辺境伯軍で回復士をしよう 

 

 まあ、聖女と呼ばれなくなったことで、性格が真面な第1王子の婚約者から第2王子の婚約者になったのは嫌でしたが、リーシャの策略でそれもなくなったので良かったです。ただ、その後の事を考えればよくはなかったのですけれど。


「いえ、第2王子の婚約者は正直嫌だったので、むしろありがたかったのですけどね。ただ、その後の状況が……」

「まあ、確かにこちらに聞こえて来る声だけでも、あの王子に問題があることはよくわかる。それは同意できるな。しかし、婚約者から外した後になんの保証もないとは、レミリアが軽く見られている証拠ではないか」

「いきなり決まったことですから、その保証なりを決める時間もなかったのだと思います。もしかしたらリーシャから何か提案されていたのかもしれませんけれど」


 あのリーシャの態度からして、かもしれない、ではなく、確実に何かを言っていたでしょうね。


「王族関係の話はおおよそ理解した。それでオグラン侯爵家についてだが」

「早々に逃げ出したので正確な情報は無いのですけれど、確実に私を屋敷から出さないように使用人の配置が変更されたことは確かですね。その後にどうするつもりだったのかはわかりません。ですが、確実にリーシャが関わっているようでしたので……」

「ああ、昔からあれがレミリアに害意を向けていたからな。どうして同じ環境で育ったというのに、ああも性格が歪んだのか」

「まあ、リーシャにも色々あったのですよ」


 リーシャのあの性格は元からという訳ではないのですよね。

 幼い時は明るく嫌味の無い天真爛漫と言える性格だったのですけれど、私が聖女と呼ばれるようになってから段々と歪んでしまったのです。


 その理由は正確には分かりませんが、おそらく私と比較され続けたことが大きいのでしょう。


 私が第1王子の婚約者になったばかりのころ、私の事を聖女と言って祭り上げるために、こちらの意も介せず周囲の方たちが色々な方と私を比較していました。その中にリーシャも居たのです。


 当然、その比較は私を上げるための物ですから、相手の劣っている部分が上げられることが多いです。リーシャの場合は姉妹、ということもあって殆どの能力を比較されました。


 当たり前ですが、私とリーシャの歳は2つ離れていますし、当然その差は能力の差に繋がります。


 だから、その差を比較されても劣っているのは当然なのです。しかし、リーシャはそれを真に受けてしまったのでしょう。それに幼さもあったでしょうけれど、一部の方たちが私の競争相手になるように煽っていた、という話も聞いたことがあります。


 だからリーシャが私を嫌っていることも理解できます。ただ、私を追い越すために努力をするのではなく、私を蹴落とすために努力しているのが駄目なのですけれどね。



 

 私が危機感を持ったことについて出来るだけ詳しく説明したところ、辺境伯様は少し呆れたような表情をしました。


「オグラン侯爵家の事情はよくわからないが、レミリアが言ったことが正しければ、確かに不自然だな。リーシャが第2王子の婚約者となったのだから、リーシャの周囲に使用人が増えるのならわかる。

 しかし、実際に増えたのはレミリアの周囲。姉妹が王族入りすることが確定したことで護衛を増やしたとなれば、使用人ではなく騎士の方が増えるのが普通だし、レミリアへ話が通っていないのも変だな」


 そうですね。確かに何も裏が無ければ私にその旨が伝えられているものです。それが無かったという事は、やはり裏に何かがあったのでしょう。


「わかった。これまでの顛末がすべてわかった訳ではないが、不自然な点が多すぎる。これではレミリアが逃げ出したのもわからなくはない。はっきりしていないところがあるから多少理由として弱いが、保護する理由として最低限は満たしているだろう」

「それは、よかったです」


 これで当面はここで過ごすことは出来ますね。おそらく保護するには理由足りないとなっても、グレシア辺境伯様はある程度は匿ってくれるでしょう。それでも保護するにあたるか否かの違いは、立場を考えれば雲泥の差なのです。


「それで、これからの事だが」

「はい」


 何もしない訳にはいきません。私がここで出来ることとなればかなり数は少ないですね。


「数日は休養に充てていい。だが、その後は何かをしてもらった方が他の者に対する印象は良いだろうな」

「そうですね。ただ、私に出来ることはそれほどないのですけれど」


 一応、王子の婚約者として長年教育されていたので、社交でしたらそれなりに出来るのですけれど、実務となると微妙なのです。その辺りの教育はまだされていませんでしたから。


「いや、あるでしょ?」

「え?」


 私がどうするか、と悩んでいる所でアレスが話に入ってきました。


「回復魔法。うちの軍に回復魔法がちゃんと使える回復士はいないから、出来れば来て欲しいのだけど」


 事務仕事か、使用人のような仕事をすればいいかしら、と思っていたのですけれど、たしかにそれの方が良いのかもしれませんね。ずっと室内にいるよりもそこまで気を使わなくて良さそうですし。私の特技が活かせるのは良いと思います。


「ああ、そうだろうな。レミリアがそれでいいのならそうしてくれると助かる」


 辺境拍様もアレスの提案に同意するようですね。何故か、作られた流れのように感じますが、私としては問題ありませんしからね。


「私はそれで構いません」

「なら、それで決定だな。いつから行くかは、追って知らせる」

「ありがとうございます」


 行くにしても調整は必要ですよね。さすがに明日から、というのは無理でしょう。


 そうして、私はグレシア辺境伯領の軍属の回復士として、これから過ごすことになりました。

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