神殺しの少年

一ノ瀬和人

序章 全てが壊れた日

第1話 神童と呼ばれた少年

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 国立東京魔法学院。ここには関東の中でも特に魔法の才能がある人達が集まる学校である。

 魔法という不思議な力が発見されてから約100年。突如出現したその力のおかげで、人々の生活は変わった。


 魔法の力で炎や電気を生み出すことが出来る為、天然資源を使用しなくてもいい新たな生活様式も確立し、その影響は新たなエネルギー革命として歴史に名を残す程である。

 もちろんこのことは世界の経済を揺るがす一大革命となり、世界経済や国同士のパワーバランスが崩れる程の大きな出来事になった。

 

 そんな世界の常識を変えた魔法だが、それほどの力を国が放って置くことはなく魔法は世界各地で研究される。

 その結果魔法を使える者、魔法士を育成する為の機関が生まれることとなった。


 僕こと如月きさらぎうみも魔法を研究、育成する機関である東京魔法学院初等部に通う1年生。この春魔法の才能が国から認められて、一般の学校ではなくこの学校に入学したのだった。



「起立!! 礼!! 先生さようなら!!」


「はい、さようなら。また明日ね」



 学校の授業が終わり、教科書やノートを鞄に入れた僕は一目散に教室を出る。

 そしてそのまま昇降口まで走り、慌てて下駄箱から靴を取り出した。



「海!! ちょっと待てよ!!」


「望? どうしたの? そんなに慌てて?」


「教室に俺を置いてどこに行くんだよ!! せっかく同じクラスになったんだから、一緒に帰ろうぜ」



 真新しい黒いランドセルを揺らし走ってきたのは、僕の幼馴染である黒柳くろやなぎのぞむ

 親同士が仲が良かったこともあり、幼いころから遊ぶことも多く今もこうして仲良くしている。



「珍しいね。いつもは遅くまでクラスにいる望がこんなに早く帰るなんて」


「それは海がさっさと帰るからだろう」


「だって望はいつもクラスの人達と話しているから、帰りが遅くなるじゃん。いつも望を待つ僕の身にもなってよ」


「バカ!! こういうのは最初が肝心なんだよ!! 初めに上手く交友関係を形成しないと、後々面倒なことになるぞ!!」


「大丈夫だよ。望が僕の友達でいてくれたら、僕はそれでいいよ」


「ぐっ!! 海のやつ、また無意識にそんなことを‥‥‥」


「望、どうしたの? そんな顔を赤くして」


「なっ、何でもない!! それより帰るなら早く帰るぞ!!」


「変な望だな」



 たまに望はこういう所がある。僕が何かを言うと照れたように顔を隠す。

 現に今も下駄箱から靴をだしつつ、僕から顔を背けながら靴を履いている。



「よし! 準備も出来たことだし、早く帰ろう」


「うん」



 望も急いで靴を履き、一緒に学校を出る。帰り道は途中までは一緒なので、こうして2人で帰っている。



「それにしても、こうして同じ学校に入れるとは思わなかったな」


「うん。僕も。2人共魔法の適性があるなんて思わなかったよ」


「バカ。海の父ちゃんは魔法の研究施設で働いているんだから、海にだって魔法の適性があるに決まってるだろう」


「そういう望だって僕達の通ってる魔法学院の学園長じゃん。絶対に魔法の適性はあるよ」


「海の方がある!!」


「望の方があるよ!!」



 こうした言い合いは日常茶飯事だった。僕達は自分よりも相手の方が優れていると思っている。

 だから時よりこういった言い合いに発展する。お互いがお互いの凄い所をうらやましく思っており、ないものねだりをするのだ。



「はぁ、はぁ、はぁ、相変わらず海は物分かりが悪いな」


「そういう望こそ‥‥‥はぁ、はぁ‥‥‥物分かりが悪いんじゃない」


「とりあえずお互い凄い奴ということで、この場は終わらないか」


「そうだね。ここはそうしよう」



 結局話し合いでは決着がつかず、こうしてお互い妥協点を見つけあう。

 それで喧嘩は終わり。仲良く下校道を歩き出す。。



「それにしても、今日は何でそんなに急いでたんだよ。海にしては珍しいじゃん」


「実は今日、お父さんが家に帰ってくるんだよ」


「あぁ、そういえば今日出張から帰ってくるんだっけ?」


「うん。今日の朝お母さんが昼頃には戻ってくるって言ってたから、もう家にはいると思う」



 昨日の夜、お母さんが夕食時に話していたので間違いはない。

 お父さんが大阪に行ってから3か月。久々の再会である。



「海は自分の父ちゃんに会いたいから、こんなに急いでたのか?」


「それもあるんだけど父さんと母さんに見せたいものがあって‥‥‥」


「見せたいもの?」


「うん。父さんと母さんに会ったら、僕はこれを見せたいんだ」



 鞄の中から1枚の紙を望に見せる。

