第32話 ひとまず肩の荷を下ろす

慧仁親王 京都大原 1522年


「え?」

「え?違うの?私と一緒かと思ったよ。って、転生者って言葉を理解してるじゃん」

「いや、違うとは言ってないけど」

「何だそれ」クスッ


 何だかな、やけに馴れ馴れしいけど。


「ところで、どちら様で?」

「何言ってるの、お姉ちゃんだよ、お姉ちゃん」

「私に姉は1人だけだけど……ああ、1番上に早逝した皇女がいたなぁ」

「それそれ、2歳で亡くなったんだけど、その体に入ったのが私よ、やっぱり詳しいな。歴オタかい?」

「歴史好きなだけです」

「ああ、やっぱり転生者だ」

「一つ言っときますが、不用意に自分が転生者って言わない方が良いですよ」

「弟だから言ったんだよ」

「なるほど、お名前は?何て呼べば良いですか?」

「聞いて驚くな、セイラだよ、セイラ・マスの聖良女王だ、お姉様で良いよ」


 お茶で一息ついて、人を呼んだ。


「誰か居る?!お姉様にもお茶を」

「畏まりました」

「良いね、気が利くね」


 俺をマジマジと観察してるよ。


「やっぱり可愛くないな。そんなハキハキ喋られても、ハハハハハ」

「ですよね、俺でもそう思います。今日はどうしたんですか?」

「君を観察しててね、何か手伝えないかと。2歳児じゃあ、動ける範囲も決まっちゃうでしょ」

「お姉さ、ま……目下の悩みでした。手詰まりになってしまって」クスン

「うんうん、今まで良くやったよ。皇室内の金回りが良くなったもん。頑張ったよ」


 ヤバい、鼻の奥がツーンとして来た。


「私も手伝うよ。私は馬鹿だけど、指示通りに動く事は出来るよ。取り敢えず、経過と今後に想定してる事をフェーズ毎に教えて」

「フェフェフェーズ?凄く助かるよ。じゃあ、今までの経過から話すね」


 敵ではない転生者が居る。しかも姉弟だって事が、こんな心強い存在だとは。今まで1人で頑張らなきゃって思いが、どれだけプレッシャーになっていたか。


「室町幕府を潰したタイミングは凄く良かったね。素晴らしい判断だった。高国引き込めたのは大きいよね」

「1人なんだから、北条に接触したのは、ちょっと早かったね。動けないでしょ」

「和泉、それも堺取れたのはでかいね。良く出来ました」

「土佐一条と今川を引っ張るのね、ちょっと遠いわね」

「取り敢えず、経過は分かった。次は何か食べよう。脳味噌使いすぎた。誰か!」


 ぜんぜん馬鹿じゃなかった。理解が早くて助かるよ。ダメ出しされたけどね。


「何か食べる物と蜂蜜欲しい。慧仁にお金貰って買って来て」

「御意」

「ごめん、ツケで、後でまとめて払うからね。ちゃんと払うから。堺で稼いで来たから大丈夫だよ」

「ハハハハハ」


 弥七が下がるのを見届ける。


「でもさ、ホント、動くなら今だよ。天下布武とか日本統一とか言う奴は、産まれてないかチビッコだからね」

「うんうん、そうなんだよ。で、今まで色々やって来て、1番驚いたのが天皇家の血ってやつ。誰も逆らわないんだよね。この時代は朝廷の影が薄いって思ってたんだけどね。違った。御料地横領されてるけど」


 姉様に鯵の干物を食べて欲しい。


「ところで姉様、鯵の干物食べました?絶品ですよ」

「え〜、京都じゃ食べて無いな。奈良でも川魚ばっかりだったよ。食料調達も修行のうちだから」

「誰か!お姉様の食事に鯵の干物を付ける様に言って来て」


 ついつい、はしゃいでしまう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る