第13話 「好き!工作」

”小さな僕”は、僕の人生のあわせ鏡だ。


見ていると、自分自身についてよく気づかされる。






蒸し暑い昼下がり、チビがじんわり汗をかきながら、秘密基地の中でなにやら黙々と作っていた。




ああ、夏休みの工作ね。




割りばしと輪ゴム、タコ糸を使って…。何を作ろうとしているのだろう。厚紙で小さな箱を作り、切れ目を入れて。まるでくす玉を真っ二つに割るように開く。どこかで見たような…。




…あ、これ、僕も作ったことあるぞ。クレーンゲームだ。




タコ糸を引っ張ると、箱が開き、離すと輪ゴムの力で元に戻る。全く同じ形だ。


教えていないのに自然発生的に同じ行動をしている。恐ろしいなクローンって。




イメージは分かるが上手く出来ないようだ。


そうそう、タコ糸の仕掛けは難しかったな。あーでもないこーでもないと苦労している。かつて作った僕には正解が分かっているから、


「ちょいと貸しな、糸を引っ張る方向を変えればいいんだよ。厚紙で小さなわっかを作って糸をこう通すと…。」


「いいの、自分でやるの!」


ああ、そうじゃないのに…もどかしいが手を出せない。






このチビは、もくもくと何かを作ることが好きらしい。




秘密基地はもちろん、時にはペットボトル万華鏡、時にはゴミ袋を膨らませた巨大な象、紐をひっぱると自動で開く筆箱…。




チビは熱中しすぎると他に何も手がつかなくなる傾向があると、ヤギヒゲ教授が解説していた。


「子どもの頃のユタカさんもそうだったらしいですよ。その分、2人とも底知れぬクリエイティブな才能があるんじゃないですか。きっと。」と気楽に評していた。




子どもの頃の僕も…、か。




確かに工作が好きだった。


時間さえあれば…、いや、時間がないときほど無性に作りたくて、妖気が乗り移ったようにごはんも食べずに手を動かし続けた。何も聞こえなくなって父ちゃんに叱られたっけ。


モノを作っていると、世界を創造しているような興奮に出会えた。




だけどあれほど大好きだった工作も、大人になった今の僕は紙ヒコーキひとつさえ作ることもなくなった。あんなに楽しかったことが、大人になったらどうして忘れてしまうのだろう。




「クリエイティブな才能」かぁ…。




僕は就活もせず、これから将来どうなっていくんだろう?


一体なにをすればいいんだろう。僕が本当に好きなことってなんだろう。あの頃のお絵描きや工作のような、魂を揺さぶるような興奮を味わえる仕事って、なんだろう。


好きなことを一生の仕事に選ぶことはできないのかな?どうせ自分には才能なんてありゃしない。選ばれた一握りの人だけの特権なのかな、どうせ。




いや、誰がそう決めたんだ?自分で最初から限界を決めていないか?


自分がしたかったこと、自分の内側から涌き出る興味から、なぜ僕は目をそらすようになったのだろう。


大人は嘘をついて生きている。たくさんの嘘。でも一番の罪は自分に対しての嘘。




「将来なにになりたい?」




チビに聞いてみた。


”小さな僕”は僕の人生の合わせ鏡。


原点回帰。なにかヒントがあるかもしれない。




「ね、なにになりたい?」


「わかんない。」




興味なさそうに、なんともつれない回答。


過去の自分から未来のヒントを引き出すため、粘る。




「夢とかないの?」


「寝てるとき見るよ」


「その夢じゃなくて、大きくなったらこうなりたいなぁ、っていう夢」


「あるよ」


「なに?」


「ぼくね」


「うん、うん」




はちきれそうな満面の笑顔で、




「大きくなったらね、兄ィと、猫ちゃんと、ばあちゃんと、ずっとずっと夏休みするんだ。それが夢。」






(つづく)

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