第12話 ・・・事件?

僕は緊張した。『サンライズ出雲に警察が乗車した!』。通路に車掌さんの緊張した声が響く。

「こちらです!」

続いて大勢の足音が近づいてきた。


僕が乗車する11両目のA寝台車には6部屋のシングルデラックス個室が存在し、そのすべてが2階部分に配置されている。僕の個室は10両目に一番近い場所にあった。僕は気配を消して、聞き耳を立てた。警察が僕の個室の前を足早に通り過ぎていく。僕は勇気を振り絞ってドアを僅かに開け、様子を窺うことにした。しかし、ドアを数センチ開けただけでは、状況を確認することができない。僕は静かにドアを開け、階段を忍び足で通路まで降りると、さらに1階部分に降りる階段を少し降り、身を潜めた。そして、壁から顔を少しだけ出し、警察関係者が向かった11両目付近をそっと覗いた。我ながら怪しすぎるとは思ったが、好奇心には勝てなかった。


11両目付近では、車掌さんに続き、スーツ姿の30台前半と思われる細身の男と柔道選手のような体格の同じくスーツの男がビニール袋の中に足を入れ、足首の部分をゴムのようなもので縛ると、階段を上っていく。おそらく、自分たちの靴の跡が残らないようにするための措置だろう。続いて、鑑識課の職員の1人が大きな銀色のアタッシュケースを抱えて階段を上がっていった。その他の警察関係者と思われる人々は1階のサンライズツインと呼ばれる2人用の個室に入っていった。どうやら控室兼荷物置き場として車掌さんが提供したようだ。


『おいおいおい、何事だよ・・・』

僕は撮影しようかとも思ったが、トラブルに巻き込まれるのは避けたかったため、自分の部屋に戻り、心を落ち着かせようと景色を眺めた。


サンライズ出雲号は岡山県を西に向けて疾走し、やがて伯備線に入った。ここから中国地方を北に向かって縦断していく。


僕はビデオカメラで自然豊かな伯備線の景色を撮影していた。サンライズは途中で備中高梁駅、新見駅と停車し、鳥取県の米子駅に到着した。そのとき、ドアをノックする音が聞こえた。心拍数が阪神電車のジェットカーなみに急激に上がっていく。

「すいません、ちょっといいですか?」

ぶっきらぼうな男の声だった。


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