 それは今日の放課後、1人1人に配られた紙である。



「これってこの前やった魔法能力診断の紙だよな?」


「うん。これの成績がクラスで1番だったから、父さんや母さんに見てもらうんだ」


「ランクは‥‥‥S!? 海!! 本当にお前のランクはSなのかよ!!」


「Sランクって、そんなに凄いの?」


「凄いなんてものじゃない!! Sって言ったら、歴代魔法士の中でも5本の指に入るぐらいの才能があるってことだぞ!?」


「そうなんだ」


「昔から海は魔法の才能があるなって思ってたけど、こんなに凄い奴だとは思わなかった」



 普段驚かない望が驚くぐらいなのだから、これは凄いことなのだろう。



「でも望だって、これぐらいの成績なんじゃないの?」


「悪いけど俺のランクはA止まりだ」


「そうなの?」


「あぁ。もちろん努力次第でこのランクは変動するけど、入学時にSランクだった生徒の話は聞いたことがない」


「嘘!?」


「本当だ。神童ここに現るって感じだな」


「神童!? 僕が!?」


「そうだよ。大人達も表では何も言わないけど、裏ではきっと盛り上がってるぜ。海の将来が楽しみだって」


「そうかな? もしかしたら早熟って思われてるんじゃ‥‥‥」


「そんなことないよ。海の父ちゃんも凄い魔法士だっただろ? その血を色濃く受け継いでるって事だ」


「うん」


「胸を張っていいんじゃないか。正直海に負けたのは悔しいけど、友達としては誇りに思うよ」


「望にそう言って貰えて嬉しい」


「喜ぶのはまだ早いぞ。悪いけど2学期には、成績が逆転しているからな」



 憎まれ口を叩きながらも望が祝福してくれる。

 僕はそのことを素直に喜ぶことにした。



「そういえば海の父ちゃんって昔凄い魔法士だったんだろ?」


「うん。本人は研究の道に進みたいってことで研究者になったらしいけど。学生時代は周りも一目置いてたって母さんが言ってたよ」


「うちの父ちゃんも海の家の父ちゃんは目の上のたんこぶだって言ってたな」


「そんな風に思っていたんだ」


「あぁ、何でも学生時代はライバル関係だったらしい」」



 それは初耳だ。望の父さんとは旧知の仲とは言っていたけど、そんな関係だってことは初めて聞いた。



「そういえばさっき海は出張って言ってたけど、海の父ちゃんってどこに行ってたんだよ?」


「大阪だよ。確か大阪にある魔法研究所の人達と合同で研究をしていたみたい」


「ふ~~ん。海のお父さんって何の研究をしているんだ?」


「僕もわからないけど、昔は新しい魔法の研究をしていたみたいだよ」


「それじゃあ大阪の研究所の人達と新しい魔法の研究をしていたのか?」


「それが違うみたいなんだよ」


「違う見たいって、海の父ちゃん達は何も教えてくれないのか?」


「うん。母さんは何か知ってるみたいだったけど、僕達には何も話してくれなかったんだ」



 出張前に夜な夜な父さんと母さんが相談しているのを何度か見かけたことがある。

 口論をしているようには見えなかったけど、母さんは父さんの事を心配しているようだった。



「まぁ、人間1つや2つ隠し事はあるものだから。俺達が余計なことを考えていても仕方がないよな」


「そうなの?」


「そうだよ。よくうちの父ちゃんが言ってるぜ。大人の世界は厳しくて大変だって」


「望の父さんって、魔法学院の学院長だもんね」


「まぁな。俺も父ちゃんに無理やりパーティーとかに連れていかれるけど、息苦しいったらありゃしない」


「僕はそういう所に行ったことがないから、わからないな」


「そしたら海も今度一緒に行こうぜ。一緒に社交術って奴を学ぼう」


「やだよ。そんな息の詰まる所なんて、行きたくない」


「そういうなって。おっ、そうこうしているうちに俺の家に着いた」


「相変わらず望の家は大きな家だね」



 魔法学院学院長の家なのだから、当然と言えば当然だけど。

 僕の身長の4倍以上ははありそうな大きな門に横長な3階建ての家。

 庭なんて畑を何個作れるんだよってぐらいの面積を誇る、まごうごとなき豪邸である。



「大きければいいってものでもないぜ。掃除が大変だったあり移動するのが面倒だったりするから、普通の家の方がうらやましく思うこともあるよ」


「でも、僕も1度でいいから大きな家に住んでみたいな」


「それなら今度家に泊りに来いよ。父ちゃん達にも話しておくから」


「わかった。母さん達にも話してみる。



 望はそのまま屋敷の門をくぐっていく。

 門の中に入ると、振り向き僕の方を見て手を振った。



「じゃあ海、また明日学校でな」


「うん。また明日」



 望はそのまま自分の家へと向かう。その様子をしばし眺めた後、僕も自分の家へと帰るのだった。


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