24枚目 興味本位

恐ろしいものを見ちまった。

トモルは口をパクパクさせながら、繰り返し呟くだけであった。


ドコドコドタンッッッ!!!

と、階段から重たい物でも転がり落ちた音がした。


「っわ!何かしら…ちょっとあんた達ー?またオモチャ落としたんじゃないでしょうねー!?」


2階で遊ばせていた幼い兄妹に声をかける。

下の階で昼食の皿洗いをしていた母親は、その音の在り方を確認しようと台所の蛇口を閉めた。


「もぅ、壁が傷つくでしょ。え…ひぃっっ……!」


義母が、廊下で頭から血を流して倒れてるではないか。


「お義母さん…?…きゅ、きゅ、救急車ぁぁああああああぁっっ!!!」


恐る恐る、肩を揺すってみるが返事も起き上がろうともしない。

母親は取り乱しながら固定電話の受話器をあげる。プッシュボタンを何回も押し間違えている所から、相当なパニック状態なのが伺える。


「あっ!あの、きゅ、えぇと、救急車!早く!救急車お願いします…!

あ!え、えと、住所は…」


そんな事をしてる間も、頭部からは容赦なく血が溢れ出してくる。

乱暴に受話器を下ろし、絶叫しながら家中の布巾やバスタオルを搔き集める。

よもや吸い取れれば何でも良い。トイレットペーパーやティッシュも箱から

取り出され、赤い湖に放り投げられる。

無論、トモルも例外では無かった。

不幸にも、平日のため旦那は会社だ。自分が何とかしなければ。

10分ほどで救急車が到着し、義母は担架で運ばれた。ご近所さんもサイレンの音を聞いたのだろう、家の前に野次馬ができていた。

と、ここでようやく気がつく。


「あ、あんた達ぃ!!いい加減下りて来なさい!!お、お婆ちゃんが!!!」


テコテコと呑気に、仲良く手を繋いで1階に下りて来た兄妹。

この状況を理解させるのに、彼らはまだ幼すぎた。



「申し訳ございません。お婆様は残念ながら…高齢でしたから、階段を降りる際に誤って足を滑らせてしまったんでしょう。」


駆け込まれた大学病院の担当者は俯き、母親に説明するのであった。

足腰の運動のためにという本人からの強い希望で、2階に部屋を用意した。

少し考えれば、危険性が高いことは分かりきっていたのに。

なぜ義母は階段を踏み外さないと思ってしまったのか。

母は、家族を守る資格が無いと自分を責める。

絶望と突発的なショックで耳鳴りでもしてるようだ。

初めての病院にテンションが上がり、鬼ごっこをする2人の我が子の声もまるで

聞こえなかった。


「恐ろしいものを見ちまった…」


トモルは真っ赤になったゴミ箱で何度もそう呟くのだった。



・死因:溺死

・来世:色鉛筆(赤)

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