第2話【転生先からの強制イベント発生】

 ――ここは?


 真っ白な空間にいた筈の僕が気がつくと草原の大きな樹の下に寝転んでいた。


 辺りには人の気配もなく、町はおろか村さえも何処にあるか分からない場所だった。


 とりあえず自分の体を確認するが生前と同じ肉体だと分かり安堵する。


「本当に元の肉体なんだな。でも、この体はあの女性が僕の記憶から再現したものなんだよな。

 全く理解が追いつかない事ばかりだよ」


 僕は体の確認をした後、あの女性が言っていた事を思い出し、持ち物の確認を始めた。


 しかし、鞄がある訳でもなく袋もある訳ない状態で持ち物なんてある筈が無かった。


「ん? 何だこれ?」


 その時、服のポケットから一枚のカードが転がり落ちたのでそれを拾い上げた瞬間、様々な情報が頭の中にインストールされるかのように流れていった。


「なるほど。そう言う事だったのか……。アイテムボックス」


 僕が単語を唱えると何もない空間に手を突っ込んでパンを取り出した。


「うわぁ めっちゃ便利だな」


 僕はひとりで感心しながらパンをかじり、他に使える道具や能力スキルが無いか片っ端から確認していった。


 それにより分かった事は、職業は『治癒士』で、どんな怪我や病気も治療出来る事。

 但し、治療条件に縛りが多数ある事などが記されていた。


「さて、これからどうするかな。とりあえずどこかの町か村にでもたどり着かないとずっと野宿生活を送らないといけなくなるし……」


 僕はそう呟くと辺りの散策を始めた。


「おお! 道がある!」


 ものの数分歩いた時には馬車が通れそうな程の道に辿り着いていた。


「僕ってもしかして意外と運が良いのか? それとも道を発見出来るのが当然の流れなのか?」


 当然ながら反対方向に進んでいれば道に辿り着いてはいない筈なので僕は運が良かったのだろうと気分を良くしていた。


「これで運良く馬車でも通りかかってくれればな……」


(ゲームなどでは強制イベント的に無理矢理エンカウントするのがお約束だが、これは異世界とはいえ現実の世界だ。

 そんな都合の良い事なんてある訳な……⁉)


 道の真ん中に立って思いを巡らせていると、唐突に馬車が通りかかった。


「こんな所でどうされたのですかな? 見たところ旅人の装いでは無さそうですが……」


 僕の前に止まった馬車の御者が声をかけてくれた。


「はい。気がついたらこの近くで倒れていたんです。ここは何処なんですか?」


 僕の言葉に驚いて馬車に乗っている人物に話を通すのを眺めながらどう説明すれば良いかと考えていた。

 やがて、話がついたらしく御者の男が僕に聞いてきた。


「この近くと言いましたね? それは大きな樹が立っている場所ですかな?」


「はい。あの場所を知っているのてすか?」


「あの樹はこの辺りでは有名な神木で過去にも記憶の曖昧な旅人が保護された事があるのですよ。

 言い伝えによると『神界と繋がっている場所』とも言われています」


 御者の男の話が続く。


「そう言った経緯もありますのであなたのような方と出会った際は町にお連れする事になっているのですがご同行頂けますかな?」


 御者の男は丁寧な言葉ではあるが拒否の出来ないプレッシャーをかけて来た。


(ああ、これは強制イベントだな……。

 あの女性の仕業なんだろうな。

 まあどっちにしてもこの馬車に乗らなければ延々と道を歩いて行かなければならないだろうから乗るしか選択肢はないんだけど)


「本当ですか! いやぁ助かります。

 こんな所に置いて行かれたら町に辿り着くまでに遭難してしまいそうですから」


 僕は意図的に何も分からない旅人のフリをして馬車に同乗する事になった。

 馬車には夫婦と見られる男女とその娘であろう少女がいた。


「同乗させて頂きありがとうございます」


 僕はそうお礼を言って馬車に搭乗すると馬車は静かに走り出した。


「お名前を聞いてもよろしいかな?」


 馬車が走り出してからすぐに人の良さそうな顔をした男性が声をかけてきた。


「ナオキといいます」


「ナオキ殿ですね、良い名前だ。それでナオキ殿はどのような職種を生業にされているのですかな?」


(ナオキの名前が良い名前かどうかは知らないが、グイグイと情報を引き出そうとする人だな。

 まあ嘘をついても意味がないから正直にいくか……)


「職種は治癒士になります。ただ……」


「ただ? どうされましたかな?」


 僕は少しだけ躊躇ためらったが続けた。


「女性限定の治癒士なのです」


「ほう、治癒士という職業は初めて聞きましたが治癒をするということは薬師のようなものですかな?

 それに女性限定とは変わってますな。どうして女性限定なのかお聞きしてもよろしいですかな?」


「はい。治療の効果を最大限活かす為に多くの制約を課しているのです。そのひとつに女性限定があるのです」


 真面目な顔で言う僕に何故か引き気味の男性。


「そ、そうですか。さぞかし優秀な腕前なのでしょうな。いや、色々質問してすまなかった。もし、町で仕事を探すならば斡旋ギルドがあるのでそこで仕事を紹介してもらえば良いだろう」


(やはり強制イベントだな。町への強制移動と仕事の斡旋情報の提供イベントか……)


「大変貴重な情報をありがとうございました。町に着いたら早速行ってみる事にします」


 その後はありきたりな話をするだけで特に重要な話は聞けなかった。

 馬車の窓から見える外の空が夕日に染まる頃、馬車の目的地である町に到着した。

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