数多一念 時の旅

英 金瓶

第1話 プロローグ:令和

 チリチリと肌に焼け付く紫外線。

ジージーと耳を劈く蝉の声が、夏の日差しを灼熱に変える。


 いったいどれほど、僕はここで気を失っていたのだろう。


焼けついてヒリヒリする腕と、カサカサに塩吹いたTシャツが、長い間玄関先で気を失っていたことを証明している。


「喉、渇いたなー。」


干からびた肉体を力の限りに持ち上げて、視界の端に映るドアノブまで手を伸ばす。


「!ぎゃっ!!」


上体を引き上げようとしたその時、後頭部から背骨にかけてバッキバキにぶっ壊されたような激しい痛みが走った。


「あ・・ぁあ・・・。」


息ができない。


のた打ち回りたいほどの痛み。


だが、動けばまた襲ってくる激痛に怯え、ゆっくりと体を元の位置に戻す。

これでは動くことすらままならない。


「ふーっ・・・ふーっ・・・。」


乱れた呼吸を整え、目を閉じる。


 なにが起きたんだ?


朦朧とした意識の中、ジージーと唸る蝉の声は、やがてゾワゾワとくぐもったノイズに変わり、一念いちねんの耳に爪痕を残す。


「帰りたいょ・・・。」


一念は渇ききった嗄れ声でそう呟き、また暗闇へと落ちていった。


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