うちの夜猫普通じゃない


 誰もいない家に帰るのが淋しい。


 社会人になって、一人暮らしを始めて、気付いた時には三年。

 最初は仕事が忙しくって、そんなこと考える暇もなかったのに、ミスもしなくなって、気持ちに余裕ができた頃から、そんな感情が顔を覗かせるようになった。

 ご飯やお酒を一緒に楽しめる人もこっちにいるし、地元に残った友達ともよく連絡を取り合ってる。

 それでも、仕事が終わって、食事を終えて、帰ってくる時はいつも一人、部屋は真っ暗。

「……」

 地元に残る道もあったのに、外に出たのはやりたいことの為。

 自分が選んだ結果だけれども──淋しいものは淋しい。


 なので私は、夜猫を飼うことにした。


 最初は大きなぬいぐるみを買おうと、家から一番近い所にあるショッピングモールに向かったら、出入口の所にペットショップがあって、可愛いわんちゃんにゃんちゃんを見たくなって入ったら、お店の一番目立つ所に、大きなポスターが貼られているのが目に入った。

『夜猫、飼いませんか?』

 下の方にも長々と文章が書かれていたけれど、私のいる位置からはよく見えなかったから、近付いてよく読み込んでみる。

 夜猫、聞いたことがある。

 猫であるとも、妖精や妖怪の一種であるとも言われている不思議な存在で、その名前の通り、夜にしか姿を現さない。

 そういう特性から、日中ペットを残して仕事に出掛けるのが心苦しく心配で、飼いたくとも飼えないという人向けに、夜猫を家族としてすすめられることがよくある。

 日中は煙のように消えてしまう夜猫。ご飯の心配も、危ないことをする心配もしなくていい。

「……」

 住んでる所は、ペットを飼っても構わない。

 経済的にも、問題はない。

「……あ、の」

 気付いた時には、近くを通りかかった店員に声を掛けて、あれよあれよと、自宅に一緒に帰ってきていた。

 生後半年くらいだというその子に、私は■■■と名付けた。

 ■■■は可愛いだけでなく、とても賢い。どうしようもなく落ち込んでいる時、誰かに傷つけられた時、静かに傍に来てくれて、頭を擦り付けてきたり、ただ寄り添ってくれる。

 ■■■の存在は、私にとって何よりも救いだった。


◆◆◆


 それから、二年。

 ■■■は大きくなった。──予想以上に。

 ただ肥えただけとは説明できないサイズ。

 たまに犬と見間違える。

 ありえないくらいでかい。

 ここまで成長するものなのかと、あの時のペットショップに問い合わせたら、普通の夜猫は普通の猫のサイズにしか成長しないはずなのと、夜猫の生態についてまだまだ解明できてない点もあるので、もしかしたらたまたま■■■が変異種かなんかだったのかもしれないと。

 一応、メインクーンという種類もいるので、なんて説明もされ、電話を終えてから調べたらいくつか画像がヒットした。

 もふもふさんがいっぱいだ。

「まぁ、うちの子が一番だけど」

 スマホをほっぽって、傍にいた■■■を撫で上げる。

 気持ち良さそうに声を上げる彼女が可愛すぎて、撫でる手が止まらない。

 ■■■のいない人生とか考えられないくらい、私の日々は満ち足りたもので、そりゃ朝になれば消えてしまうからそこに淋しさを感じてしまうけれど、それでも、帰ってきた時、■■■はちゃんと待っててくれる。

 おかえりと言ってくれるから、それで全部帳消しだ。


「可愛い■■■に今日はとびっきり美味しいデザートがあるからね」

『それは猫が食べても大丈夫なやつかしら、夜花嬢』

「もちろん、私があなたに有害なものなんてあげるわけないでしょ?」

『さすが夜花嬢』


 ちなみに夜猫は、ごく稀に喋る個体もいるらしく。

 ■■■はそっちにも引っ掛かるらしい。

 可愛くてしょうがない、私の猫だ。

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