんて、これはこれで幸せってもんだろ。なぁ?」


「…そ、そんなわけ」

私は、こんな所で

彼らの姿がよぎる

あの日をもう一度

褒めて、もらえるまで



「じゃあ、おやすみなさい。よい夢を」

鋭い一撃に

私は暗がりに落ちていった




男は月を仰ぎ見て笑みを浮かべた









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