断る理由と杞憂

 

 アレスから告白されて1月。


 毎日のように告白されて、やんわりと断っているのですが一向に諦める気配がありません。毎回断りを入れるのが少し面倒になってきました。


 断っているのはアレスの事が嫌いという訳ではないのです。


 アレスは好青年ですし、気遣いは出来る方です。まあ、最近の態度を見るとわかり辛いですけれどね。

 ただ、私の立場を考えるとそう簡単に受け入れることは出来ないのです。


 現状、私はグレシア辺境伯様に保護されている立場ですが、まだガーレット国に所属している身です。オグラン侯爵家の籍からも抜けていない状態で、安易に他国であるアレンシア王国の貴族であるアレスと婚姻する訳にはいかないのです。


 婚約であれば出来なくはないかもしれませんけれど、それでもグレシア辺境伯家に対するガーレット国の印象が悪くなる可能性が高いです。ただでさえ、ガーレット国と接している土地を収めているグレシア辺境伯家にとって、後々の事を考慮するとリスクの高い行動です。



「レミリア。アレスからも話しは聞いているが、君の考えを聞かせてくれないか」


 夕食の後、グレシア辺境伯様に呼び出されてアレスとの話について聞かれています。

 アレスが最初に言い出してから1月経ちましたし、伝わっているのはおかしなことではありませんが、むしろどうして今まで話を聞きに来なかったのかが疑問です。


 基本的に息子のあれこれについて辺境伯様は放任しているのかと思っていたのですが、こうやって聞き出そうとしてくるという事は放任していた訳ではないという事でしょうか。


「最初に言っておくが、別にアレスの提案を後押ししたい訳ではない。君たちの周囲から話を聞いてみたところ、腑に落ちない部分があったからこうやって聞いているだけだ」

「そうですか」

「ああ、それで何だが、レミリアがアレスの事をどう思っているのか聞いて良いだろうか」

「アレスの事をどう思っているか……ですか?」


 真っ先に婚姻について聞かれると思っていたのですが、本当にアレスの後押しをするつもりが無いのでしょうか? いえ、どう思っているかの確認をしているのですから、していないという訳でもないでしょう。


「どう思っているか、ですか。……そうですね、悪くはないとは思います。何かと気遣って貰えていますからいい方だとは思いますので。ただ、最近はちょっとくどいと言いますか、それさえなければ好青年だと思います」

「まあ、そうだろうな。最近のアレスの行動には問題があるのは認める」

「良くないと思うところはそれくらいでしょうか。少なくとも私が今まで会ったことのある同年代では一番好ましい方ではありますね」


 まあ、同年代で私が会ったことのある異性はそれほど多くはないので、比較できる対象の少ない中で、ですけれど。


 

 私の言葉を聞いてグレシア辺境伯様は少し考え込むようにやや下に視線をずらして黙り込みました。そして数秒そうしていたところでスッと視線を上げました。


「アレスの事を嫌っている訳ではないのはわかった。まあ、レミリアがアレスの事を嫌っていないのは、周囲の話を聞いている中で凡そわかってはいたのだが」

「そうですか」

「ああ、それでアレスの提案を受け入れない理由は何だ? いや、安易に受け入れられる物ではないのはわかっている。ただ、一考もせずに断りを入れているのが腑に落ちないのだ」


 ああ、そういうことですか。好き合っているかどうかはさておき、嫌がっている様子は無いのに一切受け入れる気配が無いのが疑問だったという事ですか。

 あれ? でもこの質問って、アレスの事を後押ししているのと同じなのでは?


 いえ、辺境伯様の考えがどうあれ、受け入れられない理由を隠す必要もありませんから、そのままを伝えても問題はないでしょう。



「なるほど、それが理由か。ふむ」


 私が理由を話し終わると、辺境伯様は納得したような安堵したような表情をうっすらと浮かべました。


「レミリアが気にしていることはわかった。確かに君はガーレット国が簡単に手放すような存在ではない。君は瀕死の怪我をも容易く治せるほどの回復魔法を使えるし、もと第1・2王子の婚約者でもあった。安易に他国の貴族の婚約者になるのは問題になりかねないのも事実だな。

 しかし、君自身が他国に逃げ出すくらいには国の状況が悪い上、ガーレット国側は君を軽んじているのは見て取れる。それに君は自分の意志で国を出ている。また、一貴族が他国の貴族と婚約及び婚約を結ぶのに、国が口を出すものではない」

「あの、どういう事でしょうか?」


 何となく、気にしすぎているといった感じに聞き取れたのですが、そのままの意味で受け取っていいのかわりませんね。


「要するに、君が気にしていることはどうとでもなるので気にしなくていいという事だ。それにガーレット国での君の立場は現状白紙状態だ。故に、一般的な貴族と同じように婚姻については自由にしても問題はないはずだ。さすがに敵対国に嫁ぐのは駄目だろうが、隣国且つ友好国であるアレンシア王国の貴族が相手なら問題はないだろう」

「そうですか」


 言われてみれば確かに私は役職に就いていた訳ではありませんし、国を出る直前まで第2王子の婚約者というだけでしたね。

 私に求められていたのは王子と婚姻して国内に留まる事でしたから、王子と婚姻できなくなった以上、国内に留まる必要もないのです。まあ、私を国内に留めるために王子と婚約させていたようでしたので、今の状態は私と王子の婚約を決めた当時のガーレット国にとっては想定外なのでしょうけど。


「まあ、アレスと婚約するのであれば、問題が起きてもこちらで対処することは出来る」


 ああ、婚約して身内扱いできる状態ならまだしも、保護されているだけの状態だと対処は難しいという事ですか。


「とりあえず、アレスの事はこれから少しでも考えてくれると嬉しい。これは父親としての気持ちだ」


 辺境伯としてはしないけれど、父親としては後押しする気があるということですか。


 さて、アレスと婚約する分には問題はないとの事ですが、どうしましょうか。

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