4 金髪の彼女

 俺は早めに学校に行き、玄関が見える自分のクラスから玄関を見ながら彼女が登校するのを待っていた。彼女はなかなか来なかった。チャイムがなる少し前くらいに彼女はやってきた。間に合うかわからないが俺は教室から飛び出し、玄関へと急いだ。

 下駄箱のところに行くと彼女が靴を履き替えるところだった。俺は元々体力が無かったせいで下駄箱のところに着く頃には息が上がっていた。

「はぁ はぁ、はじめまして有間先輩。本条っていいますちょっと話いいですか?」

 両手を両膝の上に乗せ、息絶え絶えに俺は彼女に話しかけた。

「…」

 彼女はこちらを一切見る様子もなく歩いて行った。それから俺はクラスに戻ると担任教師に怒られた。

 ホームルームが終わり、小休憩に入ると1人の生徒が俺のところにやってきた。

「やぁ本条君。早速有間先輩にアタックしたみたいだね?」

「君は六人劇の…」

佐倉さくらだよ?まさかクラスメイトの名前もわからないの?」

「え?クラスメイト?」

「本当に?もしかしてとは思っていたけど、そんなんでどうやって生活してきたの? はぁ」

 彼女は寂しそうにあきれていた。

「俺と仲良くするメリットは、ないから極力人と関わらないようにしてたんだ」

「仲良くならないのと関心を持たないのとは別の話だと私は思うけど?」

「君は去年のあの時から俺がどれだけ周りから軽蔑されたか知らないから、そんなことが言えるんだ。名前を呼んだだけで嫌な顔をされるくらいなら関心なんて持つだけ無駄なことだろ」

「そんなに酷かったんだね。でもそれは私には関係ないことだし、私の事を本条君が認識していなかったことに私はショックだよ?別に君がした失敗を重く捉える人ばかりじゃ無いし、君が去年の失敗を許してあげなきゃ前に進めないんじゃないかな?」

 それは思ってもないことだった。中学の知り合いが居なかった俺にとって高校での失敗を許してくれるような人がいなかったからだ。 

「それが君の本心なら申し訳ないけど、その言葉を信じるにはまだ君を信用できない」

 彼女は寂しそうな笑顔を浮かべ、乾いた声で笑いながら言った。

「ははは それもそうだよね。ただそんなに素直に言われるとはね。先週の意趣返し《いしゅがえし》かい?まぁ私に聞きたいことがあったらいつでも話しかけてもらっていいから、頑張ってね」

 彼女はそう言い残し自分の席へと戻っていった。先週の彼女とはどこか雰囲気が違うように感じたが最後の方は先週と同じように感じた。気のせいだったのだと思い、授業の準備をした。

 昼休みになり、俺は有間先輩を探していたが見つけることはできなかった。移動教室の際に教室を覗きに行ってみたりもしたが見当たらなかった。彼女の容姿は特に目立つため、見逃すことはないだろう。どうしていいのか悩みながらいるといつの間にか放課後になっていた。

「はあ」 

 何もいい考えが思いつかず自分の机で頭を抱えて居た。そこにクラスメイトが声をかけてきた。

「おい本条」

 声をかけてきたのは館本たてもとだった。こいつは特段強い訳でもないこの高校の陸上部でインターハイまで出場した逸材、容姿もいい方。他にも色々とあるんだろうが人気でスクールカーストの上の方の人物だろう。

「何だ?館本」

「なんかテニス部みたいな格好した女子が下駄箱の辺りでお前のこと呼んでたぞ」

「んな訳ねえだろ?俺をドッキリに嵌めても面白いことないぞ?」

「ドッキリじゃねえよ。それにお前をドッキリに掛けてやるほど暇じゃねえよ」

「だったら誰の差し金だ?」

「行きたく無かったら行くなよ じゃあな」

「おう わざわざ悪いな」

 館本はこちらを見返すことなく一回手を挙げ、教室を出て行った。館本が俺を騙す意味がないことはわかっていた。ただ嫌がらせ以外で俺を呼び出す女子に思い当たる節がなく、悶々としながら下駄箱のところまで行くことにした。

 警戒しながら様子を見てみる。数人の生徒が行き交ってはいるがテニス部のような服装の女子は見当たらず肩透かしを喰らい、教室に鞄を取りに戻ろうとすると

「こっちだよ」

 三年生の下駄箱の方から声がして見ると、手がこちらを手招いて居た。三年生で俺を呼び出す人物に思い当たる人物がおらず、恐る恐る近づいて行った。下駄箱の方を見るとユニホーム姿でテニス部がしていそうな帽子を深々と被り、顔が見えない女子がいた。

「ごめんね?こんなところに呼び出しちゃって、実は私陽子ちゃんの数少ない友達なんだ!」

 彼女の言葉に驚いた。有間先輩が誰かといるところを俺は見たことがなく、有間先輩の友人は探すことさえ諦めていた

「陽子って有間先輩の名前ですよね?なんか俺悪いとしちゃったんですか?」

「いや、君が何かしたっては聞いていないけど何かしたの?」

「実は朝、ちょうどこの辺りで有間先輩に声をかけたんですけど、全然こちらを見ることもなく歩いて行ったので何か悪い事をしてしまったのかなと」

「まあそんなにかしこまんなくてイイよ?後、朝の件は気にしてないと思うよ?何かコンタクトつけ忘れてて見えてなかったみたいなこと言ってたと思うから」

「それでも名前まで呼んで無視されたんですが」

「その話は置いといて、陽子ちゃんを口説く方法聞きたくない?」

 その申し出はとても嬉しいことだった。だが俺はまだ彼女の事を信用できておらず、有間先輩の友人というのが嘘であった場合、有間先輩を傷つける事を教えられる事も考えられる…

 俺が彼女の言葉に答えず考え込んでいると

「君は慎重な性格なんだね。大丈夫だよ。私は陽子ちゃんの味方だし、たぶん君の敵ではないよ」

 彼女の言い方に気掛かりはあった。

 1人で考え込んでいたが彼女の方をもう一度見てみる。相変わらず顔はよく見えないが悪い人ではないような気がした。

「それじゃあ、何で俺に声をかけたんですか?」

「君は陽子ちゃんと六人劇を成功させようと思ってるんでしょ?だから手を貸してあげようと思っただけだよ」

 彼女は嬉しそうにそう言った。その言葉は嘘には感じられなかった。

「すみません。疑っていました。有間先輩のことを教えてもらえませんか?」

「やっとその気になったかい?本条 奏太君。なら作戦会議を始めよう」




 


 

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