第24話 「バレた!」

チビはスーパーマーケットが好きだ。ついて行きたいとよくせがむ。


僕も小さい頃そうだったからムリもない。


グレープ味のうすっぺらいグミ、イチゴのチョコレート、コーンスープ味のうまか棒…、色とりどりの棚はまさに夢の世界。


今日も、狩猟本能に目覚めた様子で興奮気味に物色している。ふと、チビが棚の上の方に目を奪われた。最近CMで見かけたシリアルだ。小さなオモチャのオマケが本当の目的だけど。自分で取りたくて背伸びしている。


僕がとってやろうと手を出そうとした時、耳の端に何かがコソコソ聞こえてきた。




買い物のおばちゃんたちだ。こっちを盗み見ながら囁き合っている。


目が合うと、そそくさとワゴンセールを選ぶフリをしてごまかされた。




YouTofeの腹話術映像が海外のネットでざわつき始めてから、どうやら顔が知られてしまったようだ。いよいよ本物のクローンではないかと疑われ始めたらしい。






家の周りもざわつきはじめた。表にメディアの取材やYouToferらしき姿をちらほら見かけるようになった。カーテンの隙間から覗くと、脚立に座ったカメラマンたちがスマホで時間つぶしをしている。中には外国人の姿も。海外の取材チームだろうか。






見出しが躍る。


「人体実験された子どもたち!? 倫理を無視した政府!?」


記事が出た裏には、政権をひっくり返したい野党の思惑があるという。大手広告代理店を使ってこっそり仕掛けたそうだ。「政治屋の泥仕合ね。」皮肉たっぷりに犬巻がボヤいていた。


もちろん僕たちが本物のクローンなんて確信はない。フェイクかどうかなんて彼らには関係ない。"1?"を見出しの最後につけておきさえすれば、何でも書ける。断定はしてないから、訴えられても心配はないんだと。


世間は、物見遊山な同情をした。退屈な国民には、”いたいけな子どもVS政府”という構図が、ちょうどよかったようだ。週刊誌、ワイドショー、ネット…、格好のエンターテイメントとして人々に消費された。




チビが不安になっているのが、手にとるようにわかる。


感情のシンクロ度合いが強すぎて、少しこめかみ辺りがピリピリする。何が何だかわからないだろうね。小学生にしては負担が大きすぎる。精神的に不安定になっているのだろうか、小2のクセにおねしょをして泣いていた。






お昼過ぎ僕が洗濯物を干していると、学校の先生から興奮気味に電話があった。




”またいじめられた?”




そんな不安が頭をよぎったが、戸惑っているような喜んでいるような浮ついた声で、


「汐妻君が大変なことに…」と言うばかり。


どうしたのか問うと、


「授業中、寝てばかりいて。」


「え、それはすみません。帰ったら厳しく…。」


「いえ、そうじゃないんです。」


「は?」


先生が放った言葉は、予想を裏切るものだった。




「成績が上がったんです。」




「はぁ?」


「それが、普通じゃない上がり方で。なんというか、急激すぎるんです。」




最近、授業中に寝てばかりいるのに、何を当てられても完璧に解いてしまい、すべて非の打ち所のない正解なのだという。


職員室で試しに、中学の参考書を見せたら、因数分解をやってのけ、英語の過去完了形を訳し、古文のラ行変格活用をそらで暗唱したのだという。


「ありおりはべりいまそかり…。」小2で習うわけない。


また、いじめっ子を言い負かして、けちょんけちょんに泣かしてしまったそうな。それはまるで大人が子どもを諭し問い詰めるような言葉遣いだったそうだ。




もしかして僕のせい?




僕でさえ忘れた予備校時代の勉強の記憶や、大人の僕の言いまわしが、ここにきてチビの脳に加速してコピーされ始めたのか。パワーアップしちゃったな。このペースでいくと、とてつもない天才少年を作ってしまうかも。おねしょは治らないけど。




「ご家庭内で何かあったんですか?」


またもや疑り深い口調になってきた。むしろわかっているクセにわざと聞いていると言った方が正しいかも。「もしかして、最近騒ぎになっている噂に関係あるんじゃないでしょうか?」


特ダネを掴んだ週刊誌記者のような口ぶりだ。こりゃ先生、ワイドショーの見過ぎだ。下世話な好奇心で教師という立場を忘れてしまっている。電話の向こうできっとあの一文字の眉毛を疑わしくクネらせているのだろう。




困ったな。


いよいよ隠しきれなくなってきた。






(つづく)あと10話…

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